レッドチーム演習とは? 実施しないと訴訟で「動かぬ証拠」になるリスク:訴訟リスクを回避するための武器にも
2026年3月開催のRSA Conference 2026で、レッドチーム演習が法的標準へ進化しつつあるとの認識が共有された。これからレッドチーム演習を実施する企業は何に注意すればいいのか。
「レッドチーム演習は単なる技術的な試験ではなくなりつつある」。2026年3月に開催されたセキュリティカンファレンスRSA Conference(RSAC)2026のパネルディスカッションで共有された考えだ。レッドチーム演習が急速に「法的標準」へと進化しており、不備があれば訴訟や規制対応で致命的な「動かぬ証拠」になり得るとの指摘が相次いだ。本稿では、人工知能(AI)の台頭で複雑化する攻撃への備えと、法務部門と連携した「守りの固め方」を整理する。
セキュリティの新常識、レッドチーム演習とは?
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レッドチーム演習とは、実際の攻撃者の手法を模倣して自社システムの弱点を洗い出す、疑似攻撃による社内セキュリティ演習のことだ。「レッドチーム演習は必ずしも法律で義務付けられている訳ではない。しかし、セキュリティの標準的必須対策になりつつある」。これは、RSAC 2026のセッションでレッドチーム演習の法的側面に焦点を当てたパネリストたちの共通認識だ。The CISO Law Firmのパートナー、スコット・ジョルダーノ氏は「レッドチーム演習は情報セキュリティの必須科目として浮上しており、急速に法的標準になりつつある」と指摘する。
「法的な観点では『結果』が重要であり、『善意』に意味はない」。LenovoやMotorolaなどで顧問を務めてきた弁護士のデイビッド・パタリアウ氏はこう語る。CISO(最高情報セキュリティ責任者)は、規制当局や取締役会が自社のセキュリティプログラムやテストの実践をどのように評価するかを自問できるようにしておくべきだという。具体的に何をしたのか「文書を見せなさい」「これらの問題にどう取り組んだのか証明しなさい」と要求する、とパタリアウ氏は強調する。
セキュリティベンダーCrowdStrikeのレッドチームスペシャリスト、ジョーイ・メロ氏によれば、疑似攻撃による演習は推奨されるだけでなく、必要なものになりつつある。規制当局や保険会社が今後、企業でこの種のテスト実施をますます要求するようになると同氏は予測している。
テスターと弁護士が連携すべき理由
レッドチーム演習に予算を投じるのであれば、検討すべき多くの事項がある。その1つが、テスト結果に「弁護士やクライアント間の秘匿特権」を適用すべきかどうかだ。
「レッドチーム演習の記録は訴訟の際に開示の対象になる可能性がある」。セキュリティコンサルティング企業Cyber Risk Opportunitiesの創設者で、非常勤CISOを務めるキップ・ボイル氏はこう警告する。「この点をあいまいにしてはいけない。演習の結果をメールする際に、宛先に弁護士を含めるだけでは、特権は適用されない」
ボイル氏は、レッドチーム演習で発見された脆弱(ぜいじゃく)性で、企業が「対策を講じない」と判断した場合、秘匿特権が特に重要になると指摘する。その判断の詳細が、訴訟の結果を左右する要素になりかねないからだ。
パタリアウ氏が強調するのは「準備」の重要性だ。演習を実施した際に発見した脆弱性を放置したといった場合、後から秘匿特権を主張しても通用しない。秘匿特権を適用させるためには、演習前から企業が委託している弁護士などを巻き込んでおくことが必要だ。
パネリストたちは、正式な演習プログラムを策定することの意義も強調した。それが、企業が合理的なセキュリティ上の予防措置を講じているかどうかを判断する根拠になるからだ。敵対的テストのプロセスを文書化している企業は、規制当局による調査や訴訟に直面しても、有利な立場に立つことが可能だ。
AI時代のテストは一線を画す
AIエージェントの普及により、攻撃対象領域(アタックサーフェス)は拡大し続けている。レッドチーム演習を実施する場合、AIモデル自体のテストだけでなく、そのAIが次にどのようなアクションを起こすかをテストすることも重要だ。
AIエージェントがタスク遂行中に起こし得る有害な行動にも注意が必要だ。「単に出力を見るだけとは全く違う」。パタリアウ氏はこう話す。「『それもテストするの?』と思うだろうが、答えはもちろん必要だ」
2025年には、「バイブコーディングエージェント」が本番環境のデータベースを削除するインシデントが発生した。こうしたリスクは新しいものだが、決して予見不可能なものではない。AIエージェントにメールの操作を許可したところ、全メールを削除してしまったという話もあるという。
演習を実施したことを証明できないと、セキュリティ運用が不十分な企業であると思われる可能性もある。演習の証明になるのがレポートだが、レポートを作成するのはレッドチームだ。「レッドチームを雇うなら、レポートの内容を確認しておく必要がある。可能であればサンプルを取り寄せてほしい」。メロ氏はこう助言する。当局や規制当局から質問攻めにあった際、演習で発見した内容をどのように伝達できるかが鍵を握るからだ。
AIモデルは「ユーザーの役に立とう」とする性質があり、可能な限り回答するよう設計されている。つまり、不適切な要求であっても「ノー」と言いにくい。メロ氏は、この実態があるからこそ、AIに標準実装されているガードレール(防御柵)だけでは不十分であり、レッドチーム演習の重要性がかつてないほど高まっていると説明する。
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