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生成AIテストの「世界標準」構築へ シンガポールが提唱するISO新規格の正体信頼性確保の枠組みを標準化へ

シンガポール政府は、AIシステムのテスト手法を国際的に統一する新規格「ISO/IEC 42119-8」を提案した。同規格を設置する目的と、企業が把握しておくべき情報を紹介する。

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 シンガポールのInfocomm Media Development Authority(IMDA、シンガポール情報通信メディア開発庁)は、安全で信頼性の高い人工知能(AI)システムの運用に向けて、AIシステムのテスト手法を世界的に統一する新たな規格を提案した。

 IMDAが起案した規格「ISO/IEC 42119-8」は、2026年4月にシンガポールで開催されるAI標準化についての国際会議、ISO/IEC JTC 1/SC 42(国際標準化機構<ISO>及び国際電気標準会議<IEC>の合同専門委員会<JTC1>のAIに関する分科委員会<SC42>)で議論される。

 ISO/IEC JTC 1/SC 42はIMDAとシンガポール企業庁(EnterpriseSG)の共催。日本、米国、英国、中国、ドイツ、フランス、韓国など、35以上の国家機関から250人を超えるAI専門家が集結する。

「ISO/IEC 42119-8」の特徴は?

 「ISO/IEC 42119-8」は、ベンチマーク手法とレッドチーム演習手法の標準化に重点を置いている。レッドチーム演習とは、実際の攻撃者の手法を模倣してシステムの弱点を洗い出す、疑似攻撃によるセキュリティ演習のことだ。演習を通じて、AIシステムの欠陥や脆弱(ぜいじゃく)性を明らかにする。特徴を以下に詳述する。

1.AIシステムの「テスト方法」そのものを標準化

 出力の正確性だけでなく、有害な出力を抑制できているか、出力の再現性や一貫性といった観点で、検証手順を標準化する。

2.さまざまなAIシステムに対応

 従来、AIシステムの質を評価する際、対象となっていたのは単一タスクが中心だった。一方「ISO/IEC 42119-8」は、テキスト、画像、音声などを扱う「マルチモーダルAI」やAIエージェントも対象としている。

3.国際比較・規制との連続性を意識

 各国のAI規制に関する法律やガイドラインとの連続性を意識した構成となっているのも特徴だ。さらに、企業がAIを導入・運用する際のガバナンスを支える用途を意識している。

 具体的には、ベンダーごとに異なっていた評価基準を共通化することで、製品同士を同じ条件・同じ指標で比較できるようにし、選定の妥当性を説明可能にする狙いがある。あらかじめ定められた手順に基づいてAIの安全性や信頼性を検証し、その結果を記録・提示できるようにすることで、企業がリスク評価を適切に実施していることを監査や内部統制の場面で示せるようにする。つまりこの規格は、AIを「使う」ための技術基盤というよりも、「なぜそのAIを選び、どのように安全性を担保しているのか」を説明するための枠組みとして設計されている。

 今回の枠組みは、シンガポール政府が推進してきた「AI Verify Toolkit」(AIシステムの責任ある運用を検証するためのフレームワーク)や、「Global AI Assurance Sandbox」(AIエージェントの実運用を検証するためのサンドボックス)といったAIガバナンス促進の仕組みを基盤としている。

チャンギ空港が示すガバナンスの先例

 2026年4月20日の開会演説で、IMDAの最高経営責任者、ンー・チェポン氏は、同国の企業が積極的にAIガバナンスに取り組んでいる事例にも触れた。Singapore Changi Airport(シンガポールチャンギ国際空港)の運営企業であるChangi Airport Group(チャンギ空港グループ、CAG)は、AIマネジメントシステム(AIMS)の国際規格である「ISO/IEC 42001」の認証をシンガポール企業として初めて取得した。

地域や文化の多様性に配慮できる規格に

 ンー氏は、AIテストの標準化を緊急に整備する必要性も強調した。「AIテストの標準規格の構築に猶予はない。AIの変化の速さに置き去りにされ、規格そのものが無意味になるリスクがある」(同氏)

 標準規格を「相互運用性、一貫性、そして大規模な信頼を可能にする静かなインフラ」と定義している。これが国境を越えた新技術の導入と普及を後押しするという考えだ。

 ンー氏は、「ISO/IEC 42119-8」は技術の進歩に追随するだけでなく、地域の多様性にも配慮すべきだと指摘した。「規格は標準であるだけでなく、包摂的な存在である必要がある。業種や利用法だけでなく、言語や文化にも配慮したものでなければならない」と述べ、ASEANのような多様性に富んだ地域が標準化プロセスに参加することの重要性を説いた。

 ASEAN加盟国間の格差を埋めるため、シンガポールは、米国国家規格協会(ANSI)と提携した。ASEAN加盟国向けに国際AI標準についての能力構築ワークショップを実施し、各国の管轄区域で行動計画を策定できるよう支援している。

 シンガポールは、今回の全体会議の他にも「AI Assurance Exchange」などのイベントを主催している。ここでは世界の政策立案者や業界リーダーが集まり、AI標準を実際のビジネス現場にどう適用するかについて議論が交わされている。

 これら一連の取り組みは、シンガポールが掲げる「信頼できるAIエコシステム」の構築という広範なコミットメントの一環だ。同国は、国立AIセーフティ研究所(AISI:The Singapore AI Safety Institute)の設立や、ASEANのAIガバナンス作業部会でリーダーシップを発揮している。

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