なぜ情シスに「T型人材」の視点が必要か Google Cloud AIディレクターの提言:キャリア後半で直面する壁
情シスは、キャリアを重ねるほど「技術力だけでは評価されにくい」という課題に直面する。Google Cloud AIのアディ・オスマニ氏の提言を基に、情シスに求められる「T型人材」の重要性を紹介する。
情報システム部門(情シス)の仕事は、技術を扱う仕事だ。だが、キャリアを重ねるほど、多くの人がある壁にぶつかる。「技術力だけでは評価されにくい」という壁だ。
若手の頃は、障害を解決できる、スクリプトを書ける、クラウドの構成を設計できる、といった“技術の実行力”が評価されやすい。しかし、シニア層になると求められるものは変化する。
Google Cloud AIディレクターのアディ・オスマニ氏は自身の動画で、エンジニアに対して、「クリーンで効率的なコードを書く能力は依然として重要だが、それだけでは大きなインパクトを生めなくなる」と指摘している。このメッセージは情シス担当者にも当てはまる。例えば、Microsoft 365の運用に詳しい、ゼロトラストに強い、ネットワーク設計ができる――こうした専門性は重要だ。しかし、企業ITが複雑化した現在、それだけでは組織を動かせない。なぜなら、情シスの仕事は「技術だけ」で完結しないからだ。そこで重要になるのが、「T型人材」という考え方だ。
T型人材の視点が必要になる理由
情シスは、経営層との調整、現場部門との衝突、ベンダー管理、セキュリティと利便性のバランス、予算説明、監査対応など、常に複数の利害関係者の間に立たされる。
動画では、「forループを書くのが得意でも、ステークホルダーへのメールが得意とは限らない」と表現している。
これは情シスにとって象徴的な話だ。技術的には正しい。しかし、組織を動かせない。その状態に陥る人は少なくない。
T型人材とは、1つの専門領域を深く持ちながら、周辺領域にも広い理解を持つ人材を指す。
Tの縦棒は「深さ」だ。例えば、アイデンティティー管理、クラウド基盤、セキュリティ運用、ERP運用など、自分が強みを持つ領域である。
一方、横棒は「広さ」だ。自分の専門外でも、「どうつながっているか」を理解している状態を指す。データベースやCI/CDの専門家ではなくても、「どう機能し、どう連携しているかを理解すること」がT型人材のポイントだ。
これは情シスでも極めて重要だ。例えば、セキュリティだけに強い人は、「安全性」を最優先にし過ぎる可能性がある。その結果、現場業務が回らなくなることもある。
逆に、利便性ばかりを重視すると、統制は後回しになる。オスマニ氏はこのような状態を、「1つの場所の問題を解決した結果、別の場所にさらに大きな問題を作ってしまう」と説明する。
そこで情シスに必要となるのが、「システム全体を見る視点」だ。事業部門は何を求めているのか。経営層は何を恐れているのか。監査部門はどこを見るのか。クラウドコストはどう増えるのか。こうした全体像を理解できる人ほど、重要な意思決定に関わることができるようになる。
T型人材として重要なポイントとして、オスマニ氏は「単なる実装者にならないこと」も挙げている。
情シスでも、要求に対して「できません」と返すだけの存在になると、組織内で孤立する恐れがある。例えば、「このSaaSを導入したい」という現場からの要望に対して、「セキュリティ上無理です」とだけ返せば、情シスは“止める部門”になる。しかし、組織に価値をもたらすことができるのは、代替案を提示できる情シスだ。重要なのは、「別の方法なら実現できます」と提案することだ。
さらに「権限がなくても影響力を持てるか」も重要だ。一般的な情シスは、他部門に部門として命令を下しにくい性質を持つ。それでも、経営層や現場、セキュリティ担当、ベンダーを動かさなければならない。そのためには、相手の立場を理解する必要がある。
オスマニ氏はエンジニアに対するメッセージとして、「プロダクトマネジャーは締め切りを気にし、デザイナーは体験を重視し、技術責任者は技術的負債を心配している」と説明している。この考え方は、情シスにも当てはまる。経営層はシステムや製品のコストとリスクを監視し、現場は使いやすさを見る。監査は統制を見る。そこで情シスは、相手の立場ごとに説明を変えられるようにすることで、組織を動かせるようになる。
オスマニ氏は最後に、「自分の価値を見える化すること」の重要性を説く。
上司との関係構築や、問題を先回りして共有する重要性にも触れている。これは情シスにとって特に重要だ。
情シスは、発生し得る問題を未然に防ぐ役割も担っている。「障害を未然に防いだ」「セキュリティ事故を回避した」「監査のリスクを減らした」といった成果は、見えにくい。その結果、「何も起きなかった」と思われやすい。
だからこそ、「何を防いだのか」「なぜこの投資が必要なのか」を説明できることが重要だ。
つまり、情シスとしてキャリアを伸ばせる人は、「技術に詳しい」だけではない。深い専門性を持ちながら、全体を理解し、他部門と協力し、組織を動かせる人だ。
それは単なる“社内IT担当”ではなく、「組織の意思決定を支える存在」へ変わることを意味している。
本稿は、2025年12月12日に公開された「How to become a "T-shaped" software engineer」を記事化したものです。
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