ログインの”手間”で約7割が離脱 認証の摩擦がビジネスを蝕む:タレス調査
生成AIの導入が加速する一方で、企業への信頼が追い付かない実態が浮き彫りとなった。ビジネス成長とセキュリティを両立させるために、情シス部門が今すぐ見直すべき認証基盤の在り方を解説する。
利便性を優先しセキュリティを緩めるか、安全を期してユーザーに不便を強いるか。この板挟みに悩む情シス部門に冷徹なデータが突きつけられた。ログイン時のわずかな遅延や権限付与の滞りが、顧客の68%を競合へ逃し、現場の6割以上に「ID使い回し」という禁じ手を選ばせている実態が浮き彫りになった。
企業の9割以上が生成AI導入に突き進む中、置いてけぼりにされた「デジタル信頼」をどう再構築すべきか。ビジネス成長を阻む真のボトルネックと、信頼獲得への最短ルートを明らかにする。
AI導入は93%に達するも、消費者の信頼は23%
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タレスは世界13業種、消費者1万4300人、パートナーユーザー1300人、IT意思決定者200人の計1万5800人を対象に実施した調査「2026年 消費者デジタル信頼指数」の結果を発表した。
同調査によると、IT意思決定者の93%が生成AIを「既に利用している」「導入を進めている」「導入を計画している」と回答し、企業側でAI活用が急速に浸透していることが分かった。しかし、その一方で「自分たちのデータにAIが活用されることに企業が責任を持っている」と信頼している消費者は23%にとどまっている。
さらに、消費者の77%がAIエージェントが自分に代わって行動することに不安を感じている。企業のAI活用意欲と消費者の信頼感との間に、大きな乖離(かいり)が生じている。
認証プロセスの「摩擦」が68%の顧客離脱を誘発
消費者がデジタルサービスの信頼性を判断する重要な接点となっているのが、ログイン時の体験だ。過去1年間でWebサイトへのアクセス時に何らかの問題を経験した人は57%に達したという。
その結果、消費者の68%が動作の遅さや煩雑なプロセスを理由に、利用を中断したり他社サービスに切り替えたりしている。アクセスの煩わしさを感じた際、33%が競合サービスへの移行や利用断念を選択し、36%は利用を後回しにするか別の手段を探すと回答した。
ただし、消費者はスピードのみを求めているわけではない。登録に時間がかかっても強固なセキュリティチェックを望む人は45%にのぼり、セキュリティを簡略化してスピードを重視したいと考える層(22%)の2倍以上となった。また、多要素認証(MFA)を導入している企業に、消費者の69%が「より信頼できる」と評価しており、安全性の可視化が信頼構築に寄与している。
アクセス権限付与の遅延が招く「ID使い回し」のまん延
ビジネスパートナー向けのアクセス管理でも、効率性とセキュリティの課題が浮き彫りになった。ログイン情報を即座に受け取れているパートナーユーザーは22%、初回アクセス時に必要な権限が全て付与されているケースは30%にとどまっている。
この権限付与の遅延は、現場でのリスクある行動を誘発している。調査では、66%が権限付与に時間がかかることなどを理由に「IDや顔認証情報を共有・借用したことがある」と回答。情シスの管理が追い付かない不備が、現場でのID使い回しというセキュリティ上の死角を生んでいる。
パスキー導入への意欲と実態に大きな乖離
業界別の信頼度では、銀行業界が57%と突出して高く、2025年調査の44%から大幅に上昇した。次いで政府サービス(40%)、医療(35%)となっており、機密性の高いデータを扱う分野が上位を占めている。対照的に、小売(10%)、ソーシャルメディア(9%)、自動車(3%)などは低い水準にとどまった。
最新技術の導入状況を見ると、IT意思決定者の87%が「パスキーの提供が重要」と認識している。しかし、実際に導入済みの企業は49%と半数に満たず、意識と実装の間にギャップが存在している。
タレスでIDおよびアクセス管理(IAM)を担当するバイスプレジデント、ダニー・デ・フリーズ(Danny de Vreeze)氏は次のように述べている。
「AIが単に人々の業務を効率化する範囲であれば、高い信頼が寄せられる。しかし、AIが自律的に行動し、ユーザーに代わって意思決定を行ったり、システムとやりとりしたりするようになると、セキュリティ、管理、説明責任を巡って、より厳しい問いが投げかけられるようになる」(ヴリーズ氏)
調査概要:2026年1月〜2月にVanson Bourneが実施。対象は、米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、英国、フランス、ドイツ、オランダ、UAE、南アフリカ、シンガポール、日本、オーストラリアの消費者1万4300人、パートナーユーザー1300人、 IT分野の責任者200人。
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