AIファクトリー建設ラッシュという“美しき狂気” 見直すべき企業インフラ構築の優先順位:電力を制する者がAIを制す
AIデータセンター建設の過熱が、インフラ資材の深刻な納期遅延を招いている。ハイパースケーラーによる買い占めで、変圧器が「8年待ち」という異常事態も。推論ニーズの拡大でネットワークの崩壊すら危惧される中、企業の情シスがインフラ難民にならないための「数年先を見越した調達戦略」と電力確保のポイントを説く。
AIファクトリーの構築を巡る争奪戦は、機器納入までのリードタイム(納期)の長期化と電力確保への懸念を招いている。これはハイパースケーラーだけでなく、通信事業者や一般企業にとっても共通の課題だ。
デジタルインフラプロバイダーであるDC BloxのCTO、ジェフ・ワビック氏は、米国オーランドで開催されたイベント「Fiber Connect 2026」の対談で、ハイパースケーラーはAI拡張のために容量とインフラに巨額の投資をしているが、数年先の予測は必ずしも立っていないと指摘した。
ワビック氏は「彼らは熱狂的に計画と実行を進めている。光ファイバーや配管、電力、接続ポイント、相互接続がさらに必要になったらどうするか、という問いへの答えがそれだ。『美しき狂気』といえる」と語る。
以下では、推論ニーズの拡大でネットワークの崩壊すら危惧される中、企業の情報システム部門がインフラ難民にならないための「数年先を見越した調達戦略」と電力確保のポイントを解説する。
構築と購入の狂騒が起こっている
「AIファクトリー」に関連する編集部お薦め記事
Amazon Web Services(AWS)、Google、Metaなどの企業は、現在GPUを多用するモデルトレーニングに焦点を当てた、大規模な集中型データセンターに数千億ドルを投じている。しかし、コンサルティング会社Entropyの社長ピーター・クレッセ氏は、データセンターのイノベーションについてのパネルディスカッションで、AIのユースケースが成熟し、それに伴うリアルタイム推論が普及すれば、データソースに近い場所で10ミリ秒以内に処理・分析・応答ができる分散型エッジアーキテクチャへの移行が必要になると予測する。
Connected NationおよびIXP.USの政府担当エグゼクティブバイスプレジデントであるブレント・レッグ氏は、現在のインターネットエコシステムではその規模を支えられないと述べる。同氏の予測では、大都市の集中ハブを経由してデータトラフィックをルーティングする現在の仕組みは、24〜36カ月以内に限界を迎えるという。
レッグ氏は「大規模言語モデル(LLM)のトレーニングから、低遅延が求められる推論ベースのアプリケーションへと移行するにつれ、ニューヨークやアトランタのような大都市だけでなく、地域ごとにネットワークが相互接続してトラフィックを交換する場所を増やす必要がある。しかし、その進化はまだ起きていない」と指摘する。
こうした状況は、ハイパースケーラーや通信事業者の間で構築と購入の狂騒を引き起こしている。Cisco Systemsのシニアセールスビジネスデベロップメントマネジャー、ロビン・オールズ氏によれば、機器購入のリードタイムは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降では類いを見ないほど長期化しているという。
オールズ氏はワビック氏との対談で「Ciscoでは、ハイパースケーラーが必要以上の買いだめを行っている影響を受けている。彼らは将来を見越し、GPU、コンピューティング、電子機器、光学部品を可能な限り買い占めているのだ」と語った。
もう1つの複雑な要因は、これらAIファクトリーが極めて多くの電力を消費するという事実だ。複数のセッションで、パネリストらはAI施設を支えるための適切なエネルギー生成の難しさを繰り返し強調した。オクラホマ州を拠点とするISP(インターネットサービスプロバイダー)のCentranetでビジネス・技術戦略担当バイスプレジデントを務めるサチン・グプタ氏が述べた通り、「電力競争を制する者がAI競争を制する」状況にある。
中空コア光ファイバーを専門とするRelativity Networksの創設者兼CEO、ジェイソン・アイケンホルツ氏は、これらデータセンターで発生する計算レベルを維持するために、ハイパースケーラーは数百メガ〜ギガワットのエネルギーを必要としているが、実際には確保できていないと指摘する。例えば、変圧器のリードタイムは5年から8年にも及ぶという。
業界は代替エネルギーとして、太陽光発電や原子力エネルギーの小型モジュール炉(SMR)などを検討している。SMRはコンパクトで安定した電力を供給でき、炭素排出量も少ない。しかし、SMRを動力源とする商用データセンターが実現するのは数年先になる見込みだ。さらにワビック氏は、ほとんどのハイパースケーラーは、原子力に対する地域社会の懸念はさておき、管轄区域の規制や許可の遅れに対処するだけでも手いっぱいだと付け加えた。
その結果、AI構築の現状は、まるで空中にふりかけをまき、その落ち方を見てから進路を決めるようなものだという。
ワビック氏は「土地があり、政治的な反対がなく、稼働に必要な電力を供給できる天然ガスの本管がある場所。そこに推論ノードが設置されることになる」と述べた。
企業への示唆
一般企業がハイパースケーラー級のAIファクトリーを建設することはない。しかし、彼らの戦略を参考に計画を立てることは可能だ。集中型データセンターだけでは、各地で発生するAIワークロードを支えきれない。工場の床、医療施設、小売店、あるいは自動運転車など、エッジでのAI推論を実現するには分散型アーキテクチャが必要となる。
また、データセンター機器について数年先を見越した計画を立て、先行して購入することも重要だ。納入までに数カ月、あるいはそれ以上かかる可能性がある。Ciscoのオールズ氏は「電子機器であれ光ファイバーであれ、データセンター向けのものを買うなら、すぐに注文を入れるべきだ」と助言する。
その計画プロセスで、企業は現在の電力容量を監査し、制約を特定して、電力の可用性をあらかじめ評価しておく必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
NVIDIAのCEOが説く「AI工場」とは? 従来型データセンターとの決定的な違い
2028年までに米企業の7割が導入を計画する「AI工場」は、知能を生成し利益を生む新たな拠点だ。本記事では、情シスが直面する電力・人材・コストの課題を整理。データセンターを単なるコストセンターに終わらせず、ROIを最大化するためのインフラ戦略とガバナンスのポイントを解き明かす。
AIの導入から活用までを支援 HPEが提唱する「AIファクトリー」の“中身”とは
企業がAI技術の導入で直面する費用や人材といった課題に対して、HPEは「AIファクトリー」構想を提唱し、インフラを整えるためのさまざまな新製品を発表している。どのようなもので、何ができるようになるのか。
HPEとNVIDIAがタッグを組む真の狙い「AIファクトリー」構想とは
HPEは米ラスベガスで開催した自社イベントで、NVIDIAと連携したAI技術利用のインフラ構築製品や、パートナー企業に向けた支援策を発表した。どのようなものなのか。
NVIDIAが切り開く“AIファクトリー革命”――次世代データセンターの主役は誰だ
AI技術の進化を支えるGPU分野で、市場をけん引しているのがNVIDIAだ。同社は「AIファクトリー」構想で何を目指そうとしているのか。従来のデータセンターやコンピュータはどう変わっていくのか。