5秒未満の低遅延をどう実現するか
60億人視聴にクラウドは耐えられない FIFAがW杯配信で選んだオンプレミスインフラ
わずかな遅延も許されないミッションクリティカルなシステムでは、クラウドサービスに限界が露呈する。約60億人が熱狂する「FIFA World Cup 2026」の放送インフラとして、オンプレミスシステムが選ばれた理由は。
経営層からの「取りあえずクラウドへ移行せよ」という大号令の下、社内インフラのクラウド化を推進したものの、運用フェーズに入ってから「レスポンスが遅い」「期待したパフォーマンスが出ない」といった現場からのクレームに頭を抱えるIT担当者が後を絶たない。特に、絶対に止まることが許されず、わずかな遅延も許容できないミッションクリティカルな要件において、クラウドサービスだけを使うアーキテクチャが常に正解だとは限らない。
その答えのヒントとなる事象が、世界最大のスポーツイベントで起きている。国際サッカー連盟(FIFA)は、2026年に開催される「FIFA World Cup 2026」における大会運営と放送オペレーションの強化を目的に、Lenovoのインフラを採用した。同大会は3カ国での共催、48チームが参加し、約60億人の視聴が見込まれるイベントだ。ここで求められたのは、常時稼働し続けるライブ配信システムでの卓越した運営効率と強力な演算能力だ。
世界中に配信される膨大なライブ映像データの処理において、ネットワークの遅延は致命的なリスクになる。インフラ選定に当たってFIFAが重視したのは、ライブの本番環境に不可欠な厳しい低遅延要件を満たせる高いパフォーマンスと安定性だ。注目すべき点は、クラウドサービスのみでは、この高密度かつミッションクリティカルな要件を満たすことが難しかったという事実だ。「クラウド万能論」が限界を露呈する極限状況において、LenovoはFIFAが抱える複雑なエッジコンピューティングインフラをいかにして構築し、その運用管理を引き受けたのか。
「クラウドだけでは困難」の過酷な要件をどうクリアするか
FIFAは、2026年開催のFIFA World Cup 2026における大会運営の高度化と放送オペレーションの強化を目的に、LenovoのニアリアルタイムAI搭載インフラシステムを採用した。同年6月4日、レノボ・ジャパンが発表した。公式テクノロジーパートナーであるLenovoのサーバ群やAI主導型ツールの導入によって、3カ国共催・48チーム参加という史上最大規模となる大会の安定運営と、これまでにない没入感のあるファン体験の創出を目指す。
世界最大のスポーツイベントの一つであるFIFA World Cupは、常時稼働し続けるライブ配信システムの下で卓越した運営効率と最先端のテクノロジーを必要としている。特に今回は規模の拡大に伴い、膨大なライブ映像データの処理や、世界中の視聴者に向けた広範な放送運営を支える強力な演算能力、オンプレミス運用における複雑なエッジコンピューティングの管理が大きな課題となっていた。
選定に当たっては、ライブの本番環境に不可欠な厳しい低遅延要件を満たせる高いパフォーマンスと安定性を評価した。クラウドサービスのみでは満たすことが難しかった高密度かつミッションクリティカルな要件に対し、LenovoのハードウェアとAIインフラが適合したことで採用に至った。テキサス州ダラスの国際放送センター(IBC)をはじめ、マイアミのテクノロジーコマンドセンター(TCC)やトーナメントオペレーションセンター(TOC)などの統括拠点にシステムを配置し、会場やキャンプ地には200人以上のエンジニアが展開して確実な運営をサポートする。
導入によって、スタジアムから送られてくる大量のライブ映像データを「Lenovo ThinkSystem SR635 V3」サーバなどで管理・処理し、IPTV(インターネットプロトコルテレビ)インフラの遅延を5秒未満にまで大幅に改善する。ほぼリアルタイムでの試合視聴が可能になる他、関連施設内の1000以上のスクリーンに10チャンネルを通じて映像を提供し、メディアや審判団がどこからでも全試合へ迅速にアクセスできる環境を整える。また、障害やインシデントの迅速な検知によりサービス中断を最小限に抑える他、AI技術を活用した選手の3Dアバターによるリアルタイムなオフサイド判定視覚化や、主審視点映像のぶれを最大50%低減する「レフリービューAIスタビライザー」などの先端技術も実装する。
今後は、LenovoのAIファクトリーを用いて構築された次世代ナレッジアシスタント「FIFA AI Proプラットフォーム」を全48チームに提供し、高度な戦術分析へのアクセスを民主化して公平な競技環境の実現に寄与する方針だ。FIFAのテクノロジーディレクターであるナチョ・フレスコ氏は、「今大会は史上最大規模となることから、卓越した運営効率と最先端のテクノロジーを提供することが重要になる。Lenovoは、ライブの本番環境に不可欠な厳しい低遅延要件を満たすのに欠かせない重要なパートナーだ」とコメントしている。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「FIFA、レノボのAI基盤でW杯放送を高度化 超低遅延配信や3Dアバター実現へ」(2026年6月5日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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