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“何でもお任せ”は正直無理――AIエージェントを活躍させられる業務4選IBMが解説する本番運用で失敗しない設計思想

AIエージェントへの期待が高まる一方、本番環境で失敗が発生する場合がある。IBMのコンサルタントが、実業務で有効な4つの活用パターンと、情シス部門が重視すべき設計原則を解説する。

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 AIエージェントへの期待が高まっている。計画を立て、外部ツールを使い、複数の作業を自律的に進めるデモは目を引く。しかし、実際の業務システムに組み込もうとすると、うまく機能しないケースは少なくない。

 本稿は、IBMの生成AIシニアデリバリーコンサルタント、シャイラジャ・パテル・プラナブ氏の講演を基に、実業務でAIエージェントを活用する際に、情報システム(情シス)部門が押さえるべき4つの活用パターンと設計原則を整理する。

AIエージェントは「単独の意思決定者」ではない

 プラナブ氏によると、AIエージェントの導入で陥りやすい誤解は、AIを単独の意思決定者として捉えることだ。人間の代わりに業務を判断し、全てを自律的に処理する存在として期待すると、本番運用では破綻しやすい。

 実際の業務は、単一のアプリケーション内で完結しない。人事システム、ID管理基盤、チケット管理ツール、ワークフローシステム、ERP、CRM、SaaS管理ツールなど、複数の仕組みをまたいで進む。さらに、業務ごとに承認条件、アクセス権限、社内規定、コンプライアンス要件が存在する。

 そのため、成功するAIエージェントは「何でも判断するAI」ではなく、複数のシステムや人間の間をつなぐ協調レイヤーとして機能する。業務の文脈を保持し、必要なシステムを呼び出し、ルールを適用し、状態を管理し、判断が必要な場面では人間に制御を引き渡す。この役割こそが、本番環境におけるAIエージェントの本質だ。

活用パターン1:オンボーディング

 AIエージェントが有効に働く1つ目のパターンは、複数システムにまたがる一連のアクションを制御する業務である。単一のイベントをきっかけに、依存関係のある複数の作業が発生するケースだ。

 代表例が、新入社員のオンボーディングである。入社が決まると、アカウント発行、権限付与、PCやスマートフォンの手配、業務ツールの利用申請、初期研修の割り当て、研修受講状況の確認など、多くの作業が発生する。

 これらの作業は、全員に同じ手順を適用すれば済むものではない。職種、部署、勤務地、雇用形態、入社日によって必要な権限や備品は変わる。入社日までに完了すべき作業もあれば、上長や管理部門の承認を待たなければ進められない作業もある。

 この領域でAIエージェントが担うべき役割は、人事担当者や情シス担当者の代替ではない。社員の属性や開始日といった文脈情報を基に、必要な作業を順序立て、複数システムにまたがる処理を進め、作業の状態を監視することだ。

 例えば、入社日が近いにもかかわらずPCの発注が完了していない、研修の割り当てが漏れている、権限申請が承認待ちのまま止まっているといった異常を検知し、人間に知らせる。ここで重要なのは、AIの推論力そのものではない。ルールと時間制約を守りながら、業務全体を止めずに進めるオーケストレーション能力である。

活用パターン2:情シスの問い合わせ対応

 2つ目のパターンは、ポリシーに基づくアクションの実行である。リスク、ルール、アクセス権限に基づいて、システムが実行できる処理を制御する業務がこれに該当する。

 分かりやすい例が、情シスの問い合わせ対応だ。情シス部門には、パスワードリセット、ソフトウェア利用申請、ハードウェア手配、アクセス権限の変更、チケットの分類や担当者への振り分けなど、日々さまざまな依頼が届く。

 このうち、手順が明確でリスクが低い依頼は、AIエージェントの自動処理に向いている。例えば、本人確認が済んだ上でのパスワードリセット、標準ソフトウェアの利用申請、既定のルールに基づくチケット分類などだ。

 一方で、管理者権限の付与、機密情報へのアクセス権追加、例外的なソフトウェアの利用、退職者や委託先に関わる権限変更などは、リスクが高い。こうした依頼をAIエージェントが自動実行すると、セキュリティ事故や内部統制上の問題につながりかねない。

 従って、情シスの問い合わせ対応にAIエージェントを導入する際は、「どの依頼なら自動実行できるのか」「どの依頼は承認が必要なのか」「どの条件を満たしたら人間にエスカレーションするのか」を明確に定義する必要がある。

 AIエージェントの価値は、全ての問い合わせを自動処理することではない。低リスクで定型的な処理を安定して実行し、曖昧なケースや高リスクなケースを人間に戻すことにある。制御の境界線が明確であれば、システムの挙動は予測しやすくなり、情シス担当者は判断が必要な業務に集中できる。

活用パターン3:請求書処理や注文管理

 3つ目のパターンは、基本フローは明確だが、例外処理が複雑な業務である。請求書処理や注文管理が代表例だ。

 請求書処理の通常ルートは比較的分かりやすい。請求書から金額や取引先、支払期日などのデータを抽出し、発注情報や契約情報と照合し、社内ルールに沿って承認に回し、最終的に会計システムや支払いシステムへ反映する。

 注文管理も同様である。注文内容を受け取り、在庫や契約条件と照合し、必要な承認を経て、後続システムに反映する。正常系だけを見れば、AIエージェントによる自動化は容易に見える。

 しかし、本番運用で問題になるのは正常系ではない。請求書の記載項目が不足している、発注書と金額が一致しない、取引先名の表記が揺れている、契約条件と異なる請求が来ている、承認者が不在で処理が止まっている。こうした非標準的な条件が、実業務では頻繁に発生する。

 ここでAIエージェントに求められるのは、全ての例外を独断で処理することではない。予測可能なフローを一貫して処理し、データ欠落や不一致、承認上の問題などを検知し、人間が確認すべき例外として提示することだ。

 例外処理を設計せずにAIエージェントを導入すると、現場は「結局、人間が全部確認しなければならない」と感じる。反対に、例外の検知と引き渡しが適切に設計されていれば、担当者は大量の単純処理から解放され、本当に判断が必要な案件に集中できる。

活用パターン4:業務の優先順位付けと振り分け

 4つ目は、カスタマーサービスや社内問い合わせ対応などでの業務の優先順位付けと振り分けだ。

 問い合わせ対応では、全ての案件を到着順に処理すればよい訳ではない。緊急度が高いもの、重要な顧客に関わるもの、障害やセキュリティに関係するもの、専門部門への引き継ぎが必要なものなど、優先度や対応ルートは案件によって異なる。

 AIエージェントは、問い合わせ内容を分析し、カテゴリーを判定し、緊急度や影響範囲を推定し、適切なチームに振り分ける。過去の対応履歴やナレッジベースを参照し、回答案を提示することもできる。

 ただし、この領域でも最終的な問題解決をAIエージェントだけに任せる必要はない。人間の担当者が対応する前段階で、優先順位、文脈、関連情報、想定される回答案を整理することに価値がある。

 特に問い合わせ量が増えた場合、人間だけで分類や優先順位付けを行うと、担当者の経験や判断に依存しやすい。AIエージェントが介在すれば、一定の基準に基づく優先順位付けと振り分けを大規模かつ高速に実行できる。結果として、対応漏れや属人化を減らし、サービス品質のばらつきを抑えられる。

成功するAIエージェントに共通する4つの特徴

 実業務で機能するAIエージェントには、業種や部門を問わず共通点がある。

1.スコープを限定している

 AIエージェントは、広範な業務を何でも処理できる万能システムではない。成功するAIエージェントは、新入社員オンボーディング、ITサポートの一次対応、請求書照合、問い合わせ分類など、明確な業務範囲を絞ってその役割を果たしている。

2.既存のアーキテクチャとの統合を前提にしている

 AIエージェントは、単体で完結する新機能ではない。ID管理、チケット管理、ERP、CRM、ワークフロー、データ基盤など、既存システムと連携して初めて価値を出す。

3.ルールを適用しながらシステム間をオーケストレーションできるようにしている

 AIエージェントは、ただ自然言語を理解するだけでは不十分だ。どのシステムをどの順番で呼び出すのか、どの条件で処理を止めるのか、どの承認を待つのか、どの例外を人間に戻すのかを制御できるようにしておくことが重要だ。

4.人間をプロセス内に組み込んでいる

 AIエージェントの導入に当たって、人間を完全に排除することはできない。人間による承認(human-in-the-loop)を前提にすることで、業務上の責任や説明可能性を保ちやすくなる。

「派手なAI機能」ではなく「信頼できる業務部品」として設計する

 AIエージェントの導入というと、どうしても「どこまで自律的に動くか」「どれだけ高度な推論ができるか」を考えてしまいがちだ。しかし、本番環境で長く使われるAIエージェントは、派手に活躍する存在ではないという。むしろ、「よく設計されたシステム部品」のように動くとプラナブ氏は話す。業務の状態を管理し、ルールを適用し、必要なシステムを呼び出し、例外を検知し、人間に判断を戻す。ユーザーから見ると、AIエージェントは前面に出てくる訳ではなく、業務プロセス全体が滑らかになったように感じられる。

AIエージェントの本当の価値は「完全自律」ではない

 「AIエージェントの本当の価値は、完全な自律にあるのではない」。プラナブ氏はこう話す。むしろ、現実のワークフロー、制約、統制構造、人間の判断と調和しながら動けることにある。

 PoCやデモでは、AIエージェントが計画し、推論し、ツールを実行する姿が評価される。しかし、本番環境ではそれだけでは足りない。現実の業務には、例外、承認、責任分界、セキュリティ、コンプライアンス、既存システムとの整合性がある。

 協調、ルール、説明責任を中心に据えて設計されたAIエージェントは、単なる実験的なAI機能ではなくなる。業務プロセスの中に組み込まれ、信頼できる生産システムの一部として稼働し続ける。

 情シス部門に求められるのは、「AIに何を任せるか」を考えることだけではない。「AIをどの業務部品として組み込み、どこで人間が責任を持つか」を設計することである。AIエージェントを本番で活用できるかどうかは、この設計思想にかかっている。

本稿は、IBM Technologyが2026年6月18日に公開した動画「Building AI Agents for Real―World Problems&Workflows」を基に作成しました。

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