Copilot in Excelは財務の重要業務で「使えるのか?」 強化点5つを検証:AIの作業計画と変更履歴を可視化
Microsoftは2026年6月25日、Excel向けAI機能「Microsoft 365 Copilot in Excel」の財務部門向け機能強化を発表した。具体的に何が強化されたのか、分かりやすく整理する。
生成AIを業務に導入する際、「便利そうだが、重要業務に使ってよいのか」という疑問は避けて通れない。特に財務部門では、AIが出した答えが正しいかどうかだけでなく、どのデータを使い、どの手順で計算し、どのセルを変更したのかまで説明できる必要がある。
Microsoftは2026年6月25日(米国時間)、表計算ソフト「Microsoft Excel」に組み込むAI機能「Microsoft 365 Copilot in Excel」(以下、Copilot)について、財務部門向けの機能強化を発表した。対象となるのは、FP&A(財務計画・分析)、会計、税務、コンプライアンス、資金管理といった業務だ。
財務業務では、四半期決算の締め作業、予算と実績の差異分析、フォーキャストの更新、取締役会向け資料の作成など、Excelを中心にした業務が今も多い。だが、こうした業務にAIを組み込むには、単なる文章生成や集計支援では不十分だ。高い正確性、信頼できるデータ、プロセスの追跡可能性が求められる。
今回のアップデートは、Copilot in Excelを財務部門で使えるAIに近づけるためのものだ。ポイントは大きく5つある。
1.財務の「高い基準」に応える評価体制
Microsoftは、Copilot in Excelの財務向け機能について、単一のタスクを完了できるかどうかだけでなく、財務チームが日常的に扱う複数ステップのワークフローに耐えられるかどうかを評価している。
財務業務では、1つの数値を出すまでに、複数のデータソースの確認、前提条件の整理、計算式の更新、差異の説明、レポート化といった作業が連続する。AIが一部の表を整えるだけでは、業務全体の効率化にはつながりにくい。重要なのは、複数の手順をまたいでも、検証可能な結果を出せることだ。
この評価には、財務モデリングの資格機関であるFinancial Modeling Institute(FMI)との提携も含まれる。Microsoftは、FMIが持つ実務に近い財務モデリングケースのライブラリを、Copilot in Excelの評価基準に組み込んでいる。財務モデルの構造、計算、前提条件の扱いなど、専門業務としての品質を確認する狙いがある。
情シスの視点で見ると、これはAIツール選定時の重要な論点になる。業務部門が「AIで財務分析を自動化したい」と言っても、汎用的な生成AIだけでは正確性や再現性を担保しにくい。業務特化の評価基準があるかどうかは、導入判断の材料になる。
2.「Skills」で定型業務を標準化する
新機能の1つが「Skills」だ。これは、財務部門で繰り返し発生する作業手順をCopilotに定義する機能である。対象となる業務には、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)モデルの構築、決算処理、月次報告モデルの更新、差異分析などがある。
従来、こうした作業は担当者ごとのExcelファイルや部門独自の手順に依存しがちだった。前任者が作ったモデルを引き継いだものの、どの計算式がどの前提条件に基づいているのか分かりにくい、更新手順が属人化している、といった課題も起こりやすい。
Skillsを使うと、Copilotに「この業務はこの手順で進める」「この形式で出力する」「この構造を守る」といったルールを与えられる。毎回ゼロからプロンプトを入力するのではなく、定義済みの手順に沿って作業を進められるため、出力結果のレビューや再利用がしやすくなる。
企業は、オープン標準のMarkdownファイルを使って独自のカスタムスキルを作成できる。例えば、OneDriveに「SKILL.md」ファイルを保存し、自社のルールに沿った財務三表モデルや取締役会向け資料の作成手順を定義すれば、Copilotがその手順を参照して作業する。
これは、情シスにとって「AI活用の標準化」という意味を持つ。個々の担当者が思い思いにAIへ指示する状態では、出力の品質や手順がばらつく。業務プロセスをスキルとして定義できれば、AI利用を個人任せにせず、組織として管理しやすくなる。
Microsoftは今後、開発者やパートナーがMicrosoft MarketplaceやMicrosoft 365 Admin Centerを通じてスキルを構築、展開できるようにする。LSEG(ロンドン証券取引所グループ)、Ramp、Rogo Technologies、Samaya AI、Velixo、Vena Solutionsなどの財務・ERP関連ベンダーとの連携も進めている。
3.信頼できる外部データとExcelを直結する
財務分析でAIを使う際のもう1つの課題が、データの信頼性だ。AIがどれだけ高度な分析をしても、入力データが古い、出所が不明、手作業で転記されている、といった状態では結果を信用しにくい。
Copilotは、財務担当者が利用する外部データとExcelを直接接続するため、財務データコネクタを拡充する。これにより、市場データ、企業のファンダメンタルズ、投資リサーチ、未公開企業情報などをExcel上の分析に取り込めるようにする。
追加される主なデータプロバイダーは以下の通りだ。
CB Insights
未公開企業や市場に関する予測インテリジェンスを提供する。M&A候補の発掘や新興市場の評価、事業戦略の検討などに活用できる。
Daloopa
米国証券取引委員会(SEC)への提出書類、投資家向け資料、プレスリリースなどから抽出した、監査対応可能な財務基礎データを提供する。企業の財務モデルの更新、比較表の作成、複雑な財務分析、提出書類からの手入力作業の削減などに活用できる。
FactSet
投資専門家、金融機関、企業が利用する財務データや代替データを提供する。モデリング、スクリーニング、市場分析、リサーチなどに利用できる。
Morningstar
アナリストリサーチ、格付け、ポートフォリオ分析などの投資関連データをExcelに取り込める。保有銘柄の評価、ファンド比較、ポートフォリオ分析、資産配分の検討などに活用できる。
PitchBook
企業プロファイル、ディール履歴、ファンドデータ、アナリストリサーチなど、プライベートキャピタル市場に関する情報を提供する。投資候補リストの作成、デューデリジェンス、投資案件のスクリーニングなどを支援する。
S&P Globalの「Deterministic Retrieval」
AIベンダーのKenshoが開発した機能で、大規模言語モデル(LLM)やAIエージェント向けに、S&P Globalのデータへ構造化されたAPIアクセスを提供する。企業調査、財務分析、決算説明会のトランスクリプト分析、複数企業の比較などで、出典を明示した結果を扱える。
4.AIの作業をブラックボックス化させない
財務業務では、最終的な答えだけでは不十分な場合がある。予測値を更新した場合、なぜその数字になったのか、どの前提条件を使ったのか、どの数式を変更したのかを説明できなければならない。監査、内部統制、経営会議での説明責任を考えると、AIによる作業がブラックボックス化することは大きなリスクになる。
そのためMicrosoftは、Copilotに追跡可能性を高める機能を追加する。
「Plan with Copilot」では、Copilotが実際に作業を始める前に、更新予定の内容をユーザーに示す。どの範囲、どのワークシート、どの数式、どの前提条件を変更するつもりなのかを事前に確認できる。必要に応じて、Copilotがユーザーに確認質問を出す。
これにより、AIがいきなりワークブックを変更することを避け、作業計画を確認し、その作業方針が妥当かどうか判断し、実行を進めることができる。
作業後の変更履歴も確認可能だ。Excelの「Show Changes」ペインでは、共同編集者の変更と同じように、Copilotによる変更であることが明示される。影響を受けたセルへのリンクも表示されるため、どのセルがAIによって変更されたのかをたどれる。
情シスにとっては、これはAIガバナンスの観点で重要だ。生成AIを業務アプリケーションに組み込む場合、出力結果の正確性だけでなく、誰が、いつ、何を変更したのかを追跡できる仕組みが必要になる。Copilotによる編集が履歴上で区別できることは、監査対応やトラブル時の原因調査にも関わる。
5.想定される財務業務のユースケース
Microsoftは、Copilotの活用例として、複数の財務ワークフローを挙げている。
1つ目は決算業務だ。前四半期の実績と計画を比較し、売り上げ、費用、利益率、キャッシュフローなどの主要な差異を特定する。さらに、その要因を整理し、経営層向けのビジネスレビュー資料のサマリーを作成する。
2つ目はフォーキャストの更新だ。チームが承認した最新の前提条件や予算を反映し、現在の予測を更新する。市場データを取り込み、現行の営業計画との差分を照合し、見通しが変わった要因を説明する。
3つ目はバリュエーションモデルの構築だ。企業の財務基礎データ、アナリスト予想、市場ベンチマーク、取引マルチプルなどを取り込み、DCF、類似会社比較分析、感応度分析を含むモデルを作成する。
4つ目は買収候補の探索だ。社内の戦略文書や買収条件に合う候補企業を抽出し、企業業績、市場シグナル、資金調達履歴、投資家の動きなどを組み合わせて評価、順位付けする。
5つ目はポートフォリオ分析だ。投資目的に対するポートフォリオの実績を確認し、ファンド分析、格付け、市場パフォーマンス、リスクデータを組み合わせて、集中リスクや調整案を提示する。
6つ目は決算発表への対応だ。対象企業の決算結果、業績予想の修正、アナリスト予想、経営陣コメントを分析し、投資家にとって重要な変化や市場心理の変化を要約する。
これらの例に共通するのは、単なる表の自動作成ではなく、社内文書、外部データ、既存モデル、業務手順を組み合わせて、判断材料を作る点だ。財務部門にとってAIは、計算を代行するだけでなく、分析作業の前工程と後工程をつなぐ存在になりつつある。
実際に使うには?
Microsoftによると、Personalization、workbook rules、事前構築済みスキル、フェデレーション型Copilotコネクタ、Plan with Copilot、Show ChangesでのCopilot変更表示は、Microsoft 365 Copilotのユーザー向けに一般提供される。対象はExcel for Web、Windows版Excel、Mac版Excelだ。
カスタムスキルは、Windows版とMac版のInsidersチャネルで提供されており、Excel for Web、Windows版Excel、Mac版Excelで順次一般提供される予定だ。
財務業務でAIを使うには、正確な答えを出すだけでは不十分だ。信頼できるデータに基づき、決められた手順で処理し、変更内容を後から確認できる必要がある。Copilotの今回の強化は、Excelを「AIが使える表計算ソフト」にするだけでなく、財務部門の業務プロセスそのものにAIを組み込むための基盤整備といえる。
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