AIは仕事を奪うどころか「全員を昇進させる」 IBMが語るその理由:これから必要な必須スキル5選
IBMのディスティングイッシュトエンジニア、ジェフ・クルム氏は、AIの普及拡大により、人間の役割は減るどころか「全員が昇進する」との見通しを語る。どういう意味か?
生成AIやAIエージェントの進化が、「人間の仕事を奪うのではないか」という懸念につながっている。確かに、これまで若手や経験の浅い従業員が担ってきた定型作業の一部は、AIに置き換わる可能性がある。
一方、IBMのディスティングイッシュトエンジニアであるジェフ・クルム氏は、AIによって人間の仕事は減らず、むしろ「人間全員が昇進できる」と前向きに語る。本稿は、クルム氏の発言を4つのポイントから紹介する。
クルム氏が語る4つのポイントとは
1.組織構造は「ピラミッド型」から「ダイヤ型」へ
従来の組織は、データ入力やコーディングなどの末端作業を、指示に従って実行する多数のエントリーレベル人材が底辺を支えるピラミッド構造だ。その上に、一定の業務領域を任される経験者、部下やチームを率いる管理職、組織全体を指揮する経営層が続き、人数は減少していく。
クルム氏によると、AIの普及によって、この構造は中央部分が厚い「ダイヤモンド型」に変わるという。
データ入力や資料作成、コード生成、情報整理といった定型的な作業をAIが担うようになれば、指示された作業だけを実行する職務は減少する。一方で、AIツールを使って広い業務領域を担当する経験者や、AIの成果を管理するシニア人材の層は厚くなる。
AIを自分のチームのように指揮し、従来よりも大きな成果を出せる人材が、組織の中心を占めるようになるという考え方だ。
2.AIがもたらす「全員の昇進」の正体
クルム氏は、AIが人間にもたらす変化を「昇進」に例えている。これは、肩書や給与が自動的に上がるという意味ではない。人間が担う仕事の内容が、従来よりも上位の役割へ移るという意味だ。
例えば、これまでプログラムの一部分だけを実装していた担当者が、AIを使って複数のモジュールを作成し、システム全体の設計や統合まで担当するようになる。従来なら大勢の人員が必要だった規模の仕事を、1人の担当者が複数のAIを使って進められるようになるためだ。
その結果、人間の仕事は、指示された作業を実行する「Just do」から、全体像を見渡して設計することや、目標を設定すること、AIの作業を監督することへ移っていく。
「何をするべきか」「なぜそれをするのか」を考え、AIに目標を与え、出力が目的に合っているかどうかを評価する。これまでシニア人材や管理職が担ってきた役割を、より多くの従業員が担うようになる。これが、クルム氏が述べる「全員の昇進」の正体だ。
3.AIが普及しても雇用が減るとは限らない
AIによって業務効率が高まれば、必要な人員は減るようにも見える。これに対してクルム氏は、「ジェボンズのパラドックス」(Jevons paradox)を使い、雇用の需要がむしろ増える可能性を説明している。
ジェボンズのパラドックスとは、資源の利用効率が向上すると、その資源の消費量が減るのではなく、かえって増える場合があるという考え方だ。
19世紀に蒸気機関の燃費が向上した際には、石炭の消費量が減ると予想された。しかし実際には、蒸気機関を利用するコストが下がったことで、その用途が拡大し、結果として石炭の需要は増加した。
AIにも同様のことが起こり得る。AIによって業務コストが下がれば、企業はこれまで採算が合わなかったプロジェクトにも取り組めるようになる。新しい商品やサービスを開発したり、顧客への提案を増やしたり、新規市場を開拓したりする余地が生まれる。
クルム氏は、賢明な企業はAIを単なる人員削減の手段として使うのではなく、AIによって生まれた時間やリソースをイノベーションや事業拡大に振り向けると述べる。その場合、新たな仕事が生まれ、人材に対する需要が増える可能性がある。
4.AI時代に必要な5つのソフトスキル
ただし、現在のエントリーレベル人材を、そのまま上位の職務に配置できるわけではない。クルム氏は、仕事の高度化に合わせて、従業員のスキルも変える必要があると指摘する。
そこでクルム氏は、AI時代に重要になるスキルとして、「柔軟性」「継続的な学習」「好奇心」「創造性」「批判的思考」の5つを挙げている。
柔軟性
1つ目が、環境の変化に対応する柔軟性だ。現在存在する職種の一部は形を変え、現時点では想像できない新しい仕事も生まれる。特定の業務や作業方法に固執せず、変化に適応できる人材が有利になる。
継続的な学習
AIや関連ツールが急速に進化する中では、一度身に付けた知識だけで仕事を続けることは難しい。新しい知識やスキルを学び続ける姿勢が必要になる。そこで必要になるのが、継続的な学習だ。
好奇心と創造性
「次に何ができるのか」「なぜこの仕事が必要なのか」と主体的に問い、その着想を新しい製品やサービス、業務改善策として形にする力が求められる。
批判的思考
AIを活用すれば、あらゆる作業を圧倒的なスピードで実行できるようになる。しかし、「技術的に実行できるからといって、本当にそれをやるべきか」を立ち止まって考える力が人間に求められる。「何をすべきか」「なぜやるのか」という目的を常に問い、顧客やステークホルダーの真のニーズを見極めながら、AIのアウトプットを正しく監督・評価する役割が不可欠になる。
企業には職務と育成制度の再設計が必要
AIによる「昇進」を実現するには、従業員側の努力だけでは不十分だ。企業も、AI時代に合わせて職務内容や人材育成制度を見直す必要がある。
単純作業をAIに置き換える一方で、若手が経験を積む機会までなくしてしまえば、将来のシニア人材や管理職を育てられなくなる。インターンシップや実務研修などを通じて、経験の浅い人材が判断力や業務知識を身に付けられる仕組みが求められる。
AIが仕事を奪うのか、それとも人間をより高度な仕事へ押し上げるのかは、技術だけで決まるものではない。企業が削減した時間を何に使い、従業員にどのような役割と成長機会を与えるかによって、その結果は大きく変わる。
本稿は、IBM Technologyが2026年7月5日に公開した動画「AI Gave You A Promotion:Why AI Isn’t Replacing Jobs」を基に作成しました。
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