「AI解雇」に世界が待った 加速する法規制と運用のわな:雇用を守る規制と高まる顧客の期待
AIがコンタクトセンターの雇用を奪う一方で、世界では解雇を制限する法規制が動き出した。単なるコスト削減は、顧客の離反や若手育成の停滞という代償を招く恐れがある。AI時代の生存戦略と組織の在り方を浮き彫りにする。
コンタクトセンターにおけるAIへの職の置き換えは、一様には進まない。
技術がもたらす激変の中、AIがカスタマーサービスにどのような影響を与えているかを調査した2つの最新レポートがある。顧客はAIボットに対する期待を明確に示しており、不正確であったり的外れだったりするAIの回答には寛容ではない。期待を裏切られたと感じれば、顧客はすぐに競合他社の製品に乗り換えてしまう。
一方で、AIによる人員削減を抑制するため、さまざまな規制策を検討している国や州、市も存在する。
Forrester Researchが2026年7月1日に発表した調査レポート「The Quantitative Employment Impact Of AI On Customer Service Jobs(AIがカスタマーサービスの雇用に与える定量的影響)」では、今後数年の見通しを予測している。同レポートによると、AIはコンタクトセンターの一部の職を消滅させる一方で、AIエージェントの監視、更新、管理を担う専門家の役割を新たに創出するという。ただし、その人数は削減される人数よりも少ない。
AIで置き換えられる仕事とそうでないものの違いとは?
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同レポートの共同執筆者でアナリストのケイト・レゲット氏は、AIでは解決できない複雑な案件に対処するため、高度なスキルと共感力を備えた人間は常に必要とされると話す。
さらに、コンタクトセンターの人員構成がどう再編されるかは業種によって異なる。業務の複雑さや、サービスの質と顧客ロイヤルティーを維持するために必要な「人間味」の度合いに左右されるためだ。
小売、ホスピタリティ、飲食業といった、特に大規模で大量の問い合わせを処理するコンタクトセンターを持つ企業は、公共、製造、建設、銀行、保険などの業界に比べて、AIによる自動化でより多くの職が失われる可能性が高い。
一方、専門知識を必要とする業界の従業員は、AIに置き換えられるリスクが低いだけでなく、一般的に高い給与を得ている。
「小売、飲食、芸術、娯楽といった業界のカスタマーサービス担当者の一部は、給与が極めて低く、生活を維持できるかどうかの水準にある」とレゲット氏は指摘する。「注文状況の確認、商品の色違いの有無、返品や返金の手続きといった単純な問い合わせに対応する仕事はAIに取って代わられつつある」
「対照的に、給与水準が高く、より難易度の高い案件を扱う公共事業、鉱業、製造業などの業界では、人員の削減圧力は小さい。業務が複雑で自動化が難しいためだ」(レゲット氏)
AIの導入は、コンタクトセンターに解決すべき課題も突きつけている。1つは、エントリーレベルの職がなくなった後に、新しい採用者をどのようにオンボーディング(組織への適応支援)し、トレーニングするかという問題だ。もう1つは、AIエージェントを最新かつ的確な状態に保つために、技術スキルの高い人材を最前線に配置する必要があることだ。例えば新製品の欠陥が見つかって問い合わせが急増し、管理者が返品ポリシーを急きょ変更しなければならないような事態で、その重要性は増す。
レゲット氏は1つの解決策として、数人のエージェント、1人の管理者、1人のAIスペシャリストで構成される「ポッド」と呼ばれるチームを編成することを挙げる。このモデルでは、エントリーレベルの従業員が熟練のベテランのそばで見習いとして働き、厄介な顧客の問題を解決する方法を学ぶことができる。同氏は、コンタクトセンターがどのような人員モデルを採用するにせよ、「徒弟制度」はAIへの移行で重要な要素になると見ている。
また、AIが一夜にして全てのコンタクトセンターを支配するわけではない。
「全てのコンタクトセンターが数年以内に業務を完全に自動化するわけではない」とレゲット氏は言う。「エントリーレベルの仕事は依然として多く残っている。一部のコンタクトセンターは、テクノロジーに積極的でなかったり、データやプロセスが整備されていなかったりするため、予測されるような自動化率には決して到達できない。つまり、人間の仕事は残り続ける」
AIによる人員削減は違法となるか
経済全体で見ればAIによる大幅な雇用削減はまだ起きていないが、カスタマーサービスの分野では例外も出始めている。例えばSalesforceは、2025年にカスタマーサポート部門で約4000人の人員削減を実施した。
規制当局が、雇用主によるAIへの置き換えを制限するルールの検討を始めたのはこうした背景がある。
世界各地でこの問題への対応が進んでいる。中国では、裁判所がAIを理由とした人員削減を制限する判断を下した。欧州連合(EU)の「AI法」も、将来的にAIによる解雇を制限する可能性を示唆している。
米国では、ニューヨーク州がAIに起因する解雇の際の通知を義務付ける法律を制定した。ただし、これまでに通知を行った企業はない。カリフォルニア州議会に提出された法案では、「技術的な置き換え」が発生する場合、雇用主は従業員に60日前の通知を行うことが求められている。
さらにカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、2026年5月に「AIへの移行」によって職を失った労働者への支援策や、失業保険、退職金の基準を検討するよう命じる行政命令に署名した。一部の全米弁護士団体は、連邦労働関係法(NLRA)の保護規定を援用し、AIによる解雇に直面した労働組合に交渉権を与えることを検討している。なお、全米労働関係局(NLRB)はこの件についてまだ見解を出していない。
こうした動きからいえることは、いずれ規制は導入されるだろうが、現時点では開発用語で言うとところの「初期αテスト」の段階にあるということだ。
AIサービスにいら立ちを募らせる顧客
人員削減やスキルの再習得という課題に頭を悩ませるコンタクトセンターには、もう1つの難題がある。それは、大多数の顧客がますます短気になり、人間以上のサービスをAIに期待していることだ。彼らは「カスタマーサービスに連絡するくらいなら、他のことをした方がマシだ」とさえ考えている。
カスタマーエクスペリエンス(CX)のリーダーたちでさえ、私生活ではカスタマーサービスに関わりたくないと考えているという。
これは、CXベンダーのGenesysが2026年3月から4月にかけて実施した調査レポート「2026 State of Customer Experience Report」で明らかになった。同調査は、20カ国の幅広い年齢層の消費者5800人と、通信、自動車、製造、航空、小売など幅広い業種のCXリーダー1500人を対象としている。
同レポートによると、ハイブリッドな「人間とAI」の体制へと移行しているにもかかわらず、問題解決に必要な顧客の労力を最小限に抑えられていると考えるCXリーダーは、世界全体でわずか24%にとどまった。コンタクトセンターの顧客ストレスを軽減できない理由には、データの未整備、システムの老朽化などが挙げられる。また、AIエージェントから人間に引き継がれた後も、顧客が情報やチャットでのやりとりを最初から説明し直さなければならない状況も残っている。
しかし、もはや猶予はない。消費者の95%は、人間に同じ説明を繰り返さなくて済むことを期待している。さらに、85%の消費者は、カスタマーサービスが悪いことを理由に、そのブランドへの支出を減らすか利用を完全に停止したと回答している。
AIの「質の低いサービス」の定義について、84%の消費者は「質問を解決するチャンスは3回まで」と回答した。彼らはCXリーダーに、AIによる解雇を誤って進め、AIに過度な役割を任せることで何を失うことになるかを計算するよう最後通告を突きつけているのだ。
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