SIEMの限界を突破する データレイクが変えるログ管理の費用対効果:ログ激増とコスト高騰を解決する次世代基盤
巧妙化する攻撃と激増するログに、既存のSIEMだけでは限界がある。コストを抑えつつ長期保存とAI解析を可能にする「セキュリティデータレイク」の戦略的価値から、特有のガバナンス課題までを詳説する。
巧妙化する攻撃と、複雑さを増すシステム環境が組み合わさった結果、サイバーセキュリティの確保と一元的な可視性の確立はかつてないほど困難な課題となっている。
企業は、異種混合の環境全体で前例のないほど大量のセキュリティテレメトリー(遠隔測定データ)を生成しており、情シスは情報の多さに圧倒されがちだ。また、ツールやクラウド環境、エンドポイントごとに可視性が断片化しているため、危険なギャップが生じている。結果として、網羅的にカバーできていないにもかかわらず、情報は過剰にあるという状況に陥っている。
こうした背景から、セキュリティ情報を大規模に統合・分析するために、セキュリティデータレイクを導入する企業が増えている。セキュリティデータレイクは脅威検出と運用効率を向上させるが、同時にガバナンスやセキュリティ上の考慮事項ももたらす。
本記事では、セキュリティデータレイクとSIEM(セキュリティ情報イベント管理)のワークフローを比較した上で、ユースケース、課題、ベストプラクティスを明らかにする。
セキュリティデータレイクとは何か
「セキュリティデータレイク」関連で併せて読みたいお薦め記事
セキュリティデータレイクとは、セキュリティ関連データの収集に特化して設計された中央リポジトリのことだ。多種多様なソースからセキュリティ情報を集約し、コスト効率の高い長期保存と高度な分析を可能にする。
一般的な入力データには以下のものが含まれる。
- ログとアラート
- エンドポイントテレメトリー
- ネットワーク活動
- ファイアウォールログ
- アイデンティティー管理システム
- DNS活動
- 脅威インテリジェンス
- セキュリティインシデントの記録
セキュリティデータレイクは、セキュリティ運用、脅威ハンティング、フォレンジック、コンプライアンスのための統一された基盤を提供する。サイバーセキュリティに関連するデータのみを格納するため、他の情報を保存する一般的なエンタープライズデータレイクとは一線を画している。
セキュリティデータレイクを重視すべき理由
セキュリティデータレイクは戦略的なビジネス価値をもたらす。データサイロを排除し、ハイブリッドクラウドやマルチクラウド環境全体の可視性を向上させることができる。データベースを一元化することで、企業は脅威をより迅速に検出し、運用効率を高め、インシデントにより良く対応できるようになる。包括的な分析は、リスク管理やデータに基づいた意思決定も支援する。
セキュリティデータレイクの導入により、以下のような測定可能なビジネスへの影響が期待できる。
- 平均検出時間(MTTD)の短縮
- 平均対応時間(MTTR)の短縮
- 既存のセキュリティ投資の活用促進
- セキュリティ運用コストの削減
- コンプライアンス報告や監査対応へのサポート強化
- 経営層や取締役会向けのレポート品質向上
- セキュリティチームの生産性向上
- 将来の成長に合わせたスカラビリティの確保
セキュリティデータレイクとSIEMの進化
セキュリティデータレイクは、標準的なSIEMツールとは異なる。SIEMはリアルタイムのアラート、相関分析、インシデントワークフローに最適化されている。一方、セキュリティデータレイクは長期保存と詳細な分析を得意とする。大半の企業はこれら両方の手法を組み合わせて活用している。
例えば、攻撃者が数カ月かけてクラウド、アイデンティティー、エンドポイントの各システム間をゆっくりと移動した場合、セキュリティデータレイクであればタイムラインを再構築してパターンを特定するのに十分なデータを保持できる。SIEMツールは、データ保持期間の構造が短いため、こうした兆候を見逃す可能性がある。
ITリーダーは、セキュリティデータレイクが既存のSIEMを置き換えるのではなく、強化するものだと認識している。セキュリティデータレイクはユニークかつ補完的な情報を提供し、SIEMは引き続きリアルタイムの監視とアラートで価値を発揮する。企業は、従来のSIEMでは実用的ではなかった高度な分析をサポートするために、データレイクを活用してスケーラブルでコスト効率の高いストレージを確保している。
これらのツールを組み合わせることで、柔軟性、可視性、コスト管理がさらに向上する。
セキュリティデータレイクの主なユースケース
セキュリティデータレイクは、以下のような広範なサイバーセキュリティ分野で検出、分析、レポートを可能にする。
- 脅威検出と脅威ハンティング:複数のソースからのデータを相関させ、巧妙な攻撃や異常な行動を特定する。プロアクティブな脅威ハンティングを可能にする
- インシデント調査とコンプライアンス:フォレンジック調査を加速させ、規制報告や監査をサポートする。過去のセキュリティ記録を維持する
- AIと高度な分析:機械学習に必要な大規模で多様なデータセットを提供する。行動分析や予測的な脅威検出を改善し、AI主導のセキュリティ運用や自動化の取り組みを支援する
ガバナンス、セキュリティ、導入時の課題
セキュリティデータレイクの採用には課題も伴う。これらの課題を理解することは、自社環境でデータレイクを導入する妥当性があるか、また展開するためにどのような障害を克服すべきかを判断するのに役立つ。
具体的な課題としては、データ管理、ガバナンス、プライバシー、運用の複雑さなどが挙げられる。
- データの整合性と品質:セキュリティ分析の有効性は、依拠するデータの質に左右される。データレイクに有用で利用可能なコンテンツが含まれるよう、正規化、検証、品質管理を評価する必要がある
- アクセス制御とガバナンス:データの所有権と責任を早期に確立しなければならない。定義後は、ロールベースのアクセス制御(RBAC)と最小権限の原則を実装する。機密情報へのアクセスは監視し、監査を行うべきである
- セキュリティとプライバシーのリスク:セキュリティデータレイクは、攻撃者にとって価値の高い標的となる。規制対象の情報や機密性の高いビジネス情報を保護するために、保存データと転送データの両方に効果的な暗号化を行う必要がある。業界固有のコンプライアンス要件も満たさなければならない
- 運用の複雑さ:多様なデータソースにわたるデータの取り込み、保持、ガバナンスで、さらなる複雑さとリソースの割り当てが予測される。セキュリティ、IT、コンプライアンス、およびビジネスのステークホルダー間の連携を深め、継続的な改善ライフサイクルを構築する必要がある
成功のためのベストプラクティス
セキュリティデータレイクの導入を成功させるために、以下のベストプラクティスを活用してほしい。これらは責任、リスク管理、ガバナンス、およびビジネス価値の考慮事項に対応している。
- ガバナンスチームとポリシーを早期に確立する
- 強力な暗号化とゼロトラストアクセス制御を実装する
- 価値の高いデータソースを特定し、優先順位を付ける
- データの保持と分類の基準を定義する
- データの取り込みと消費の両方を含む、データレイクの活動を継続的に監視する
- 継続的なデータ品質の監視を導入する
- 取り組みを、より広範なサイバーセキュリティおよびビジネス目標と一致させる
- ビジネスに焦点を当てた指標で成功を測定する
- AIや高度な分析に対応できる基盤を構築する
サイバー脅威の規模と複雑さが増し続ける中、一元化されたセキュリティデータは戦略的な優位性となる。セキュリティデータレイクは、企業が脅威を検出・対応する方法を再構築しつつある。現在のアーキテクチャが、リアルタイムの洞察、スケーラブルな分析、およびAI主導のセキュリティ運用をサポートできるかどうかを評価すべきだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
月150TBの壁――SAPが既存SIEMを諦め、AIエージェントに賭けた理由
月間150TBを超えるデータ分析に苦しむSAPは、データの半分を解析できず、セキュリティの「死角」を生んでいた。既存の監視ツールでは防げない複雑な脅威に対し、同社が選んだ解決策とは。
「SIEMはオワコン」は本当か 高コストと誤検知に疲弊する情シスへの処方箋
運用が大変、コストも高い――。長年、現場を悩ませてきたSIEMの存在意義が問われている。今、SIEMを使い続けるべきか、脱却すべきか。セキュリティ専門家の見解を紹介する。
SIEMをスムーズに導入するために知っておきたい「5つのステップ」
攻撃が多様化・巧妙化している中、さまざまな脅威を検出し対策を講じやすくする「SIEM」の導入が広がりつつある。複雑なSIEM導入を成功に導くためのステップを解説する。
鳴り止まない「虚報」が現場を壊す アラート疲れ脱却の処方箋
また誤検知か――。セキュリティアラートを黙殺したその瞬間、本物の攻撃を見逃してしまう。セキュリティ担当者を疲弊させ、組織を無防備にする「アラート疲れ」の正体と対策は。
24時間のセキュリティ監視を外注――「SOCaaS」主要5社を比較する
サイバー攻撃の高度化と深刻な専門人材不足を背景に、セキュリティ監視を外部委託する「SOCaaS」への注目が高まっている。本稿は、主要なSOCaaSベンダー5社の特徴と販売モデルを整理し、選定基準を提示する。
「セキュリティ予算ゼロ」でも防衛力は上がる 情シスが打つべき“背水の陣”
予算横ばいは、セキュリティ放棄の免罪符にはならない。攻撃が巧妙化する中、追加投資なしでいかに説明責任を果たすか。今すぐに実行できる具体策をまとめた。
なぜアスクルは狙われた? AI時代の攻撃から身を守る「ゼロトラスト」移行術
2025年にアスクルを襲ったランサムウェアは甚大な損失をもたらした。その初期侵入を許したのは、高度なハッキング技術ではなくMFAが設定されていないアカウントだ。EDRだけでは防ぎ切れない脅威にどう対抗すべきか。