担当者1人で数十年分のトラブル事例DBを再構築 日揮グローバルの選定術:約80人が利用するナレッジ基盤を再構築
日揮グローバルは、数十年分のトラブル事例をジャストシステムのクラウドデータベース「JUST.DB」へ移行した。従来ツールが自社の方針で使用停止となったことを契機に選定したツールの決め手は。
長年蓄積してきたトラブル事例を新しいシステムへ移行する際、単にデータを保存できればいいとは限らない。従来の操作性を維持できるか、品質管理に必要な承認記録を残せるか、現場担当者が継続的に改善できるかといった点も重要になる。
日揮グループの海外事業を担う日揮グローバルは、電気計装システム部の計装グループが数十年にわたって蓄積してきたトラブル事例の移行先として、ジャストシステムのクラウドデータベース「JUST.DB」を選定した。JUST.DB選定の決め手は何だったのか。
ナレッジ管理システム選定の決め手は4つ
日揮グローバルは、LNG(液化天然ガス)プラントをはじめとする海外の大規模インフラプロジェクトで、設計、調達、建設を担っている。プロジェクトは完工までに5年程度を要することもあり、その過程で生じた成功事例や失敗事例は、次のプロジェクトの品質を支える重要な資産になる。
同社の電気計装システム部計装グループでは、各工程で発生したトラブルと、その原因や対応策をデータベースに登録してきた。過去の事例を参照し、同じ失敗を繰り返さないことが品質管理の根幹にあるためだ。
しかし、長年利用してきたツールは自社の方針によって使用停止となった。後継として全社導入されたツールでは、従来の機能を完全に再現することが難しく、十分なサポート体制も整っていなかった。
数十年分のデータを移行できても、ユーザーが使いにくいと感じれば、参照や登録件数は減ってしまう。承認記録を適切に保存できなければ、品質管理の証跡としても利用しにくくなる。日揮グローバルは、単なる保存先ではなく、従来の運用を継承しながら改善できる新たな基盤を探すことになった。
決め手1.担当者1人でも構築できるノーコード仕様
JUST.DBを選んだ理由の1つが、プログラミングをせずに業務システムを構築できる点だった。
従来、現場部門がデータベースを新たに作る場合は、情報システム部門に要件を伝え、仕様書を作成し、開発を依頼するといった工程が必要だった。要望をシステムへ反映するまでに手間と時間がかかり、運用開始後の変更にも迅速に対応しにくかった。
JUST.DBでは、現場の担当者が画面や項目、ワークフローを自ら構築できる。日揮グローバルは、担当者1人を中心にトラブル事例データベースの再構築を進めた。
現場が自らシステムを作れることは、初期構築の負担を減らすだけではない。運用開始後に新たな要望が生じた場合も、現場の判断で機能を追加したり、画面を修正したりできる。業務を理解する担当者が直接改善できるため、対応のスピードを高められる点も評価した。
決め手2.承認記録を確実に残せる
サービスの選定に当たって、日揮グローバルが品質管理の観点で重視したのが、承認機能だ。
トラブル事例を品質管理に利用するには、情報が登録されているだけでは不十分だ。内容を誰が確認し、いつ承認したのかという記録を残す必要がある。承認者の記録は、登録された情報の信頼性を担保する証跡になるためだ。
日揮グローバルが検討した後継ツールでは、従来のシステムが備えていた承認記録の仕組みを再現することが難しかった。
一方、JUST.DBでは、標準機能を使って承認ワークフローを構築できた。登録された事例について、いつ、誰が承認したのかを記録として保持できるようになり、品質保証に必要な要件を満たした。
データ項目ごとにアクセス権を設定できることも選定理由になった。利用者や所属先に応じて閲覧、登録、編集できる範囲を制御することで、海外拠点やグループ会社を含めた情報共有と、適切なデータ管理を両立できる。
決め手3.従来の画面と操作感を再現できる
新しいシステムへの移行では、機能の多さだけでなく、利用者が迷わず使えるかどうかも重要になる。長年利用してきたシステムの画面や操作方法が大きく変わると、ユーザーは新しい使い方を覚えなければならない。入力方法が分かりにくくなれば、新規事例の登録が減る恐れもある。
日揮グローバルはJUST.DBの構築に当たり、従来のツールと同じような見た目や操作感を維持することを重視した。ポップアップ画面の項目や配置をできる限り踏襲し、従来の利用者が違和感なく操作できる画面を再現した。
利用方法を説明する動画も用意した。システムを刷新しながらも、既存ユーザーの負担を抑えることで、移行後もナレッジの検索や登録を継続しやすい環境を整えた。
決め手4.初期構築から運用までのサポート
日揮グローバルは、製品の機能だけでなく、ジャストシステムのサポート体制も評価した。
完全ノーコードで構築できるとしても、数十年分のトラブル事例を扱うデータベースには、承認フローや権限設定などの複雑な要件がある。現場担当者だけでは判断しにくい問題が生じた際、迅速に相談できる体制が必要だった。
JUST.DBでは、初期構築を支援するサービスが用意されていた。構築後もWeb会議を通じて相談でき、疑問や課題に対して迅速な支援を受けられる点が選定を後押しした。
日揮グローバルは、ノーコードによる現場主導の構築と、ベンダーによる支援を組み合わせることで、必要な機能を備えたデータベースを構築した。
約1年かけて数十年分のデータを移行
日揮グローバルは2023年8月にJUST.DBの利用を開始した。元のシステムに蓄積されていた数十年分のデータを約1年かけて移植し、正式リリースした。横浜本社の計装グループ約80人が利用している。世界各地の設計拠点や海外建設現場の駐在社員も、インターネット環境があればアクセスできる。
海外のグループ会社に対しても、必要な権限をデータベースごとに付与することで、ナレッジを共有できるようにした。建設現場でトラブルが発生した際には、その場で過去の類似事例を検索し、原因や対応策を確認できる。
横浜本社へ問い合わせて回答を待つのではなく、現場の担当者が直接データベースを検索できるため、迅速な判断を支援する基盤として機能している。
年間約30件の情報発信につながった理由
JUST.DBへの移行後、日揮グローバルは、日々の気付きを気軽に共有する「フラッシュレポート」機能を新たに構築した。従来のシステムでは、情報を登録して周知するまでのハードルが高く、更新が停滞しやすかった。新しい仕組みでは、レポートを作成して発信ボタンを押すと、グループのメンバー全員へ通知できる。
登録や周知にかかる手間を減らした結果、正式リリース後の1年間で約30件のフラッシュレポートが新たに登録された。過去の情報を検索するだけのデータベースから、現場のエンジニアが新しい知見を発信する基盤へと役割が広がった。
画面や操作感を従来のシステムに近づけたことも、発信のハードルを下げた要因と考えられる。製品の機能を導入するだけでなく、利用者が迷わず情報を登録できる仕組みにしたことが、ナレッジ共有の活性化につながった。
選定の決め手は「現場が継続して使えること」
日揮グローバルがJUST.DBを選んだ理由は、ノーコードで構築できることだけではない。
品質管理に必要な承認記録を残せること、利用者に応じたアクセス権を設定できること、従来の操作性を維持できること、構築や運用に関する支援を受けられることを総合的に評価した。
長年蓄積したナレッジを移行する場合、データを失わないことに目が向きがちだ。しかし、移行後に利用者が検索、登録、共有を続けなければ、ナレッジ基盤としての価値は低下する。
日揮グローバルの事例からは、ナレッジ管理システムの選定では、必要な機能の有無だけでなく、現場が自ら改善できるか、既存の利用者が無理なく移行できるか、情報発信を促す仕組みを作れるかを確認する必要があることが分かる。
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