徹底比較:オンプレミスとクラウド、選択で欠かせない3つのポイントとは「クラウドファースト」の現実

社内とクラウド、どちらにも長所と短所がある。では、オンプレミスとクラウドの利用のボーダーラインをどこに引くべきか。3つのポイントを踏まえて考えたい。

2015年04月24日 10時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 「クラウドファースト」という言葉が聞かれるようになって久しい。この言葉を旗印に、社内の業務アプリケーションをクラウドサービスに移行しようという動きも見られる。だが、多くの企業にとっては、クラウドサービスへの移行自体が目的ではない。クラウドサービスは、あくまでも自社のITを効率的かつ効果的なものとする選択肢の1つだ。

 クラウド化が目的であれば、どんな障壁や課題があっても、あらゆるアプリケーションやデータをクラウドに移行することになる。だが、自社のITの最適化や効率化が目的であれば、どの業務アプリケーションをどのように、どういうクラウドサービスに移行するべきか、一方でどのアプリケーションを社内(オンプレミス)でどのように運用するかを検討しなければならない。

 どのアプリケーションをオンプレミスで運用し、どのアプリケーションをクラウドで動かすか。これに頭を悩ませているIT担当者は多いはずだ。だが、全ての組織に当てはまるような単一の答えはない。組織の事業内容、これまでのIT活用の経緯および今後のIT戦略、情報システム担当部署と業務部門の関係などによって答えは異なる。だが、「オンプレミスかクラウドか」を考える際に、見落としてはならないポイントが3つある。これを紹介したい。

 オンプレミスかクラウドサービスか。どのアプリケーションをどこで動かすか。企業や部署によって考え方は異なり、決まった答えはない。

 確実にいえるのは、データ管理にブラックボックスの部分が存在してはならないケース、またはアプリケーションのパフォーマンスが決定的に重要なケースでは、オンプレミスしかあり得ないということだ。だが、実際はデータ管理とパフォーマンスがそれほど重要とはいえない「グレーゾーン」が大きい。オンプレミスとクラウドの利用のボーダーラインをどこに引けばいいのだろうか。

 冒頭で述べたように、1つの答えはあり得ないが、少なくとも下記の3つを指摘することはできる。

アプリケーションによってクラウドでの構築・運用コストは異なる

 例えば電子メールはユーザー企業が個別に機能を付け加えたいと思う要素は少なく、運用に関しても特別なニーズがないことが多いため、SaaSを採用しやすい。

 一方、企業の社内業務システムでは、パッケージを使ったとしても、ほとんど全ての場合、カスタマイズや追加開発を必要とする。そのため、業務システムをクラウド(IaaS)で動かしたからといって構築コストはオンプレミスと変わらない。

 運用に関しても、社内業務システムの場合は、必ずしもクラウドで楽になるということはない。IaaSの管理や作業は誰でもできるほど簡単ではないからだ。このため一般企業では外部の業者に運用を委託しているケースがよく見受けられる。

 また、IaaSでは、オンプレミスと同等の可用性を確保できるサービスの選択肢は多くない。データ保全に関しても、アプリケーションによって異なるデータ保護・復旧ポリシーをIaaS上に再現する必要があり、難易度は高い。また、一般的なIaaSでは、OS以上のレイヤーはユーザーの責任となっており、OSのメンテナンスやライフサイクル管理の負荷から逃れることはできない。さらに、データ転送量の多いアプリケーションの場合、社内拠点とクラウドサービス間のネットワーク接続を増強しなければならないことも考えられる。

 コストに関しても見てみよう。季節要因などでリソース利用量の変化が激しい、あるいは利用量が不確実なアプリケーションでは、クラウドの方がコスト低減が可能だ。しかし、リソース利用が比較的安定しているアプリケーションでは、オンプレミスの方が安価だというのは、多くのユーザー企業が証言している通りだ。

 特に、パフォーマンスや可用性、セキュリティに関する対策コストを考慮すると、このことが当てはまる。オンプレミスとクラウドのコストを比較する際には、アプリケーションごとに、オンプレミスと同等、あるいはそれに近いレベルのパフォーマンスや可用性、セキュリティを必要とするかをまず考えなければならない。必要とするならクラウドでこれを実現できるのか、実現できるなら追加コストはどれくらいなのかを計算し、コストを比較する必要がある。

クラウドは必ずしもオープンなわけではない

 「既存のオンプレミス製品はクローズドで、クラウドはオープンだ」と主張する人がいる。だが、「オープン性」の維持をコストと捉えるなら、どちらが低コストかは、一概にはいえない。

 いつでも利用を停止できるのはパブリッククラウドの魅力でもある。しかし、一般企業の場合、クラウド上のシステムを別のクラウドに移行しようとすると、業務アプリケーションの構築・移行に掛けたコストが無駄になってしまう。特にアプリケーションや運用体制を特定クラウドサービス事業者の機能に依存する形で構築してしまうと、他の事業者にそのまま適用できないため、移行コストは大きくなる。

 また、クラウド事業者の中には、外向きのデータ転送量に応じて課金をしているところがあり、大量のデータを他のクラウド事業者や社内に移行する際には、多額な課金が発生することも考えられる。

新世代のオンプレミス用ITインフラ製品を考慮する

 上記の新世代のオンプレミス用ITインフラ製品の良い例の1つとして挙げられるのが、シスコシステムズの「Cisco Unified Computing System(以下、Cisco UCS)」だ。Cisco UCSが市場シェアを急速に伸ばし、シスコが数年のうちに世界最大級のサーバベンダーとなった理由は、同製品が既存のサーバ製品とは全く異なる考え方に基づく製品だからだ。

 Cisco UCSは、サーバの新設・増設、運用に関する負荷を大幅に軽減する。「サーバをクラウド的に運用できるようにした製品」と表現することもできる。

 Cisco UCSでは、ブレードサーバタイプの場合でもネットワーク配線は2本(冗長構成のため)だけだ。各ブレードのネットワーク接続も、物理接続を適切に論理分割するよう設定ファイルに書き込み、この設定ファイルを適用するだけで設定できる。サーバ仮想化環境を組む場合には、アプリケーション用ネットワークと管理用ネットワークの物理配線が分かれるなど、各ブレードのネットワーク接続の複雑化が大きな問題になることも多いが、Cisco UCSではこの頭痛の種から解放される。

 Cisco UCSの設定ファイルでは、ネットワーク構成以外にもサーバを新設する際に行わなければならない各種の設定を自動化できる。こうしてサーバ設置の時間と手間を大幅に削減できるのだ。

 拡張作業についても大幅な省力化が実現している。新規サーバに2本のイーサネットケーブルを差し込み、既存のサーバ環境と整合性の取れる設定ファイルを投入するだけで済む。

 とはいえ、サーバの導入では、事前検証に時間と労力を割かれるのが嫌だという人が多い。この問題に対処するためシスコでは、NetAppとの提携による「FlexPod」など、複数のパートナーと協力して事前検証済みの構成を提供している。

 シスコのCisco UCSに関する活動で興味深いもう1つのポイントは、サーバ上で稼働するアプリケーションやITサービスを、インフラとしてどのように支えられるかという点に多くのリソースを注ぎ込んでいることにある。

 その良い例はGPU仮想化への取り組みだ。オンプレミス製品の可能性が最大限に発揮できる用途の1つに、3D CADなどのヘビーグラフィックスユーザーのためのデスクトップ仮想化がある。NVIDIAやCitrix Systemsなどとの相互協力により、単一GPUの機能を複数の仮想デスクトップユーザーが共有できるGPU仮想化を、海外および国内でいち早く検証し、提供してきた。

 デスクトップ仮想化で3D CADをストレスなく使えれば、CADエンジニアの業務環境を変革できる可能性がある。つまり、CADエンジニアは、グラフィックスボードを装備した高価なワークステーションが割り当てられていなくとも、一般的なPCから自在に、グラフィックス機能を活用できるようになる。自分の机や、共有ワークステーションコーナーに縛られることはなくなる。企業の側も、決して安価ではないグラフィックスカードの機能を複数ユーザーで簡便に分け合える環境を提供でき、ユーザーの利便性とコスト効率を、同時に高められる。

 オンプレミスのITインフラの運用をクラウド感覚で行えるようにし、一方でアプリケーションに着目して、新たな可能性を開く。こういう製品について知れば知るほど、単純な「オンプレミス対クラウド」の議論は不十分であることが、実感できるはずだ。


提供:シスコシステムズ合同会社
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