人口減少/少子高齢化の問題と向き合う宮城県丸森町では、同町への移住/定住を促進する取り組みの一環として、Oracle Cloudを活用した観光客などの動態把握プロジェクトを推進している。これを町の魅力の再発見につなげたい考えだ(本コンテンツは@ITからの転載です)。
近年、地域社会が抱えるさまざまな課題をテクノロジーの力を活用して解決する「CivicTech(CivTech)」への取り組みが活発化している。日本オラクルが2016年10月に開催した「Oracle Cloud Days Tokyo 2016」のセッションでは、このCivTechの実践例として、宮城県丸森町による「訪問客の動態把握システム」の事例が紹介された。同システムの実現では、システム基盤として「Oracle Cloud」が利用されるという。果たしてOracle Cloudは、同町が進める「訪問客の動態把握」、そして地方創生をどう支えようとしているのか。
新たなテクノロジーは、これまで“常識”とされていた社会やビジネスのルールを変える力を持つことがある。CivTechは、この点に着目し、地域社会が直面する課題をテクノロジーの力も使って解決していこうという取り組みだ。特に日本では「少子高齢化対策」や「地方創生」の解決策として、ITを活用した有効なソリューションの登場が期待されている。Oracle Cloud Days Tokyo 2016のセッションでは、まず日本オラクルの新井庸介氏(クラウド・テクノロジー事業統括Cloud Platform事業推進室ソリューション・アーキテクト部 担当シニアマネジャー)が登壇し、オラクルと「地方創生」とのかかわりについて紹介した。
我が国における人口減少および少子高齢化の傾向は、2015年に実施された国勢調査の結果※1からも明らかである。加えて、日本の労働生産性がOECD主要先進7カ国中、最下位であるとの調査結果※2を鑑みても、人口1人当たりの労働生産性向上が国力維持/向上に向けた急務となっており、「日本のお客さまのために事業を行う日本オラクルも、これを喫緊の課題と認識している」と新井氏は話す。
また新井氏は、特に日本では人口分布が東京と大阪の大都市圏に集中しており、企業や産業も同様の傾向にあることが生産性向上の阻害要因の1つになっているのではないかと指摘。「働く場所の集中を避け、より多様な地域で労働に従事できる環境を作っていくこと、つまり“地方創生”こそが、労働人口の増大、生産的な業務に携わる時間の増加、ひいては労働生産性を高めることにつながるのではないか」との見解を示した。
オラクルの製品やサービスは、これまで「主に大規模な企業/組織に向けたもので、小規模な自治体や中小規模企業での導入は難しい」という印象を持たれてきたかもしれない。だが、同社がクラウドへの注力を最優先事項とし、サービスの拡充が進んだ今日、その認識は過去のものになったと新井氏は強調する。
「高価で維持コストのかかるIT資産を自ら所有するのではなく、必要な時に使った分だけの料金を支払って使えるのがクラウドの大きなメリットです。Oracle Cloudは、オラクル製品の高い機能を、早く、安く、そして簡単に使えるサービスとして、特に中堅中小規模の組織や企業、自治体の皆さまにご活用いただきたいと考えています」(新井氏)
実際、すでにいくつかの地方自治体や組織がOracle Cloudを活用した地方創生の取り組みを進めているという。新井氏は、香川県小豆群土庄町豊島におけるパーソナルモビリティのレンタルサービス事業(瀬戸内カレン)、サッポロビールにおけるマーケティングへのSNS活用、北海道が取り組む「旅行者の声」分析による地域活性化対策などの例を挙げ、なかでもOracle Cloudの各サービスを積極的に活用した事例として、徳島県那賀町における「動画コンテストクラウド」の構築事例を詳しく紹介した。
“紅葉の名所”として知られる徳島県那賀町では、毎年秋の行楽シーズンに合わせてさまざまなイベントを実施しているが、2016年はその一環として、市民や観光客が撮影したイベントや風景の動画を募るコンテストイベント「イイ!naka動画コンテスト」を企画した。ただし、このコンテストを実現するには、次のような課題を解決する必要があった。
これらの課題の解決に当たり、那賀町はOracle Cloudの複数のサービスを活用している。具体的には、情報発信サイトの構築に「Oracle Sites Cloud Service」、応募者との動画ファイルのやりとりに「Oracle Documents Cloud Service」、そしてネット上で“那賀町のファン”を見つけてアプローチするために「Oracle Social Cloud Service」が使われた。
那賀町が採用したOracle Social Cloud Serviceは、Twitterなどのソーシャルメディアでやりとりされる膨大な情報を収集し、特定の話題に関する発言を時系列で集計したり、発言の内容がポジティブなものか、ネガティブなものかを判別したりといった分析が行えるサービスだ。同サービスには、ソーシャルサイトからのデータ収集に関する権利も含まれており、日本語の他に英語、中国語などの外国語にも対応する。このOracle Social Cloud Serviceで分析したデータを基に“那賀町のファン”を見つけ出し、直接アプローチするといったかたちでプロモーション活動に役立てたという。
宮城県丸森町の事例も、こうした「クラウドによる地方創生」を目指す取り組みの1つである。新井氏に続いて壇上に立った丸森町役場 子育て定住推進課 定住推進班 班長の安島和仁氏が、同町における取り組みを紹介した。
宮城県の最南端に位置する丸森町は、総面積273平方kmで、約1万4000人の人口を抱える。この町で生まれ育ったという安島氏は現在、同町への移住/定住を促進する「移住定住サポートセンター」の開設をはじめ、さまざまな施策を手掛けている。丸森町も、多くの地方自治体と同様に少子高齢化や人口減少の課題を抱えており、有効な解決策を模索している途上なのだ。
「人口減少や少子高齢化によって“住民力”が下がると、どうしても公的機関への依存度が高まってしまいます。一方で、役場側も住民が本当に必要としているサポートを提供できているのか、この町が将来的に発展していくための力を付けるうえで、補助金を出すという施策のほかにできることはないかという思いを抱えてきました。これは役場の全ての業務にも当てはまることであり、私が現在取り組んでいる丸森町への移住/定住促進に関しても同様です」(安島氏)
同町では、「HELP! MARUMORI」というキャッチフレーズを掲げ、丸森町への移住/定住を促進するプロジェクトを推進している。これは、「今、住んでいる町民と、町外から移住してくる人々が協力して、町が抱えるさまざまな課題を解決していく基盤を作る」ことを目指したものだと安島氏は説明する。
プロジェクトでは「移住・定住サポートセンター」を開設し、移住希望者に対するワンストップの相談窓口、移住希望者向けの各種イベントの開催、受け入れ側の地域におけるサポートや意識の醸成といった活動を行っている。現在は町役場が主導しているが、「これらの取り組みを通じて、町民自らが『多くの課題は自分たちの力で解決できる』ことに気付いてほしいという思いを強く持っています。将来的には民間に運営を移管することも視野に入れています」と安島氏は話す。
HELP! MARUMORIプロジェクトをサポートするためのシステムは、地方創生推進交付金対象事業の一環としてOracle Cloud上にCRMシステムとして構築される。このシステムにより、丸森町への移住希望者や将来的に移住者となりうる観光客を同町の“顧客”と捉え、彼らのリアルおよびネットでの動態を把握/蓄積/検証することでプロモーションに生かすという取り組みを推進する。
具体的には、丸森町を訪れた観光客などにGPS付きのスマートデバイスを配布し、町内を自由に散策してもらうことで、町民には気付きにくい丸森町の魅力的な場所/地域などを発見し、また訪問の印象、各所での滞在時間などを調査する。これらの成果を今後の施策に生かしていこうというわけだ。
この「訪問客の動態把握クラウド」の構築基盤としてOracle Cloudを選択した理由として、安島氏は「構築、操作が容易」「日本オラクルとの協業による情報発信効果」「日本オラクルの地方創生へ向けた強い意気込みへの共感」などを挙げる。
「この動態把握クラウドを有効に活用して、こうしたシステムが地方創生の加速につながることを実証していきたいと思います。また、その結果として地域が抱える課題を解決し、新しく加わった方々も含めた町民一人一人が求める幸せのかたちを具現化していきたいと考えています」(安島氏)
安島氏の講演が終わると、再び新井氏が登壇し、丸森町の「動態把握クラウド」を構成する要素技術について補足説明を行った。
このシステムに課された要件は、「『町を訪れた人が、どんなルートで、どこへ行き、どれだけの時間を過ごしたか』についての情報収集と可視化、分析が行えること」というものだ。この要件を実現するために使われるOracle Cloudの主なサービスは、次の3つとなる。
訪問客に配布するスマートデバイスはGPSを搭載しており、そこから収集したデータは、まずOracle Database Cloud Serviceに蓄積される。そして、蓄積されたデータがOracle Java Cloud Service上のアプリケーションで可視化され、さらにOracle Data Visualization Cloud Serviceを使って大規模な分析を行うといった流れになる。導入や設定の容易さ、IoT(今回はGPS付きデバイスからのデータ収集)向けのREST APIへの標準対応、Webアプリケーション作成ツール「Oracle Application Express(APEX)」による簡単かつスピーディなWebアプリケーション開発などのメリットが、今回のような短期間での環境構築が必須となるプロジェクトには特に適していると新井氏は話す。
「私たちは、HELP! MARUMORIプロジェクトのコンセプトに強く感銘を受けました。このキャッチフレーズには、単に『助けてほしい』というのではなく、自分たちの課題を自分たちで解決できる環境を作るために、外部の力を積極的に活用していこうという思いが込められているのだと思います。このプロジェクトの成功に向けてOracle Cloudがお役に立てるよう、日本オラクルも力を尽くしていきます。また今後も、全国各地の自治体で地方創生に取り組んでおられる皆さまのお手伝いをしていきたいと思っています」(新井氏)
以上、日本各地でOracle Cloudを活用して進められるCivTechの取り組みと、その代表例の1つである宮城県丸森町のHELP! MARUMORIプロジェクトを紹介した。最新のITソリューションを低コストでスピーディに導入でき、現場担当者が手軽に使えるサービスを豊富にラインアップしているOracle Cloudは、小さな組織で地域社会の課題に挑む地方自治体にとって、まさに最適なコンピューティング環境である。日本オラクルは、同サービスの提供と活用支援などを通じて、引き続き地方創生をはじめとする自治体の取り組みをサポートしていく。
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