財務・経理はなぜ企業コミュニティーの中心であるべきか、専門家の提言スペシャリスト対談

財務・経理部門の業務改革はやみくもに進めてもうまくいかない。企業経営においてデータの重要性が増す中、何を目指すべきか、どう変わるべきかを会計に関するスペシャリストの対談でお届けする。(本記事はキーマンズネットからの転載です)

2019年10月04日 10時00分 公開
[提供:株式会社富士通マーケティング]

 バックオフィス業務のデジタル変革というと、とかく入出力業務の自動化だけに注目が集まる。だが「今まで通りの業務フローを自動化する」といった類いの変革だけでは、人手不足には効果はあるかもしれないが、到底変革の本質には触れられない。

 特に財務・経理部門のデジタル化は部門のデジタル変革を起点に企業活動全体の変革や機動力を直接的に高めるアプローチが可能なだけに、その本質を見誤るのはもったいないのだという。本稿はスペシャリスト2人に組織を変える財務・経理の在り方を聞いた。

集計、チェックで疲弊する財務・経理部門

 「データ経営」が注目され、企業は迅速かつ的確な判断が求められる。その基となるデータを提供し、経営判断をサポートする役割を担うのが財務・経理部門だ。しかしデータを集計するだけで疲弊する財務・経理部門も少なくなく、業務を改革しようにも、どう変わればよいのか、何を目指せばよいのかが分からないと途方に暮れる様子も見えてくる。

 今回は、企業の基幹業務に関するIT戦略に多くの知見を持ち、国内外多数の企業研究を手掛ける公認会計士の松原 恭司郎氏と、米国で会計学を学んだのち、ERPパッケージのコンサルタントとして活躍する富士通マーケティング ソリューション事業本部GLOVIA会計・人事給与事業部の浦谷秀一氏が「企業の会計システムや財務・経理部門のあるべき姿」をテーマに対談。現状の課題や背景、これからの時代に求められる会計について語った。

企業の共通言語はそれで大丈夫か? 「管理会計」運用のアナログさの真因

1  松原 恭司郎氏

松原氏: この10年ほどは中堅・中小の企業であっても、グローバル化の進展を実体験として感じるのではないでしょうか。もはや10年前のビジネスと同じ仕組みではうまくいきません。それで済むならばデジタル変革、データ経営を目指す必要はないでしょう。今は先の見えない「変化の道」を行かなければならない状況です。この意味で、いかに「直近の情報を正確に取るか」が重要な時代になりました。

 一方でデータはあふれています。玉石混交のデータから自社にとって何が有用なのかを見極める必要があるでしょう。そこで一番重要になる、共通の言葉が会計です。ですから、どんな企業であっても経営層は財務会計と管理会計の両方を押さえておかなければなりません。

浦谷氏: 弊社の使命は、お客さまの企業価値を高めること。そのためには、財務会計と管理会計は融合すべきです。また、その数値を企業全体で共通言語化することでさらに価値が高まります。財務会計を会計システムで扱う企業がほとんどですが、管理会計は企業のライフサイクルによって観点がどんどん変わります。その変化にシステムが対応し切れず、結局は「Microsoft Excel」に依存する企業も多い。その結果、財務会計として会計システムに集めたデータを抽出して加工し、それを転記して作成した資料が元データと合っているかどうかを照合するといった業務フローに陥り、かなりの手作業が生まれます。人手でやるのは非効率ですし、人的ミスも発生します。

 富士通マーケティングの「GLOVIA iZ 会計」が掲げる「財管一致」というコンセプトはまさにこれを解決するものです。財務会計として幅広いデータを集め、管理会計まで一元化する。それにより最適化、合理化を目指す考えです。

財務情報と経営のつなぎ方、実務の本質は

松原氏: 非効率な手法から抜けられない企業が多いとのことですが、ここにも段階があると考えます。効率化の視点から職能を専門分化してそれぞれが高機能化すると、次の段階に「統合」があります。うまく統合することで「財務会計の情報を管理会計にフィードバックする」という相乗効果を狙えますね。

 ここまで来ると、単純な財務・経理だけでなく、経営システムと結び付くことも増えますから、経験のあるコンサルタントの支援を受けないと実現は難しいでしょう。このとき、コンサルティングとシステム導入を切り分けると無駄が発生しがちですね。かつてのERPパッケージ導入は、帳票レイアウトなど現場の要望を実装することに終始し、多くの企業が失敗しました。一方でコンサルティングのみでは「あるべき論」ばかりになってしまう。

2  富士通マーケティング 浦谷秀一氏

浦谷氏: ERPは経営者のためのシステム。経営者が必要とする情報は「現場」から一定のフィルターを経て収集されます。仕組みとして、現場と経営とがうまく連携できていない場合は、現場に運用の負荷がかかります。ですから、ERPには現場オペレーションの負荷を極力軽減し、経営者に情報を円滑に届けるフローとアーキテクチャが必須だと考えます。

 その上で経営者と現場が、同じ情報を見て判断できる環境を提案します。

 最近ではコンサルティング専門の企業でも総合的な支援を目指してエンジニアを採用するケースが増えています。業務分析をして何らかのシステムを組み合わせて実装するところまでを担うイメージです。われわれが彼らよりも一歩深く本質まで踏み込めるのは、コンサルタントやエンジニアでありながら、システムベンダーとしての側面も担い、両方の視点を持って動ける立場にあるからです。お客さま企業の「業務のグランドデザイン」を丸ごとシステムに落とし込み、現実的な方法で具現化するすべを全て持ち合わせていると自負しています。

 表面的な要望だけに対応するのではなく、背景にある業務課題の真因を探り、解決することを目指して、業務改善を提案できることがわれわれの強みです。その中でRPA(Robotic Process Automation)やBPR(Business Process Re-engineering)を含む総合的な現場業務の自動化や効率化も併せて検討していきます。

全明細データを保持する財務会計基盤で「財管一致」を実現することの意味

松原氏: GLOVIA iZ 会計は「財管一致」というコンセプトを持っていますね。私は過去、「S&OP」(Sales & Operations Planning:グローバル製販在庫計画システム)に関する書籍の中で、組織が同じ情報を素早く見て判断することの重要性を説いてきました。経営リスクに素早く対処するには最新かつ唯一の情報を皆が見て分析できることが理想です。

浦谷氏: お客さまは財務諸表を通して数値の結果と理由が知りたいのです。そこでGLOVIA iZ 会計は、財管一致の思想に基づき、企業活動の全てを「明細」として保持する基盤を搭載することが特長です。財務のみを考えると、明細の情報はさほど重要ではないかもしれません。それでもなお明細を保持すべきと考えるのは、そこに判断のヒントとなる活動根拠が記録されているからです。

 一般的な会計システムは、貴重な経営資源である明細を集約して保持するケースが多い。システム側の能力の問題として、詳細な明細を全て持つと実用的な性能を出せないからです。せっかく手元にある判断材料を自ら捨ててしまう実にもったいない状況です。

 この点、GLOVIA iZ 会計はオンメモリ構造を採用することで性能劣化が起きにくい基盤にしています。これを20年前から実現できたのは、データベースからアプリケーションまでを一貫して設計できるからに他なりません。明細を持っているからこそ、財務情報から「いつ、どの部門が、どの企業へ、どういう目的で、どんな取引を、なぜ行ったのか」といった「5W1H」の情報をすぐに追跡できます。

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松原氏: 浦谷さんがおっしゃる「財管一致」は単に財務会計と管理会計の数字が一致するというだけでなく、両者を融合させて有機的な判断に結び付ける仕掛けということですね。

 さらに言えば、ほとんどの企業が四半期ごとに戦略的な数字を確認するのがやっと、というのが中堅規模の企業の本音ではないでしょうか。人が認識できる変数には限りがありますから、KPIとして企業のビジネスにとって影響の大きい数字のみをチェックしますね。そこから外れたものは基本的に問題ないという前提で考えますが、異常が発生したらタイムリーな対応が必須です。全ての数字をリアルタイムに追い掛けなくても、いざというときに鮮度の高い情報を入手できることの重要性が高まっていますから、GLOVIA iZ 会計のような仕組みが有効でしょうね。

財務・経理部門を本来の役割にシフトし、ポジションの価値を上げる

浦谷氏: 私たちはシステムベンダーですが、「モノ売りよりも、コト売り」をうたっています。GLOVIA iZ 会計も財務・経理部門の価値を上げるという「コト」をシステムとコンサルティングでどう実現するかに注力しています。

松原: 財務・経理での「コト」というと、どういった内容を考えておられますか。

浦谷氏: GLOVIA iZ 会計は中堅企業向けです。お客さまは現状の業務運用に手いっぱいで、情報収集や業務改善に人的リソースを割きにくい状況にあることが多いのです。ですから、われわれは全業務のヒアリングから導入支援を始めます。

 財務・経理部門の手続きがまるで企業ごとの「文化」のように固定され、何十年も運用されていることが少なくないからです。過去は最適だった業務も、現在の状況に照らすと非効率な工程が残されていることもあります。実際に、システムを導入せずに運用を改善するだけで10あった業務を7にまで減らせるケースが少なくありません。その上でシステム化することで7の業務を4や3に効率化する方法を提案するのです。こうしてできた余剰リソースを経営層からの要望などに回すことで、財務・経理部門を本来の役割にシフトできます。

松原氏: プロダクトが解決する部分ももちろんありますが、その前段階のBPRは私も非常に重要だと考えます。サービスとして提供することは今の時代の需要にマッチしていて素晴らしいですね。私自身もビジネスモデル研究を手掛けていますが、サービス・ドミナント・ロジック(サービス中心の考え方)は利用者にもメリットが多く、今後ますます増えていくことでしょう。顧客企業の経営層の皆さんも、このビジネスモデルを今後の経営のヒントにされるとよいでしょうね。

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誰もがアクセスできる社内の「共通言語」として1つの情報を見る

浦谷氏: 経営のヒントという意味では、実は「GLOVIA iZ 会計を企業の経営基盤にしたい」という思いがあります。会計システムに誰もがアクセスし、データを使えるようにすることで、経営層も現場社員も共通言語として同じ数字を見て、それぞれが判断できるようになります。

松原氏: 経営層だけでなく、部門や担当者レベルで共通の認識持つことは、経営戦略を考える上でも非常に重要です。その際、重要なのは同じ時点の同じ情報を把握するということ。GLOVIA iZ 会計は、単なる財務・経理システムのリプレースでもよいでしょうが、ポテンシャルとして「企業の共通言語を提供する設計」だということはもっと知られてもよいでしょうね。

浦谷氏: ぜひ知っていただきたいですね。逆説的ですが、この組織全体へのアプローチが同時に、財務・経理部門の実務の改革にも結び付きます。これまでは経営層や部門長に「紙を配る」「現場にメールをする」など、プッシュ型で発信するしかありませんでしたが、自分からデータにアクセスできるようになると、その煩わしさがなくなるだけでなく、各部門が自分自身の課題として認識するようになります。

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 会計のシステムは基本的に過去のデータの集約ですから、未来は見られません。月次の集計ならば1カ月前の情報から原因を探索して今後の業績を占うわけです。しかし、ごく限られた人たちだけでなく、現場が情報を見られれば、この状況も変わってくると考えます。 現場の方が改善の発想力を持っているケースは大いにありますからね。

松原氏: その通りです。私が会計士として常々経営者の皆さんにお話しするのは「会計は死亡診断書である」ということ。変わらない事実の宣言なのです。月次決算をいくら早期化してもそれ自体は結果にすぎません。実際に必要なのは時々刻々と変わる状況を把握して、手を打てるタイミングで対策していくこと。GLOVIA iZ 会計の仕組みがあれば、情報共有をして、しかるべき現場の担当者が何らかのアクションを取ることができます。「財管一致」というコンセプトが有効に機能しているように思います。


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