2021年04月08日 10時00分 公開
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DXで医療現場の未来を作れ 「レガシー」だった札幌の病院を変えた挑戦コロナ禍でもスピーディーな開発を実現

数年前までPHSや旧来のシステムを使って業務を回していた病院は、あるきっかけでITシステムの総入れ替えを決意した。だが、コロナ禍でプロジェクトリーダーは現場に来られず、現場も激しく抵抗する。危機を乗り越えた起死回生の戦略とは。

[ITmedia]

 「心臓の病気で患者を死なせない」という信念を持つ循環器疾患の専門病院が、北海道札幌市にある。医療法人札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック(以下、札幌ハートセンター)だ。

 心臓カテーテル治療の専門医である藤田 勉氏(理事長)が2008年に開業し、2012年に心臓外科を開設して以来、全ての循環器疾患に対応する。外来患者は24時間受け付け、初診から患者を待たせない迅速な治療を目指す。年間2000件以上のカテーテル治療をこなせる病院は全国でも珍しい。さらに多くの患者を受け入れるため病院を拡張し、最新の医療機器の導入や専門医の増員も進める。

 順風満帆にも見える同院だが、実は大きな「課題」を抱えていた。大規模な患者数を抱えた運営に必要なITインフラが弱かったのだ。外国の最新鋭の病院が運営をシステム化し、スマートフォンを使って多数の患者をスムーズに受け付ける様子を目の当たりにした藤田氏は、当時はまだアナログな業務フローに頼っていた同院の現状との格差を知り「札幌ハートセンターを、世界トップクラスのITを備えた病院にする」と決意した。こうして始まった同院の挑戦は、どのような道のりをたどったのか。

 札幌ハートセンターの藤田氏が同院の「弱点」に初めて気が付いたのは、2018年に中国に本社を置くアジアの医療グループと合併したときだった。武漢にある最新鋭の病院を見学したところ、医療を支えるITインフラが「日本とは天と地ほど違った」(藤田氏)という。

札幌ハートセンターの藤田 勉氏(理事長)(画像提供:札幌ハートセンター)

 「患者は高齢者も皆スマートフォンを持って受け付けし、自分の検査データを取り込んで診療に進む。もちろん支払いもキャッシュレスで即座に済む。中国の大病院は多くの患者であふれているが、システム化されていなければこれだけの患者をさばくことは難しい。当院を含めて、日本との違いに声が出なかった」(藤田氏)

 だが中国が飛び抜けていたわけではなかった。日本以外の多くの国で病院の運営は高度にIT化されていた。患者の負担低減に注力していたつもりだった藤田氏は、他国の病院と比べてIT化が進んでいないことにがくぜんとしたという。

 札幌ハートセンターは当時、日本の他の病院と同様に受け付けから会計まで、紙のカルテを職員や医師が手渡しで連係していた。多くの患者を治療できてはいたが、現場の職員や医療従事者の努力に頼っていた部分も大きかった。病院の規模を拡大しつつ現場や患者の負担を減らすためには、IT化による運営の効率化が不可欠だった。

かつては電子カルテ導入に失敗も、手痛い「学び」を新プロジェクトに生かす

 同院は、IT導入に当たって過去に手痛い失敗も経験していた。かつて電子カルテの導入を試みたが、定着せず廃棄していたのだ。その経験から「特定のシステムだけを導入しても、全体の業務を変革しなければ成功しない」と藤田氏は学んでいた。そこで同氏は、現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を率いるリーダーとして一人の研究者を抜てきした。それが岡田 悠偉人氏だ。

 岡田氏は米国在住の疫学専門家で、ハワイ大学のがんセンターに勤務する。日本で多くの症例を持つ札幌ハートセンターに注目し、2019年から同院の臨床研究部に所属する。岡田氏は藤田氏との会話で、医療データを取り出したくても同院にデータベースが存在しないことを問題点として指摘していた。

 岡田氏は、藤田氏の目指すDXに賛同し、2019年8月にプロジェクトを立ち上げた。病院全体の方向性を決める立場として藤田氏が協力し、同院のゼネラルマネージャーである才門功作氏が資金面でバックアップした。

札幌ハートセンターの才門功作氏(画像提供:札幌ハートセンター)

 才門氏は「これから当院グループを拡大する中、その中心として札幌ハートセンターのデータ収集に向けたIT基盤の構築は、非常に重要な投資になると考えました」と話す。

 新システム構築に当たり、岡田氏は「今最高のシステム」ではなく「10年後、20年後の最高のシステム」の構築を念頭に置いた。

 そのために「コンセプトを固めて目指すDX像を明確化すること」を重視した。札幌ハートセンターが最初に策定した基本計画書には、次の3つの目標が記された。

  1. 国際基準で20年使える先進的なシステムを構築する
  2. 全体的なシステム更新を2021年末までに終了する
  3. 中国サイドと連携して日本で一番のIT設備を備えた病院とする

 岡田氏は、コンセプトと同時に運営の透明性やコミュニケーション、運営メンバー、ベンダーへのリスペクトを重要な要素として掲げた。「医療関係者は、ともするとベンダーを見下した態度を取りがちだ。そうならないようにルールをしっかり決めて、リスペクトを特に重視した」と、同氏は話す。

DXプロジェクトの「土台」を作る

 新システム構築に当たっては「準備段階」も重要だ。札幌ハートセンターの場合、その第一歩は、セキュリティや可用性を長期にわたって確保するためにサーバ拠点を院外に置くことだった。

 石狩市にさくらインターネットが稼働させる「石狩データセンター」があることを知った同氏は、同センターでサーバをホスティングして専用線で札幌ハートセンターとつなぐことにした。

 次の段階は既存システムの棚卸しだ。当時、サーバやネットワークがどのように稼働しているのか院内の誰も把握しておらず、院内インフラの配線図もない状態だった。さくらインターネットや同社のグループ企業であるビットスターの支援を受けながらアセスメント作業に着手した岡田氏は、現行システムの予想を超えた複雑さに直面した。

 「当院に限らず、日本の医療現場は放射線検査やエコー、看護、栄養管理、リハビリなどのシステムを別々に動かすケースが多いと言えます。当時、札幌ハートセンターにも専門のシステムが全部で20も存在し、それぞれが断片化していました。情報系システムも古く、院内でPHSや大きなノートPCを使っている状態でした。日常生活では当たり前のようにスマートフォンを使っているのに、日本の病院のITは20世紀で時間が止まっているように思えました」(岡田氏)

 岡田氏は、新システムの構造を次のように考えた。まず全体のプラットフォームを作り、その上に電子カルテをはじめとした各種のアプリケーションやシステムを載せる。「システムを次々と差し込んでいくプラットフォームを作れば、個別のシステムに入れたデータは全て一つにまとめられる」と考えた結果だった。一部のシステムを入れ替えても、他に影響が出ないというメリットもある。

 新たな電子カルテ探しは難航したが、全国のベンダーをしらみつぶしに当たった結果、宮崎県で活動するコア・クリエイトシステムに行き着いた。同社の電子カルテはモバイルデバイスで使える機能に特化していた。治療中に患部の動画をスマートフォンのカメラで撮影し、カルテに貼り付けることも可能だ。患者の腕に装着したタグのQRコードをスマートフォンで読み込めば、必要な点滴の種類がすぐに看護師に伝わる。「これを使えば、日常生活のIT利用に近い医療が実現できると思いました」と岡田氏は話す。

 コア・クリエイトシステムも新しい挑戦に積極的だった。電子カルテの導入に当たってはさくらインターネットがデモに立ち会った他、システム構築についても積極的な提案を続けた。同社を含めた複数のベンダーが連携し、システムのコンサルティングやアイデアに至るまで幅広くプロジェクトを支援する体制を整えられたことで、札幌ハートセンターは2019年12月にコア・クリエイトシステムの電子カルテの導入を決めた。新システムの主要な構成は2019年の末までにほぼ固まった。

コロナ禍でもスピーディーな開発を支えたコミュニケーション戦略は

 札幌ハートセンターは2020年1月、新たなシステムの開発段階に移行した。キックオフミーティングの席で、岡田氏は「新システムを8月には稼働させる」と宣言した。

 スピーディーな開発の鍵になったのはコミュニケーションだ。岡田氏は、米国で経験したプロジェクトを参考に定例会議を毎週オンラインで開催し、日本と米国、中国をつないで進捗(しんちょく)を確認して課題の対策を検討した。

札幌ハートセンターの岡田 悠偉人氏

 「合計20ものベンダーが関わる大きなプロジェクトだったので、毎週の定例会議で小さな問題でも共有し、ベンダーが単独では解決できない問題は私が預かり、翌週に報告するのを繰り返しました」(岡田氏)

 新システムの構築や運営に当たり、さくらインターネットやビットスターと築いた二人三脚の体制もプロジェクトを支えた。問題が起こった際も迅速に対応できる他、地域の患者のデータを遠隔地ではなく地元の拠点に置きたいという意図もあった。

 プロジェクトは思わぬ課題にも見舞われた。その一つがコロナ禍だ。普段米国にいる岡田氏は当初、月に1回来日して定例会議で足りない部分を補うつもりでいた。だがコロナ禍で来日が不可能になり、全ての指揮をリモートで執ることになった。しかし、かえって定例会議のやりとりがより濃密になり、状況をつぶさに把握しながらプロジェクトを進められたという。

 コロナ禍で院内のネットワーク工事が多少遅れたものの、各アプリケーションベンダーは感染防止策を徹底して粛々と開発を進めた。当初予定していた2020年8月のシステム稼働は不可能になったができる限り早期の導入を目指した。その結果、2カ月遅れの同年10月に新システムの稼働にこぎ着けた。

 「電子カルテ導入は3〜5年かかるケースも多いのですが、10カ月で実行できたのはメンバーの方向性を共有し、週1回の会議で進捗を管理した成果だと考えています」(岡田氏)

システム前後には波乱も 抵抗する現場に納得してもらった方法は

 プロジェクトに立ちふさがった課題は、コロナ禍だけではなかった。稼働前後の数カ月、現場で「今新システムを使いこなすなど無理だ」という抵抗が起こったのだ。彼らの説得に当たったのは藤田氏だった。同氏は現場や理事会に対して「DXに関しては岡田氏に一任している」と繰り返し発信することで、明確な信頼を示し続けた。

 ゼネラルマネージャーを務める才門氏は「当院は藤田理事長のリーダーシップに現場がついて行く文化ができていたため、理事長が(岡田氏を)信頼する姿勢を見せ続けたことは、プロジェクトを成功させた大きな要因だと思います」と話す。

 札幌ハートセンターは新システムを土台に、今後はデジタル技術を使った地域医療の連携や医療のさらなる効率化を進める。岡田氏は「現在はデータを蓄積することを重視しています」と話す。

札幌ハートセンター(画像提供:札幌ハートセンター)

 「新システムを入れたことで、患者の心臓の状態は画像や動画で全て残せるようになりました。こうしたデータに価値を持たせるIT基盤はできたと思います。何より、今までよりスタッフが楽しそうに仕事をしているのを見ることができて、一番良かったと感じています」(岡田氏)

 札幌ハートセンターのDXプロジェクトは、外部との連携を含めた次の段階に進む。藤田氏は「グループの病院と医療データをつなぐことで、同じフォーマットで医療技術を共有します。周辺の病院との検査データの共有化も始めていますし、今後新しいデジタル技術が出てくればそれを追加します。このシステムに最終形はなく、常に進化していくと考えています」と語る。

 「コロナ禍で受診控えが広がり、厳しい経営状況を抱える病院は多いと思います。DXには投資が必要ですが、最終的には業務を効率化してコストを抑える効果を生みます。医療関係者には今こそDXのチャンスだと思って、挑戦してほしいですね」(藤田氏)

 システム刷新を決意してから新システムを導入するまでの道のりを振り返り、藤田氏は「日本の医療機関はまだ改善すべき点が多く、長期にわたってDXを推進するために何をすべきか、もっと議論が必要です」と話す。10年先や20年先を見据える札幌ハートセンターは、システムの導入を完了してからがDXプロジェクトの始まりだと認識している。

 実際にさまざまな関係者を巻き込んでDXを進める過程においては、リーダーシップを取る人や旗振り役を務める人が周囲と連携し、共通のビジョンを明確化することが重要だ。今回のプロジェクトは、藤田理事長が描いた明確な青写真、目的、ビジョンがあり、岡田氏がそれを実現するためにプロジェクトマネジャーとして旗振り役を担った。多くのベンダーが関わる中、全員で統制を取りながら進めた点もプロジェクトの成功を支えた重要な要素と言える。


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