Windows 11のVDIは今までと何が変わるか 検証結果から読み解く「Web会議にPC処理が追い付かない問題」はなぜ起きる?

「Windows 11」のVDIは、これまでの設計と比較して何を考慮すべきか。Windows 11のVDIに求められるハードウェア要件や設計の勘所、運用効率化のヒントを技術検証の結果を交えて紹介する。

2022年01月19日 10時00分 公開
[ITmedia]

 2021年10月、Microsoftは「Windows 11」を発表した。コミュニケーションツール「Microsoft Teams」(Teams)を統合するなど働く場所を自由に選択できるハイブリッドワークを前提とした機能が注目を集める。

 一方で、VDIの位置付けにも変化が出てきた。従来、VDIは補助的な役割に留まることも多かったが、昨今では利用者数や利用時間が増大し、全ての業務をVDIで実施するケースも増加している。

 従来の性能要件を前提に設計されている環境にWindows 11のVDIを構築し、期待するパフォーマンスは得られるのだろうか。中でも情報システム担当者としては日常的なWeb会議利用やeラーニングコンテンツ動画の視聴等を含む高負荷なワークロードにたえる性能やTPM 2.0への対応をどう実現するかを十分に理解しておきたい。

 SB C&Sは2021年12月14日、「Windows 11をVDIで動かすその前に……いち早く検証してみました!〜課題と解決策をご紹介!時代の変化に対応可能な仮想化デスクトップ環境とは〜」と題するオンラインセミナーを開催した。本稿ではその内容をいち早くレポートする。

GPUのリソースをデータセンターから柔軟に割り当てる仕組み

 エヌビディアの後藤 祐一郎氏(エンタープライズ事業本部  vGPU ビジネス開発マネージャー)はNVIDIA 仮想GPU(vGPU)を活用したVDI構築の勘所や最新GPUを活用したデジタルワークスペースの実際を解説した。

エヌビディアの後藤 祐一郎氏 エヌビディアの後藤 祐一郎氏

 後藤氏は、テレワーク時代になりデータセンターに置かれるワークロードが拡大していると指摘。「これからの企業にとってデータセンターのデータをどう効率良くセキュアに活用するかは非常に重要だ。そのためにはデータセンターの処理性能、消費電力などの課題を改善することが必要になる」と語る。

 NVIDIAのvGPUテクノロジーは、物理サーバに導入したGPUリソースを「vGPUマネージャー」によって仮想的な分割を可能とし、仮想GPUとして複数台の仮想マシンに割り当てて効率的に複数のユーザーに高性能なグラフィックス環境を提供できる。

 「GPUのメモリを分割し、GPUコアをタイムシェアすることでリソースを効率的に利用できる。VDIであれば、端末のハードウェアスペックがハイエンドである必要はなく、デスクトップ画面を転送できればよい。従業員がどこで仕事をしていてもデータ自体は原則としてデータセンターから外に出さない運用も可能だ」(後藤氏)

 環境をクローン化して必要台数分のコピーを一気に拡張でき、ユーザーごとにマシンの性能を調整して必要なリソースを簡単に割り振れるのもメリットだ。「組織変更、異動などで勤務先が変わっても、ユーザーIDにひも付けられた仮想デスクトップをすぐに用意できる」(後藤氏)

 vGPUによるVDIは、高性能なマシンを持ち出せないためにテレワークを諦めていた専門業務にもテレワークの道を開いた。だが、vGPUが生きる領域はもはや専門領域にとどまらない。例えばWindows 11はOSそのものが高いグラフィックス性能を前提に設計されている。Windows 11からOSに標準で組み込まれるTeamsも同じくグラフィックス性能が求められる。

 「これからのデジタルワークプレースは、高度なグラフィックス処理に特化したGPUを装備してCPUの負担を減らしていく対応が必要だ」(後藤氏)

 NVIDIAはGPU導入によってCPU負荷を約10〜60%削減し、ユーザーの体感は約34%向上すると試算している。他にもさまざまなユースケースについてGPUの効果を検証した資料を企業に提供している。

 同社はデジタルワークスペース向けのグラフィックスのスタンダード、高集約のGPU「NVIDIA A16」(A16)を新たにリリースした。A16は2枚で最大128ユーザーに仮想GPU機能を提供できる(詳細は後述)。

vGPUによるVDI環境を実現する「Dell EMC VxRail」

 デル・テクノロジーズの中西祐輔氏(パートナーセールスエンジニアリング本部 パートナーSE2部 パートナーシステムズエンジニア)は、VDIでGPUを使う場合のハードウェア構成について解説した。

デル・テクノロジーズの中西祐輔氏 デル・テクノロジーズの中西祐輔氏

 VxRailは、Dell TechnologiesとVMwareが共同開発したHCIのアプライアンス製品だ。従来はサーバ仮想化やVDI向けに採用されることが多かったが、最近ではAI、分析など幅広いワークロードで利用されている。

 VxRailの最新ラインアップはGPU関連の強化が目立つ。「顧客のGPU活用のニーズが増えており、その声を反映させた拡張になっている」(中西氏)。

 VxRailはVMwareのマネジメントテクノロジーと緊密に連携して動作する点が強みだ。VxRail Managerは「VMware vCenter」に統合されており、一元的な管理が可能だ。また、従来は別で運用が必要だったGPUアップデートの手続きも統合された。

 「管理者は、ユーザーが直接触るアプリケーションの管理に注力したいと思っている。そのため、ハードウェアの管理はできるだけ省力化して手間を掛けたくない。ライフサイクル管理の強化によってそのニーズに応えた」(中西氏)

Windows 11とA16の組み合わせはアリか パフォーマンス検証の結果

SB C&Sの幸田 章氏 SB C&Sの幸田 章氏

 SB C&Sの幸田 章氏(ICT事業本部 ICT事業戦略・技術本部 技術統括部 第1技術部1課)は、Windows 11とA16のパフォーマンス検証の結果を紹介した。

 幸田氏は、従来のVDIについて「オフィス業務の補助的な役割として使われてきた」と話す。重い業務は出社して作業できたため、VDIに求められたのは外出先や夜間など、突発的な業務に限定されていた。このためVDIのスペック不足が見逃されてきたと指摘する。「テレワークの拡大で全ての業務をVDIで実施するケースが増加した。利用者数や利用時間が急激に増え、重い業務もVDIで行うようになったため性能への要求が高まっている」(幸田氏)

 幸田氏のチームは、A16を発売に先立って検証し、VDIのパフォーマンス改善効果を計測した。

 「オフィス業務向けの仮想GPUの振り分けでは仮想端末1台につきグラフィックスメモリは1GBが標準的な設定。A16は64GBのメモリを持つことから、一対一でリソースを割り当てると2台で合計128ユーザーまで利用できる。CPUに頼って性能を高める場合と比べて効率が良く、従来よりも高い集約率で運用できる」(幸田氏)。Dell Technologiesのサーバ製品を使った試算によると、A16を使用することでサーバの台数は34%削減できることが分かったという。

検証結果(出典:SB C&S 幸田氏のプレゼンテーション資料) 検証結果(出典:SB C&S 幸田氏のプレゼンテーション資料)

 前述の通り、設計などの専門業務だけではなく一般的なオフィスワークロードを前提に、Windows 11環境で実際に「Microsoft Excel」や「Adobe Reader」「Zoom」、eラーニングコンテンツの視聴を想定した「YouTube」という4種類のアプリケーションを動作させて、それぞれでvGPUあり/なしでCPUの負荷を比較した。

映像系の処理は大幅に改善

 実験の結果はExcelが14%、Adobe Readerが17%、Zoomが39%、YouTubeでは61%ものCPU負荷を低減できた。

 「ビデオを使うアプリケーションではvGPUの効果が顕著に出た。また従来機のNVIDIA M10との比較でも、特にYouTubeアプリケーションでの差が大きかった。A16が『VP9』『AV1』というビデオコーデックに対応していることも結果に寄与している」(幸田氏)

 幸田氏は、検証結果からもWindows 11を想定したVDI構築に当たっては、CPUパワーに頼った設計ではなくGPUの活用を前提にA16のような高集約を期待できるGPUを組み合わせる手法が望ましいと結論付ける。

 「本稿執筆時点で、A16を大手ベンダーで唯一正式にサポートしているのはDell Technologiesだけ。いち早く試して従業員の作業環境を改善するにはDell Technologies製品とA16を組み合わせたVDIをお薦めしたい」(幸田氏)

column:Windows 11はTPU 2.0が必須 VDIではどう対応?

 Windows 11は導入できるハードウェアに幾つかの制約がある。中でも注意したいのがTPM 2.0への対応だ。導入前のハードウェアチェックの段階で対応していなければインストールさえできない。

 VDIでTPM 2.0に対応するには「仮想TPM」を設定する。このとき、サーバ側で物理的にTPMを搭載する必要はない。TPMの鍵はvCenterで一元的に管理できる。

VDIの設計・運用からパフォーマンス最適化までを支援

SB C&Sの吉田幸司氏 SB C&Sの吉田幸司氏

 セミナーの最後に、SB C&Sの吉田幸司氏(ICT事業本部 システム基盤推進本部 プラットフォーム推進統括部 販売推進部 HCI販売推進課)は、同社の企業のITインフラ支援体制を説明した。

 同社はソフトバンクの創業事業で2022年に40周年となる流通事業を継承しており、販売パートナーの支えとしてIT製品を販売しているが、単に製品を販売するだけでなく、製品に精通したプリセールスチームによるトレーニング、検証やプロジェクト期間中のQA対応などの他、技術陣による「C&S ENGINEER VOICE」という情報発信も手掛ける。また、VxRailにNVIDIAのGPUを組み込んだ標準構成のサーバを「ニューノーマルVDI」として提供しており、すぐに最適なテレワーク環境を構築できるという。

GPU搭載VxRailの推奨構成(出典:SB C&S 吉田氏のプレゼンテーション資料) GPU搭載VxRailの推奨構成(出典:SB C&S 吉田氏のプレゼンテーション資料)

 ここまで見てきた通り、GPUは今まで以上に性能が上がり集約率も高まっていることから、コストを抑制して導入できる状況が見えつつある。VDIをWindow 11に移行するに当たっては、CPUパワーに頼ったVDIの設定ではパフォーマンスを出すために非常に高価な構成が必要になる可能性が高い。求められる性能のうち、GPUが得意とする領域は積極的にGPUに割り当て、効率良くリソースを生かした業務環境の提供を検討してほしい。


提供:SB C&S株式会社、デル・テクノロジーズ株式会社、エヌビディア合同会社
アイティメディア営業企画/制作:アイティメディア編集局

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.