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頓挫したデータウェアハウスを再生させるには――成功への9つのステップColumn

データウェアハウジング構想が成功すれば、収益の拡大とコストの削減というメリットが得られる可能性があるが、プロジェクトが頓挫することも少なくない。データウェアハウスの再生に成功したスプリント・ネクステルのITエキスパートが用いた手順を紹介する。

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 データウェアハウス・プロジェクトは、鳴り物入りで立ち上げられるものの、期待を裏切る結果になることが多いのが実情だ。しかし、たいていの企業は頓挫したデータウェアハウス構想を断念することはなく、新たな戦略や新たなスタッフ、あるいは新たなフォーカスによってプロジェクトの仕切り直しをするという。

 米携帯電話大手のスプリント・ネクステルは、一度は頓挫したデータウェアハウジング・プロジェクトを復活させ、コスト削減と収益拡大につながる戦略的プログラムへと変貌させた。

 このプロジェクトを率いたITディレクターが、自社のデータウェアハウジング計画を復活させるために採用した9つのステップからなる手順を紹介する。

 データウェアハウス・プロジェクトは、大きな期待を背に、鳴り物入りで立ち上げられるものの、期待を裏切る結果になることが多いのが実情だ。データウェアハウジング・インスティテュート(TDWI)の調査によると、たいていの企業は頓挫したデータウェアハウス構想を断念することはなく、新たな戦略や新たなスタッフ、あるいは新たなフォーカスによってプロジェクトの仕切り直しをするという。

 例えば、コンシューマー、企業ユーザーおよび政府機関の顧客に広範な無線/有線通信サービスを提供しているスプリント・ネクステルは2000年に、一度は頓挫したデータウェアハウジング構想に再び着手した。このプロジェクトを率いたのは、スプリント・ネクステルのITディレクター、グレッグ・ジョーンズ氏である。ジョーンズ氏と彼のチームは、ネクステルがスプリントと合併する前に、ネクステルのデータウェアハウス・プロジェクトをコスト削減と収益拡大につながる戦略的プログラムへと変貌させた。

 TDWIが主催した最近のカンファレンスにおいて、ジョーンズ氏は、自社のデータウェアハウジング計画を復活させるために同氏のチームが採用した一連の手順を紹介した。

1.問題の存在を認識する

 ジョーンズ氏によると、最初のステップは、データウェアハウジング環境の発展や使い勝手の障害となっている主要な問題を認識することだという。「われわれのデータウェアハウスは、業務ニーズやデータの価値とは関係なしに、ありとあらゆるデータが放り込まれる保管庫になっていた」とジョーンズ氏は話す。「その結果、データウェアハウスの動作速度が遅く、高いコストが掛かり、クエリーには延々と時間が掛かっていた。あまりにも大量のデータが詰め込まれていたため、必要なデータを取り出すことができなかったのだ」

2.改造に必要な予算を確保する

 「データウェアハウジング計画をやり直す上で不可欠なのが、確固としたビジネスプランを作成することである」とジョーンズ氏はアドバイスする。このビジネスプランは、コストと効果を具体的な言葉で示したものでなければならない。いったんデータウェアハウスに悪評が立ってしまうと、改造のための追加投資の必要性を経営幹部に納得させるのは容易ではない。

3.売り込みを開始する

 エンタープライズ・データウェアハウジング構想を売り込むには、1人のスポンサーを獲得するだけでは不十分だ。その構想が全社的な価値をもたらすのであれば、最終的にすべての部門のスポンサーが資金を提供する必要がある。このためジョーンズ氏は、技術系の人間の多くがやりたがらないことを実行した――データウェアハウスを「販売」したのである。

 「税務、監査、財務などあらゆる業務部門の副社長に会いに行き、彼らが苦労していることや、抱えている問題、彼らのニーズについて尋ねた」と同氏は振り返る。

4.サーベンス・オクスリー法(SOX法)を利用する

 「データウェアハウスを売り込むに当たっては、あらゆるチャンスを利用する必要がある」とジョーンズ氏は話す。自社が直面している戦略的な課題にデータウェアハウジング構想を絡めるのも有効だ。幸いにも、SOX法がジョーンズ氏にとって強力な武器となった。エンタープライズ・データウェアハウスは、企業が情報の品質と精度を確保するための主要な手段であるからだ。

 「SOX法を最大限に強調した」とジョーンズ氏は打ち明ける。「各部門の副社長に『ウォール街に正しい情報を提供できるようにするには、“唯一の真実”が必要なのだ』と訴えた」

5.重要性を印象付ける

 データウェアハウスを売り込む上でカギとなるのは、キーパーソンたちに、この構想の重要性、彼らが得られるメリット、そして彼らが取るべき行動を繰り返し吹き込むことである。「ガバナンス委員会を設立し、データウェアハウスに保存されるデータに関する知識を持った各部門の代表者を委員会に参加させること」とジョーンズ氏は話す。

 この委員会で特に重要なことは、委員会の各メンバーおよび彼らの所属組織に権限を与えることである。「彼らの“知識”を活用したいのであり、彼らの“データ”を手に入れることに関心があるのではないことを委員会のメンバーに伝えること。メンバーらをその気にさせることができれば、彼らはその期待感を自分の組織内に広げてくれるだろう」(ジョーンズ氏)

6.メリットを十二分に提供する

 業務部門の人間は、投資が成功につながるという保証が与えられるまでコミットを避ける傾向にある。ジョーンズ氏によると、最大の保証となるのは、以前の成功事例だという。具体的な結果を示すことができれば、プログラムへの参加意欲が高まるはずだ、とジョーンズ氏は語る。「すべての部門の関係者が即座に参加することはないだろうから、最大の利害関係を有する人々と一緒に作業を進めればいい。あなたが約束したよりも遥かに大きなメリットを提供することが肝要だ。そうすれば、事がスムーズに運ぶだろう」

7.将来的な成長に備える

 データウェアハウジング計画を成功に導くためには、大きな信頼を獲得する必要がある。まだ1人のスポンサーも、あるいは10セントの予算もつかない段階から、想像を超えるような成功が達成されるという前提で計画を立てる必要がある。言い換えれば、楽観的過ぎるくらいの成長予測に基づいてキャパシティの余裕を見込んでおくということである。「拡張性に関しては万全の計画を立てておく必要がある。というのは、システムがクラッシュしたり速度が低下したりすると、すぐに業務部門の信頼を失うことになるからだ」とジョーンズ氏は言う。

8.アーキテクチャの変化を想定しておく

 将来的な拡張に備えるだけでなく、個別ソリューションを提供するシステムから、高度に統合されたエンタープライズ情報を提供するシステムへとアーキテクチャを変革する可能性も想定しておく必要がある。「われわれは当初、個別部門用のデータマートを作成した。各部門が必要とするデータだけが得られ、クエリーの応答時間も速くなると考えたからだ。しかしその後、データ量が増大し、データマートの数が増え過ぎたため、これらを単一次元モデルに統合し、すべてのデータマートおよびアプリケーションを格納するための全社規模の変換レイヤーへと発展させた」(ジョーンズ氏)

9.定義を標準化する

 エンタープライズ情報構想で最も難しいのは、用語、定義およびルールに関してビジネスユーザーの合意を取り付けることである。「エンタープライズデータの一貫したルールセットに関して、副社長たちの承認を得るのに苦労する可能性もある。われわれは、数日間にわたるオフサイトミーティングを何度か実施しなければならなかった。しかし、この問題で合意を取り付けるのは重要なことである。われわれは、データウェアハウスから取り出せないデータがある場合、それは正式なデータとしては扱わないが、ローカライズされたビューを通じてビジネスユーザーがそのデータを見ることができるようにした」(同氏)

 頓挫したデータウェアハウジング計画を復活させるのは容易なことではないが、上記の重要な手順が成功につながることを期待する。

本稿筆者のウェイン・エッカーソン氏は、データウェアハウジング・インスティテュートの調査・サービス担当ディレクターを務める。同インスティテュートは、ビジネスインテリジェンスおよびデータウェアハウジングの専門家で構成される世界的な組織で、教育、トレーニング、認定、調査などのサービスを提供している。エッカーソン氏は、「Performance Dashboards: Measuring, Monitoring and Managing Your Business.」の著者でもある。

(この記事は2006年2月2日に掲載されたものを翻訳しました。)

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