カタログでは分からないWAN高速化製品の「実力」の見方:WAN高速化の現実解【後編】
机上検討では、とかく製品のコストだけに目が向いてしまうが、それでは自社に最適なソリューションは選べない。WAN高速化装置を購入する上での基準は何か。客観的評価、構成、運用コストなど選択ポイントを考える。
WAN高速化装置は、コンプライアンス強化、生産性の向上、災害対策を行う上で重要な位置付けとなるソリューションのため、単に価格のみを見て選択すべきではない。今回は、製品の特徴や製品選択時のポイントをまとめてみた。
WAN高速化装置ベンダーの特徴と適用領域
初めに、米Gartner Groupの資料によると、WAN高速化装置ベンダーとして実力、将来性のある会社に位置付けられているのは、米Blue Coat Systems(以下、ブルーコート)、米Juniper Networks(以下、ジュニパー)、米Riverbed Technology(以下、リバーベッド)、となる。WAN高速化装置を選択する上で重要なのは知名度ではなく、WAN高速化装置に関する実力があるか否かという点だ。
製品の特徴を比較するため、これら3社にルータ、スイッチなどのネットワーク機器で有名な米Cisco Systems(以下、シスコ)を加えた4社を取り上げよう(表1)。各社の資料を見る限りほとんど差がないように感じられるが、製品アーキテクチャの違いにより機能、適用領域の得手/不得手に違いがある。
項目 | ブルーコート | シスコ | ジュニパー | リバーベッド |
---|---|---|---|---|
製品 | 「Blue Coat SG」シリーズ | 「WAE」シリーズ | 「WX/WXC」シリーズ | 「Steelhead」シリーズ |
製品の特徴 | WebキャッシュとQoS機能 | 安価なネットワークモジュール(WAAS)なども提供 | 優れた圧縮機能とパケットロス対応 | アプリケーションに特化した高速化とDR機能 |
CIFSの高速化モジュール(ファイル共有) | 対応 | 対応 | 対応 | 対応 |
CIFS使用時のキャッシュアルゴリズム(ファイル共有) | オブジェクトキャッシュ | オブジェクトキャッシュ | バイトキャッシュ | バイトキャッシュ |
Exchange Serverの高速化モジュール(対応バージョン) | 対応(2003) | 未対応 | 対応(2003) | 対応(2003/2007) |
ディスク暗号化 | 未対応 | 対応 | 未対応 | 対応 |
DR機能 | 未対応 | 未対応 | 未対応 | 対応 |
HTTPSの高速化モジュール | 対応 | 未対応 | 対応 | 対応 |
QoS制御機能 | 対応 | 未対応 | 対応 | 対応 |
モバイル利用 | 対応 | 対応 | 未対応 | 対応 |
サイズの小さいファイルの高速化 | 得意 | 得意 | 不得意 | 不得意 |
まずブルーコートは、Webキャッシュのベンダーとして有名な企業で、最近は帯域制御装置ベンダーの米Packeteer(以下、パケッティア)を買収した。つまり、同社製品はWeb関連の高速化や帯域制御などにその特徴がある。キャッシュ機能に関してはバイトキャッシュとオブジェクトキャッシュ(キャッシュについては前回記事「WAN高速化装置の導入効果が得られる条件とは?」を参照)を併用し、ファイル共有に関してはファイル自体が拠点アプライアンス上に配置されるタイプだ。適用領域はWeb高速化やQoS用途となり、セキュリティ統合を目的としたファイル共有の高速化には不向きといえる。
ジュニパーは、同社が買収した米Peribit Networks(以下、ぺリビット)の製品をWAN高速化ソリューションとして提供しており、高度なデータ圧縮機能に定評がある。ペリビット買収当時の製品はディスクベースではなくメモリベースのキャッシュ機能を提供していたが、現在はディスクベースの製品も出てきており、大容量のキャッシュも可能となった。装置間はTCPではなくUDPを使っており、パケットロスに強い。ソリューションの適用領域は、圧縮とパケットロスに強いことから、狭帯域・高遅延の海外拠点との接続が主となる。一方、拠点側の装置上にファイルを配置しないため、非常に小さいファイルが大量に読み込まれるような場合には向かない。
リバーベッドはWAN高速化装置の専業ベンダーである。製品はすべて自社開発のため、アーキテクチャが一貫しているのが特徴。WAN高速化装置ベンダーとしてはいち早く、ディスクベースのバイトキャッシュシステムを開発しており、ディザスタリカバリ(DR)システムで大容量データのキャッシュを可能にするなどの実績もある。もう1つの特徴としては、「Oracle Forms」や「Exchange Server 2003/2007」など、高速化に対応するアプリケーション数が多い点が挙げられる。回線帯域や遅延の大小にかかわりなく広く適用可能であり、DRシステムにも適用できる。しかしジュニパー同様、拠点側装置上にファイルを配置しないため、非常に小さいファイルが大量に読み込まれるような通信には不向きである。
シスコは、買収した米Actona(アクトナ) TechnologiesのWAFS(Wide Area File Services)をベースとした製品を扱っており、ファイル共有に関してはファイル自体が拠点側装置上に配置されるタイプだ。装置間はバイトキャッシュ機能を使っており、ファイル共有以外はバイトキャッシュとなる。一番の特徴は、安価であることだ。最近ではルータに組み込めるモジュールタイプの製品も提供されている。拠点数の少ないサイト間の高速化を安価に構成する場合に有効となるが、ファイルが拠点側装置上に配置されるため、セキュリティ統合を目的としたファイル共有の高速化には不向きだ。
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