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Windows 7も活用 クライアントPCに埋もれた「データの見える化」中堅・中小企業のための「データ見える化」術【第2回】

「あの見積書、どこだっけ?」。PCでフォルダごとに文書を管理する従来の方法では、目当てのデータが素早く見つけられない。デスクトップ検索でも難しい「PC内のデータ見える化」を実現するポイントを紹介する。

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 第1回「Excelファイルの個人所有が『見える化』を阻害する」では、中堅・中小企業にとっての「データの見える化」とは何かについて解説した。第2回以降は、前回お伝えした通りクライアントPC、サーバ、ストレージといったデータ格納場所ごとにデータの見える化を実現する際のポイントについて述べていく。今回は、クライアントPC内(以下、クライアントPCは「PC」と表記)のデータについて取り上げる。

PC内のデータ活用における2つの課題

 中堅・中小企業がクライアントPC内のデータ活用に関して抱える課題には、大きく分けて次の2つがある。

  1. 社員が自分のPC内から目的のデータを素早く見つけることができない
  2. 各社員が自分のPC内にデータを保持してしまい、適切に共有できない

 1は誰もが一度は経験したことのある悩みだろう。フォルダを整理しているつもりでも、「得意先へ送った提案書が見つからない」となり、ファイル名やキーワードを手掛かりに時間をかけて検索するといった場面はよく見受けられる。

 2は「Aさんは一生懸命に資料を作成したが、実はほぼ同じものをBさんが既に作成していた」といった例が挙げられる。

 いずれもささいなことではあるが、こうしたことの積み重ねが企業全体としての業務効率を大きく低下させる一要因にもなっている。「データの見える化」の観点からこれらの課題をどう解決すればいいか、以下に見ていくことにしよう。

物理的なフォルダ構造からの脱却

 上記の1つ目の課題の解決策として、「Googleデスクトップ」「Windowsデスクトップサーチ」などの「デスクトップ検索」を活用している方もいるだろう。だが、PCへの負荷が高いことに加え、目的のデータを的確に絞り込むキーワードを想起しづらいなどの理由により、リリースから数年が経過した現時点でも広く普及しているとはいえない状況だ。Webとは異なり、PC内のデータに関しては、すべてをくまなく検索することが必ずしも最善の解決策とはなっていないようである。

 PC内のデータが探しづらくなることの根本原因は、実はフォルダ構造の物理的な制約にある。例えば、顧客別にフォルダを作成し、さらにその中に「提案書」「見積関連」「受注関連」「請求関連」といったサブフォルダを作成しているケースを考えてみよう。この構成の場合、「A社に関連するデータ」という切り口であれば目的のデータを探すことは容易だ。だが、「2009年以前に作成された見積書」という切り口には適していない。見積書は顧客別フォルダ内の「見積関連」サブフォルダに分散しているため、これらを一覧表示して作成日時順に並べることはできない。このように、実際の業務場面ではさまざまな角度からデータを整理する必要があるにもかかわらず、PC内では一通りの整理方法しか許されていない。このギャップが「自分のPC内から目的のデータを素早く見つけることができない」大きな要因となっている。

 これを解決する手段の1つが、Windows 7で新たに導入された「ライブラリ」だ。ライブラリとは、複数のフォルダを集めて単一の仮想的なフォルダを作成する仕組みである。上記の例でいえば、顧客別フォルダ内の「見積関連」サブフォルダをすべて集めた「全見積」というライブラリを作成する。この「全見積」ライブラリを開くと、全顧客向けの見積書を一覧表示させることが可能である。この一覧画面上で作成日順に並び替えれば、顧客に関係なく「2009年以前に作成された見積書」を選び出せる。このようにライブラリを活用すれば、同一のデータをさまざまな角度から整理できるのだ。

図1
従来のフォルダ管理の問題点とライブラリによる検索性の向上

 また、Windows Vistaでは「検索フォルダ」というものが導入された。これは、特定の検索条件に合致したデータを一覧表示するフォルダを作成する機能である。検索フォルダも物理的なフォルダ構成の制約を解消する手段の1つといえる。

 現段階のライブラリでは、検索結果をライブラリに組み込むことはできない。それが実現すれば、「2009年以前に作成された見積書と請求書」といった具合に、さらに柔軟な切り口でデータを一覧できるようになる。今後のWindowsの進化に期待したいところである。

 中堅・中小企業では、Windows 7のリリースを機にPCの入れ替えを検討するケースも少なくない。Windows 7を既に導入している、または予定がある場合は、ライブラリを活用して従来型のフォルダによる制限を解消することを検討してみるといいだろう。

サービスとしての手段も登場したデータ共有

 2番目の「各社員が自分のPC内にデータを保持してしまい、適切に共有できない」という課題への解決策として最も一般的なのは、NAS(Network Attached Storage)の活用だ。「共有フォルダ」などの名称で中堅・中小企業でも広く利用されているデータ共有の手段である。昨今では、PCからの情報漏えい防止も関心の高いテーマの1つだ。PC内になるべくデータを保存しないという観点からも、中堅・中小企業におけるNASの活用は今後も広まっていくと予想される。

 また、先に述べたWindows 7のライブラリは、NASとの併用が可能だ。サーバ側もWindowsであることが条件となるが、共有するフォルダに検索用インデックスを作成しておけば、ライブラリとして作成された仮想的なフォルダに含めることができ、手元のPCとNAS上のデータが同じ一覧画面内に列挙される。2つの課題に対し、同時に対処可能な方法といえる。

 さらに、昨今では「オンラインストレージサービス」も注目したい解決策の1つだ。いわばNASをサービスとして提供する形態である。ユーザー企業としては、ハードウェア投資が必要ない点に加え、社外からもデータ共有が可能であることが大きなメリットとなる。

図2
オンラインストレージサービスのイメージ

 その代表例の1つが「Dropbox」だ。利用を開始すると、PC内に通常フォルダとまったく同じ使い勝手のDropbox用フォルダが作成される。このフォルダにファイルを入れると、自動的にネットワーク上のストレージに格納され、ファイルの更新もほぼリアルタイムに反映される。社員同士でデータを共有することもでき、誤って上書き/削除したときのための履歴管理機能も備える。また、ネットワーク切断後にPC内で更新されたデータは、次にネットワーク接続をしたときに自動的に同期される。その使い勝手の良さから、国内でも徐々にユーザーが増加してきている。部署単位での比較的小規模なデータ共有であり、社外からもデータを参照する必要がある場合は検討の価値があるだろう。

画像
Dropboxの専用フォルダ。2Gバイトまでは無料で利用可能《クリックで拡大》

 ただし、1つ注意すべきポイントがある。それは「共有すべきデータの切り分け」だ。NASにせよ、オンラインストレージサービスにせよ、どのデータを共有するかを判断するのは個々の社員である。データ共有の仕組みがどんなに優れていても、社員が自身のPC内にデータをためていたのでは課題の解決にはならない。この点は、現在でも明確な解決策が提供されていない。将来的には「メールに添付して部署内に送ったファイルは共有する意図および必要性があると見なし、そのファイルを自動的に共有フォルダへ移動する(個々の社員はそれがどこにあるかを意識する必要はない)」といったソリューションが登場するかもしれない。

PCにおけるデータ見える化の理想形、ユーザー企業側の意識

 これまでに述べた2つの課題に対する解決策を考慮すると、PCにおけるデータ見える化の理想形が満たすべき要件として、以下のポイントが挙げられる。

  1. 仮想フォルダや検索フォルダを自由に組み合わせて作成できる
  2. 社内外で共有されたデータにアクセスできる
  3. PC内の作業データと同期を取ることができる(オフライン対応)
  4. 個人データと共有すべきデータを自動的に判断してくれる

 1については、Windows 7のライブラリ機能のように完全ではないものの、極めて近いものが既に登場してきている。23は、オンラインストレージサービスなどによって既に可能だ。4についてはまだ具体例がないが、近い将来これに取り組むベンダーやサービス業者が登場してくると予想される。

 一方、ユーザー企業側の意識はどうなっているのだろうか? 以下の図は、年商5億円〜500億円未満の中堅・中小企業に対して「今後活用したいと考えているクライアントPC関連のソリューション」を尋ねた結果である。「自宅や社外でも自社内と同じOSやアプリケーションを利用できるようにする」といった場所に依存しないデータ活用、「クライアントPC内のデータを安全な場所へ自動保存する」「クライアントPCを紛失した場合でもデータが漏えいしないようにする」といったデータ保護に関するニーズが高いことが分かる。重要なデータをPC以外の安全な場所に格納することは、NASやオンラインストレージの活用に直結する。つまり、データ共有を進めることとデータ保護とは、表裏一体で進めるべき取り組みといえる。

図3
今後活用したいと考えているクライアントPC関連ソリューション

 もう1つ、まだ顕著な傾向は見られないが、今後重要になると予想されるポイントがある。それは「クライアントPCの操作内容を記録して監視・保存する」というニーズだ。同項目のニーズ全体に占める割合は、まだ5%にも満たない。セキュリティ確保のために社員の行為を監視するソリューションという認識が強く、導入に対する心理的抵抗も作用していると考えられる。だが、これを「データの活用実態の把握」ととらえると、また違った導入目的が見えてくる。

 先に述べたように、共有すべきデータの切り分けは、データ共有において依然として残る大きな課題だ。理想形の4に述べたような自動振り分けなどの実現も、まだしばらくの時間を要する。その間、ユーザー企業としてできることは、「自社の実態に合った、無理のないルール作り」である。例えば、PC操作内容の記録を通じて「社員の多くが部署内にメール添付で送るデータを別フォルダに分けて格納している」という実態が分かれば、それを踏まえた運用ルール決めと共有フォルダ設定を行うことで、データ共有の質を上げることができる。PC利用実態の把握は、一見するとデータ活用と何の関係のない事柄のようにも思えるが、自社にとって最適なデータ見える化ソリューションを選ぶためには大変重要なステップともいえる。

 このようにPCにおけるデータの見える化においては、まずWindowsの機能や新興サービスといった費用面での効果が期待できる手段を活用したい。そして、社員のデータ利用状況を通じて自社の実態を十分に把握した上で、しかるべきソリューションの導入を検討することが大切である。

<筆者紹介>

岩上由高

ノークリサーチ シニアアナリスト

ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。



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