米HeadwatersのCIOが推進するクラウドコンピューティング戦略:課題はコストとセキュリティ、コンプライアンス
わたしのCIO仲間のかなり多くが、メールとスパムフィルタリングをクラウドに移行し、正規のメールトラフィックのためにストレージの帯域幅を節約している。
若者の振る舞いを嘆く年寄りのような言い方になってしまうが、わたしはIT業界のはやり廃りの激しさにはうんざりしている。何年か前に米国のアル・ゴア元副大統領が情報スーパーハイウェイ構想を提唱した直後には、アプリケーションサービスプロバイダー(ASP)とマネージドサービスプロバイダー(MSP)の波が訪れた。その一部は生き残ったが、多くは消え去った。自社のアプリケーションやサービスの運用をほかの企業に任せるという方式を、市場(つまりわれわれ)が受け入れる準備をできていなかったからだ。
現在、市場を興奮させているのはクラウドコンピューティングだ。わたしのような年配組が、市場のクラウドコンピューティングをめぐる熱狂ぶりを見ると、かつてのASP/MSP騒ぎを思い起こす。もしクラウドコンピューティングが単なる一時的流行ではないとすれば、この潮流を逃したくはない。では、クラウドコンピューティング戦略がビジネス価値の創出に役立つのかどうかを客観的に判断してみよう。
クラウドコンピューティング戦略の分析に当たっては、これまでわたしのITに関する多くの疑問を解決してきたある手法で臨むことにする──わたしのIT専門家ネットワークに質問を投げ掛けるのだ。わたしはこれまで約200人のCIOと知り合いになった。彼らは、わたし自身の経験や知識がはるかに及ばない非常に貴重なリソースだ。
クラウドコンピューティングの現実を把握するため、IT専門家ネットワークであるCIO仲間にメールを送り、彼らが既にクラウドコンピューティングに移行した(あるいは移行予定の)サービスがあるかどうかを聞いた。併せてクラウドコンピューティング戦略の価値命題についても質問した。クラウド製品に関心がないという人には、その理由を尋ねた。
この調査の結果、わたしのCIO仲間のかなり多くがメールとスパムフィルタリングをクラウドコンピューティングに移行し、正規のメールトラフィックのために帯域幅を節約していることが分かった。中には、大胆にもメールインフラ全体をクラウドコンピューティングに移行した人もいた。一部のCIOは、ストレージ、バックアップ、リカバリを積極的にクラウドコンピューティングに移行している。その結果、サービスレベルが改善したと同時に、バックアップ取得コストやサポートコストが劇的に減少したという。必要に応じてサービスやユーザーを追加・削除できる自由度の高さも彼らの気に入ったようだ。
まだクラウドコンピューティング戦略を推進していないCIOの多くは、最大の懸念としてクラウドコンピューティングのセキュリティを挙げている。自社の重要なデータがほかの企業のクラウドインフラ上に存在する場合、誰がデータにアクセスするのか、また誰がデータを保護してくれるのか分からないので心配だというのだ。
クラウドコンピューティングのコストモデルに対して二の足を踏んでいる人もいる(わたしもその1人だ)。わたしはずっと前に自社のメールインフラ構築で費用を支払ったが、現在はサポート料金を支払うだけで済んでいる。しかしこれからクラウドベースのメールモデルに移行しようと思えば、新たに費用が発生することになる。とはいえクラウドサービスの価格が現在のサポート料金に近くなれば移行するつもりだ。
クラウドサービスによってコンプライアンス(法令順守)対応が面倒になるのか、簡単になるのかも気になるところだ。現在、わたしにとって米国サーベンス・オクスリー法(SOX法)への対応で最も厄介な作業は、サービスプロバイダーから提出される「SAS70監査報告書」を熟読し、それに返事を書くことだ。
わたしはクラウドコンピューティングが次々と現れては消えるITブームの1つではなく、この業界に定着するものと考えている。その理由は、クラウドサービスが優れているからではない。われわれの姿勢が変化し、市場が流動的になり、ITに対する要求がかつてないほどに変化しているからだ。また、仮想化の普及に伴い、サービスをサーバに合わせる必要はないという考え方を人々が受け入れるようになってきた。ITへの要求の変化と仮想化の普及が相まって、自社で完全にコントロールができないリモートシステムに対する心理的抵抗は低くなったのだ。
現在、クラウドコンピューティング戦略の早期採用企業が先導的役割を果たす一方で、クラウドサービスプロバイダー各社はセキュリティ、データ管理、価格モデルといった問題に取り組んでいる。そういった状況の中でわたしは、会社のアーカイブデータの中からあまり重要でないものの一部をクラウドコンピューティングに移すという形でクラウドコンピューティングのストレージを試している。また、支社のデータもクラウドコンピューティングにバックアップしている。こういった試験運用は、機が熟し、セキュリティや価格モデルといった問題が解決されたときに、ほかのクラウドサービスを導入する際の参考になるはずだ。
このクラウドコンピューティング戦略を見れば、わたしがあらゆる変化を拒むようなタイプの老人ではないことがお分かりいただけたのではないかと思う。
本稿筆者のニール・ニコライゼン氏は米HeadwatersのCIO兼戦略計画担当副社長。
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