企業結合におけるIFRSと日本基準の違いとは:【IFRS】IFRS基準書テーマ別解説【10】
IFRS第3号で規定される企業結合を日本基準の規定と比較しながら解説する。日本基準とIFRSでは重要な差異の多くが解消されているが、まだ一部には違いがある。
IFRSでは、企業結合についてはIFRS第3号で規定されている。一方日本基準では、従前からのIFRSとのコンバージェンスプロジェクトに基づいて、「企業結合に関する会計基準」が2008年12月26日に改正され、2010年4月1日以降に実施される企業結合から適用することとされている。本稿では、上記基準とIFRSの比較を行うこととするが、2010年3月31日以前(早期適用をしている場合は早期適用した企業結合以前)に実施された企業結合に関しては、なお改正前の会計基準に沿った会計処理が必要となる点、留意されたい。
「IFRS基準書テーマ別解説」連載インデックス
- 第1回 「収益基準」を5つの観点から見てみよう
- 第2回 「有形固定資産」は2つの要件で認識される
- 第3回 IFRSと日本の「減損会計」、その違いは?
- 第4回 「無形資産」「リース」の会計基準を見てみよう
- 第5回 IFRSの「従業員給付」「退職給付」を理解する
- 第6回 IFRSの「連結」に関する基準、その実務ポイントは
- 第7回 IFRSの「関連会社」「ジョイント・ベンチャー」とは
- 第8回 金融商品に関するIFRSの4つの基準(1)
- 第9回 金融商品に関するIFRSの4つの基準(2)
- 第10回 企業結合におけるIFRSと日本基準の違いとは
IFRSと日本基準の考え方
IFRSでは、以下の手順で企業結合の会計処理を行うこととされている。
- ある取引等が企業結合に当たるのかについて、受け入れた資産・負債が事業に当たるのかどうかによって検討する。事業の定義に合致しない取引等については、単なる資産・負債の受け入れとして会計処理する。なお、子会社同士の合併のような共通支配下の取引およびジョイントベンチャーのような共同支配企業の形成は、IFRS第3号の対象から除かれている。
- 企業結合に該当する事となった場合、取得法を用いて会計処理を行い、以下の4つを検討し、会計処理する。
なお、取得法とは、受け入れた資産・負債を公正価値で評価する会計処理をいう。
(1)取得者
(2)取得日
(3)識別可能資産・負債の認識及び測定
(4)のれんもしくは割安購入利益の認識及び測定
一方、日本基準では、企業結合について「企業結合に関する会計基準」において規定されている。前述の2008年改正によって、重要な差異のうちのいくつかは解消されているものの、依然として一部に違いが生じている。まず、企業結合とは、ある企業、またはある企業を構成する事業と他の企業を構成する事業とが1つの報告単位に統合されることをいうとされている。
前述の共通支配下の取引および共同支配企業の形成については、IFRSとは異なり、同会計基準で包括して記述されている。共通支配下の取引および共同支配企業の形成については、移転元企業における適正な帳簿価額を引き継ぐ会計処理がなされ、それ以外の企業結合についてはパーチェス法を用いて会計処理することとされている。共通支配下の取引については、現行のIFRSでは明確に記載されている個所はない。共同支配企業の形成については、第7回を参照のこと。
パーチェス法においても、上記2の4つを検討し、会計処理することとなる。なお、IFRSと日本基準で採用する会計手法の名称が異なっているが、取得法とパーチェス法について、実質的な意味において差は生じていない。
以下、主要な論点について、日本基準と違いが生じている部分について解説していく。
識別可能債務の範囲
事業の終了などのリストラクチャリングに関連する債務について、企業結合の契約に定めがないものの、今後その発生が予見されるような場合に、IFRSと日本基準で相違がある。
IFRSでは、上記の債務については、取得日時点の債務ではないとされている。ただし、取得後の財務諸表において引当金の計上などを関連するIFRSの規定により検討することとなる。
日本基準では、取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失であり、発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には負債として認識する事とされているため、上述のようなリストラクチャリング関連債務は、取得の対価の算定上織り込まれているのであれば、企業結合時に負債として認識することとなる。
非支配持分の測定
非支配持分とは、子会社における(直接的にも間接的にも)親会社に帰属しない持分であり、日本基準では少数株主持分と呼ばれている。以下この項では、連結財務諸表を前提に解説する。
IFRSでは、非支配持分の測定について、以下の2つのうちのどちらかを企業結合ごとに選択する。
- 取得日の非支配持分の公正価値
- 取得日の被支配企業の識別可能純資産の公正価値に対する非支配持分割合
日本基準では、連結財務諸表に関する会計基準に記載があり、子会社の資産・負債を支配獲得日の時価により評価し、それらのうちの少数株主に帰属すべき割合が少数株主持分として認識・測定されることとなり、非支配持分を公正価値で測定することは認められていない。
のれんもしくは割安購入利益の認識及び測定
非支配持分の測定に関連して、IFRSではのれんは、
で計算される。
特に非支配持分については、公正価値で測定した場合には非支配持分からものれん(もしくは割安購入利益)が認識され得ることとなる。これは全部のれん方式と呼ばれるのれんの測定方法である。
日本基準においては、非支配持分を公正価値で測定することは認められておらず、少数株主持分からはのれん(もしくは割安購入利益)は認識されない(購入のれん方式と呼ばれる)。
取得関連費用を取得に要した対価に含めるか否か
IFRSでは、企業結合に関連した費用(アドバイザー費用や法律・会計の専門家に対しての報酬など)は取得に要した対価には含めることはできず、発生時点に費用処理することとされている。
日本基準では、取得の対価性が認められる費用(アドバイザーに支払った報酬や手数料など)は取得に要した対価(取得原価)に含めて処理することとされている。
のれんの償却
IFRSでは、のれんは資産に計上し、償却を行わず毎期減損テストを行い、減損テストはIAS第36号「資産の減損」に基づいて実施することとなる。
日本基準では、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却することとされている。
なお、上記ののれんの計算式により算定した結果がマイナスである場合(バーゲン・パーチェスと呼ばれる)については、改正前の日本基準では、超過額を負ののれんとして負債計上し、20年以内の適切な期間で規則的に償却することとされていた。IFRSでは、すべての資産・負債の識別、非支配持分や譲渡原価の見直しを行ったうえで、なお残存する割安購入利益については、利益として即時認識することとされており、違いが生じていた。
しかし、日本基準においても2008年改正により、IFRSと同様の方法が採用された。割安購入利益は利益として即時認識することとなり、現在は両者に差異が生じていない。
IFRS適用に向けての留意事項
リストラクチャリング債務やのれんの非償却、取得関連費用については、取り扱いが異なることに注意を要するが、基準の差異により、新たな情報の入手が必要になるという性質のものではない。
他方、非支配持分の測定に関しては、公正価値で測定する場合には公正価値の評価が論点になると考えられるが、被支配企業の識別可能純資産の公正価値に対する非支配持分割合によって測定することも認められているため、後者を使用する前提に立てば、追加の情報入手は必要ないと考えられる。
吉田 延史(よしだ のぶふみ)
仰星(ぎょうせい)監査法人
京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。部分執筆書に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。
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