企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第5回】
ハイエンドエンタープライズクラウドの決定版「CaaS」
世界最大級のグローバルネットワーク事業者が提供するクラウド「CaaS」はセキュアで高スペックが特長だ。エンタープライズにおける基幹系での利用で注目されている。
本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」では、パブリッククラウドを使った企業向けシステム構築について解説してきた。これまで4回に分けて、いわゆる「4大パブリッククラウド」であるAmazon Web Services(以下、AWS)、Force.com、Google App Engine、Windows Azureを取り上げた。当初の予定では4回で完了のはずだったのだが、非常にユニークなクラウドサービスがあり、ハイエンドのスペックを求める企業向けに有益と思わるので、急きょ第5回をお届けすることとした。
今回はベライゾン・ビジネス(Verizon Business)が提供している「CaaS」(Computing as a Service)を紹介する。毎度申し上げていることではあるが、変化の激しい分野でもあるので、記載されている情報は原稿執筆時点のものであることをご了解いただきたい。
ベライゾン・ビジネスの概要
ベライゾン・コミュニケーションズあるいはベライゾン・ビジネスという社名を聞いて「ああ、あそこね」といえる方は、実はあまり多くないのではないか。筆者も1年くらい前まではまったく存じ上げず、不明を恥じた次第である。同グループは米国No.2の通信事業者であり、その規模は日本でいうNTTグループに匹敵する。連結売上は約10兆円、従業員はワールドワイドで約22.3万人。国際海底ケーブルに膨大な投資(約7000億円といわれている)をしており、世界最大級のIP網を保有するという。当該分野では押しも押されもせぬ「超巨人」である。合従連衡が激しく、社名変更がしばしばあり、現在の「ベライゾン・コミュニケーション」という社名になったのは2000年である。それ以前はワールドコム、MCI、ベル・アトランティックと言えば思い出す方も多いだろう。同グループは「ベライゾン・テレコム」(国際音声通信)、「ベライゾン・ワイヤレス」(携帯電話)、「ベライゾン・ビジネス」(セキュリティ、ネットワーク、ITソリューション提供)から成る。今回紹介するCaaSは、ベライゾン・ビジネスのクラウドサービスである。
CaaSの概要
CaaSは、あえて分類すれば「HaaS」(Hardware as a Service)といえるだろう。本連載で既に紹介したパブリッククラウドと比較すると、AWSが最も近い。ただしCaaSは下記に述べるように「ハイエンドのエンタープライズ利用」に徹しており、AWSと比較するとサービスメニューが地味に見えてしまうのは致し方ないところだ。
CaaSで「利用」できるのは、乱暴に言うと「Computing」のリソースである。その際にはサーバリソース、OS(Red Hat Linux、SUSE Linux、Windows Server)、DBMS(MySQL、Microsoft SQL Server)の有無、Webサーバ(Apache、IIS)の有無などが選択できる。OSより上のレイヤーで、これ以外のミドルウェアなどが必要な場合には自前で調達し、インターネット経由でインストールする必要がある。
Web上のGUIで申し込めばインスタンスは5~20分で使えるようになる。利用料金は日単位でチャージされる。価格は1サーバ当たり日額約800~2500円となり、競合他社と比べれば割高である。また、CaaS上にユーザーごとに一定のエリア(仮想Farm)を確保するための基本料金が必要であり、月額約8万円となっている。
ここまで読むと「どこが魅力なのか分からない」と感じた方もおられるだろう。前段で「利用」や「Computing」というかっこ付きの言葉を使ったが、実はCaaSの真価は「Computing」の「利用」だけで語ることはできないのである。単純な「利用」の裏に隠れたスペックが、ハイエンドエンタープライズのニーズを支えている。その一端を次にご紹介しよう。
サーバ
CaaSで利用サーバを選ぶ際には、「物理サーバ」と「仮想サーバ」のいずれかを選択可能だ。この点において仮想サーバしか選べない(あるいはクラウドとは別メニューになる)他社サービスとは一線を画している。例えばWebサーバやアプリケーションサーバなどは、負荷に応じてスケールアウト(インスタンス追加)できる。これらの用途には仮想サーバで十分である。ところがDBサーバはこれが難しい。ミッションクリティカルで多大なトランザクション負荷を支えるには物理サーバが不可欠な場合も多いだろう。CaaSでは物理サーバとして4~8CPU、メモリ8~48Gバイトが選択可能となっている。
また、サーバ(インスタンス)を1台確保すると、裏では自動的に同じスペックの別インスタンスがスタンバイする仕組みになっている(このインスタンスは直接見ることができない)。ハードウェア障害が発生した際には、数分で自動的にフェイルオーバーする。いわばHA構成がデフォルトとなっているわけで、安心感は高い。なお、この「数分のタイムラグ」を除けば、CaaSのSLAは100%を保証しているという点も特筆すべきだろう。
仮想Farm
CaaSにユーザー登録をすると、仮想Farmが与えられる。仮想Farmは、ファイアウォールとロードバランサ(いずれも仮想)によって、あらかじめDMZ(DeMilitarized Zone)とトラステッドネットワークに区切られている。サーバやストレージは、この仮想Farm内に個別にアロケートされる。これによって非常にセキュアな構成を平易に構築できる。必要に応じて仮想Farmを複数持つことも可能だ(残念ながら複数の仮想Farm間でインスタンスの共有はできない)。
また、仮想Farmと外部とのインターネット接続も当然二重化されており、接続に関するSLAは100%である(フェイルオーバー時のタイムラグを除く)。回線は同社が持つ世界最大のIP網に直接接続されるため、遠距離でも比較的レイテンシが低い。国際通信事業者を出自とするベライゾンの面目躍如といえるだろう。さらに、ほかのパブリッククラウドサービスと異なる点としてMPLS(Multi-Protocol Label Switching)のプライベートネットワーク網接続サービスも提供している。これでCaaSをセキュアなプライベートクラウドとしても活用することも可能だ。「世界最大級のグローバルネットワーク事業者が提供するクラウド」、これがCaaSの1つの側面である。
セキュリティ
さて、前段でベライゾン・ビジネスの概要を説明した際に、「セキュリティ」というキーワードが最前面にあったことを思い起こしていただきたい。実は同社は、セキュリティサービスプロバイダーとしてガートナーなどから極めて高い評価を得ている企業でもある。CaaSは「世界最高峰のセキュリティサービスプロバイダーが提供しているクラウド」でもあるのだ。SAS 70 TypeIIの取得はもちろん、世界6カ所にSOC(Security Operation Center)を運用している。ほかのクラウドプレーヤーにはまねのできない特長といえるだろう。
基幹系にも
これほどのスペックは何のために準備されているのだろう。狙いはズバリ「ハイエンドエンタープライズの基幹系での利用」と推測できる。
本稿執筆時点で「クラウドの企業利用」は情報系、Web系での利用がメインであり、基幹系での利用は「数年先のことになるだろう」という認識が一般的だ。企業活動の生命線である基幹系でクラウドを利用するためにはまだ不安が残るというのが正直なところだろう。CaaSはそのような不安を一掃するポテンシャルを秘めている。実際、米国では医療関係機関や金融機関での利用も始まっているようだ。
併せて、CaaSが独SAPの「認定グローバルホスティングパートナー」第1号に選ばれたことは特筆したい。SAPはさまざまな認定に厳しい条件を課しているといわれている。ユーザー業務の重要性を考えれば当然のことだが、従来的な(安全性が確保しやすい)オンプレミスとはまったく異なる「グローバル」「ホスティング」という難易度の高い分野で、CaaSがSAP社のお墨付きを得たことは着目すべきだろう。
課題
「向かうところ敵なし」という印象のCaaSだが、スペックの分だけ相応の価格となっている点はいかんともし難い。価格面だけで他社のクラウドと比較しないことが肝要であろう。例えば、国際展開する企業において「海外拠点をスムーズに立ち上げたい」という状況で、基幹系を含めて最速で情報システムをセキュアにデリバリーする手段などには有力な選択肢といえる(実際、既存の米国企業ユーザーにはこのような利用形態が多いようだ)。「スピード」(時間)と「安心」(セキュリティ)を買うというように考えたい。
また、ほかのクラウドと違って「誰でも利用可能」(匿名の個人などでも使える)というサービスではない(これはサービス全体の品質を維持する安心材料の1つでもある)。利用に際しては、CaaS上に構築するシステムの開発作業も含めて、ベライゾン・ビジネス本体か、同社のビジネスパートナーに相談することになるだろう。
将来性
言い忘れたがCaaSの仮想Farmは、設置拠点(リージョンと呼ぶ)が選べる。米国西海岸、東海岸、欧州、香港が選択可能で、現時点では残念ながら日本はリストされない。しかしながら日本の多くの企業(特に大企業)が、「日本にある」ことを「最大の安心材料」としていることは間違いなく、ベライゾン・ビジネス自体もそのことは十分把握している。近いうちにCaaSが日本上陸することを期待したい。
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