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IFRSと日本基準の「後発事象」「事業セグメント」【IFRS】連載:IFRS基準書テーマ別解説【14】

IFRSにおける「後発事象」「事業セグメント」「売却目的で保有する非流動資産および廃止事業」を解説する。前者2つは日本基準との間にいくつかの細かな相違点があり、後者は日本基準には該当する基準がなく、一部に類似する記述があるだけだ。

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 後発事象は、IFRSではIAS第10号に規定されている。日本では、監査・保証実務委員会報告第76号「後発事象に関する監査上の取扱い」に規定されている(監査上の取り扱いとなっているが、実務上は実質的に会計基準と同等に扱われている)。両者とも後発事象を決算日以降に発生した事象としている点や、財務諸表を修正する必要のある後発事象(修正後発事象)と財務諸表を修正しない後発事象(開示後発事象)の2種類に分類している点など基本的な部分では、相違しない。しかし、いくつか細かい点において違いが生じている。それらについて、以下で見ていくこととする。

いつまでを後発事象ととらえるか

 IAS第10号では、後発事象は決算日以降、財務諸表の公表承認日までに発生する事象と定義されている。日本基準では、いつまでを後発事象ととらえるかについて、主たる法定監査である会社法と金融商品取引法とに分けて記載されている。原則として、会社法では会計監査人の監査報告書提出日まで、金融商品取引法では有価証券報告書提出日までとされている。

 なお、IAS第10号における公表承認日については、財務諸表の実質的な公表の承認権限者(主に取締役会)によって承認された日となる。そのため、株主総会における承認日や監査役会での承認日とはならないことに留意が必要である。なお、IAS第10号ではこの公表承認日について、注記を求めている。

後発事象の例示

 IAS第10号においては、修正後発事象と開示後発事象についてそれぞれいくつか例示されている。日本基準でも同様にそれぞれいくつか例示されているが、それらのすべてが一致するわけではない。IAS第10号に例示されていて、日本基準に例示されていない修正後発事象として、決算日後の棚卸資産の販売がある。期末日後に原価割で棚卸資産の販売が行われた場合、期末日にすでに棚卸資産は減損していたと考えられることから、棚卸資産の減損を認識する必要がある。

事業セグメント

 事業セグメントはIFRSでは、IFRS第8号に規定されている。日本では、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」に規定されている。日本基準は、2010年4月1日以降開始する連結会計年度もしくは事業年度から適用することとされている(早期適用は認められていない)ため、実務に適用され始めたのは、つい最近ということになる。当会計基準はIFRSとのコンバージェンスプロジェクトの一環として整備されていることから、基本的な点において、両者に大きな差はないと言える。

 両基準に通底する事業セグメントにおける考え方は、マネジメントアプローチと呼ばれる。マネジメントアプローチは、企業の最高意志決定責任者が、意志決定・業績評価を行うために報告されている情報をベースとして、セグメント情報を開示することを求めている。

 具体的には、事業セグメントとは以下の3つを満たすものとして定義される。

  1. 収益を獲得し、費用を生ずる事業活動に関わるもの(ほかの事業セグメントとの取引も含まれる)
  2. 当該構成単位に配分すべき資源に関する意志決定を行い業績評価するために、企業の最高経営意志決定機関に対して、定期的に報告されているもの
  3. 分離された財務情報を入手できるもの

 上記3つを満たす事業セグメントを認識したうえで、実際に開示する報告セグメントが決定される。2つ以上の事業セグメントが(その経済的特徴の類似性や、量的重要性に基づいて)集約されたり、その他としてまとめたりされて、報告セグメントとなる。

 また、経営者に報告する際に用いる会計手法が、IFRSや日本の財務会計上の会計基準と異なる場合がある。固定資産の減損会計や棚卸資産の評価減を実施していない場合などがその一例である。その場合には、セグメント利益と財務諸表上の利益との差異について、その内訳を開示する必要がある。

 以下、いくつかの幾分細かい相違点について、見ていくこととする。

  1. 重要性が増したことによる報告セグメントの変更における修正再表示

IFRS第8号においては、報告セグメントを変更する場合には、過年度の情報については、修正再表示が求められている。日本基準においては、報告セグメントを変更する場合のうち、量的な重要性の変化による場合は、その旨とセグメントに与える影響の注記で足りることとされ、修正再表示は求められていない。しかし、日本基準においても改正され、新基準によればIFRSと同様に修正再表示が求められるので、注意が必要となる。

  1. 関連情報の表示

セグメントの基準においては、セグメント情報のほかに、関連情報の表示が求められているが、その中に主要な顧客に関する情報がある。IFRS第8号においては、その事実・金額・関連するセグメント名を記載すれば足りるが、日本基準では、それに加えて主要な顧客の名称についても記載が求められている。

売却目的で保有する非流動資産および廃止事業

 売却目的で保有する非流動資産および廃止事業は、IFRSではIFRS第5号に規定されている。日本基準では、該当する会計基準は存在しないが、一部「固定資産の減損に係る会計基準」に類似する記載がある。当節では、日本基準との比較ではなく、IFRSにおける概念を解説する。

IFRS第5号の基本的な考え方と会計処理

 IFRS第5号は、売却目的で保有する非流動資産および廃止事業と判定された資産(ただし、繰延税金資産や従業員給付により生じる資産など一部の非流動資産についてはそれぞれの基準書に従うこととされている)について、以下の会計処理をすることを求めている。

  1. 帳簿価額と(公正価値ー売却費用)のうちのいずれか小さい方の価格で再測定し、減価償却を中止する
  2. 財政状態計算書および包括利益計算書において、区分表示する

 これらの考え方は、日本基準における固定資産の減損会計にも共通するものがあると言える。具体的には、固定資産の減損にかかる会計基準における兆候の具体例「資産または資産グループが使用されている事業を廃止または再編成すること、あるいは著しく早期に処分すること」に関連している。日本基準においては、上記の状態になった場合には、資産(もしくは資産グループ)に減損の兆候があると判定され、減損の測定を行うこととなる。通常の固定資産のような継続的な利用から得られる便益は受けられず、売却時に得られるキャッシュフローでしか投資が回収できないことが、会計処理の根拠となる。

 IFRS第5号でも、上述と同様の考え方により、継続的な事業運営による投資回収の道を絶ち、売却目的保有や廃止事業となった資産(および資産グループ)については、(公正価値ー売却費用)で評価することとしている。

売却目的保有の非流動資産、廃止事業の表示

 これらは、財政状態計算書・包括利益計算書において、通常のものと分離して記載することが求められている。IFRS第5号の導入ガイドにおける設例によると、財政状態計算書では、資産の部において、流動資産、非流動資産と別に売却目的で保有する非流動資産が記載されており、負債の部においても同様の記載がされている。包括利益計算書については、継続事業から生じた利益の下において、廃止事業から生じた当期利益の記載がされている。IFRS第5号において、例示とされているが、実務上大いに参考となるだろう。

吉田 延史(よしだ のぶふみ)

仰星(ぎょうせい)監査法人

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。部分執筆書に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。


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