孫社長も驚いた「医療現場のiPad/iPhone活用」最前線:「ITで医療は変わるのか?」討論会リポート(前編)
ソフトバンクが11月5日、Ustreamで生中継した「ITで医療は変わるのか?」討論会。同社の孫 正義社長の前で、iPadなどのモバイル端末を医療現場で積極的に活用している医療従事者9人がその取り組みを紹介した。
チーム医療3.0との対談をUstream中継
総務省は2010年5月、光ファイバー回線やクラウドコンピューティングを駆使して、日本の次の成長戦略を考える「光の道」構想を打ち出した。これが実現した場合、2015年までに全世帯でブロードバンドサービスの利用が可能になる。ソフトバンクの代表取締役社長、孫 正義氏はこの構想を受けて、教育・医療分野を中心にiPadなどの携帯通信端末を無償配布し、電子化促進による利便性の向上やコスト削減などを提言。動画共有サービス「Ustream」を通じて、積極的に発信してきた。
ソフトバンクは11月5日、「ITで医療は変わるのか? 〜孫 正義と9人の医療従事者が徹底討論〜」と題する討論会を開催し、Ustreamで生中継した。この討論会では、ITを活用して医療現場の変革に取り組む医療従事者グループ「チーム医療3.0」の活動内容を紹介。さらに、今後の医療分野のIT化「医療クラウド」についての議論を行った。
その模様はUstreamのアーカイブで閲覧できるが、前・後編で159分、35分とかなり長い。そこで、今回から2回に分けてチーム医療3.0が取り組んでいる活用事例を中心に討論会の内容を紹介する。医療現場で進むiPad/iPhone活用の現状を知ることができるだろう(関連記事:孫社長も賛同したiPad/iPhoneを活用する“医療クラウド”)。
討論会登壇者
孫 正義氏(ソフトバンク 代表取締役社長)
杉本真樹氏(神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座消化器内科分野 特命講師)
高尾洋之氏(東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 助教)
狭間研至氏(一般社団法人 在宅療養支援薬局研究会 理事長・ファルメディコ、ハザマ薬局 代表取締役社長)
姜 ●鎬氏(ケアネット メディア事業部長) ●=王へんに「基」
金井伸行氏(金井病院 理事長)
網木 学氏(済生会栗橋病院 外科 医長)
宮川一郎氏(習志野台整形外科内科院長)
遠矢純一郎氏(医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 院長)
片山智栄氏(医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック 看護師)
チーム医療3.0が掲げるのは“脱Webシステム”
そもそもチーム医療3.0とはどのようなグループなのだろうか? 神戸大学大学院の杉本氏は「医療現場では“痛み・苦しみ・悲しみ”が存在し、そこから健康になることを目指し、その先に幸せが続いている。“その幸せをもたらすために医療従事者ができることは何か?”を考えてきた」と説明。チーム医療3.0は、その実現ツールとしてiPadやiPhoneなどの携帯通信端末の活用を普及させている集団だという。全国各地で取り組んでいた医療従事者がアップルの講演やイベントを通じて交流を持ち、現在のメンバーになったという。
杉本氏は、近年の医療分野では「外来や救急診療、在宅、周産期、教育などにおけるサービスの多様性への対応が求められている」と説明。しかし、そのために必要な情報伝達手段やシステム、アプリケーションの最適化が困難であったという。その背景として「医療においては規模の経済(スケールメリット)が働かない」「社会は“医療という究極的な善意”には経済を適用しない」「医療機器や医療システムなどの高コスト体制が築かれた」などを挙げている。その結果、互換性や接続性、継続性などを許さない医療ビジネスの枠組みが固定されてしまったという。
杉本氏はそうした分業化(細分化)や専門化が進んだ状態を「医療1.0」と表現する。医療1.0では組織がピラミッド化し、医療システムにおいてもレガシーシステムを頂点とするピラミッドが形成された。
その後、医師の新しい研修方式として、内科・外科・小児科・産婦人科などの多科研修を行う“全領域型の医師育成(スーパーローテート)”による「医療2.0」へと変化。医局は解体されたが、医療従事者の意思決定や技術習得、経験、人材リソースが流動化してしまい、その制御・機能がマヒして地域格差や医療崩壊を招いたという。また、高齢化社会の到来による医療の需給バランスの崩壊を助長するなど、医療2.0の仕組みにも限界があると指摘した。
そうした仕組みを変革するのが「医療3.0」であるとし、杉本氏は「個人で使用できる携帯通信端末などのインターネット接続汎用機に活路を見いだし、今後の世代交代を見据えた“医療のバージョンアップ”の意味で活用している」と説明した。
チーム医療3.0が“医療3.0”に込めた思い
(1)情報時代を前提に、医療モデルを再構築する
(2)効率化のためのICT活用ではなく、ICTで仕組み自体を変える
(3)医療従事者が働きがい・喜び・誇りを持てる環境を創る
(4)日本の産業、教育も次世代へつなげる
(5)次世代で、これまで投資した医療費を取り戻す
医療3.0の具現化として、杉本氏は「医療クラウド」構築を挙げた。医療クラウドとは高速なインターネットを基盤とした医療情報の共通基盤のことで、杉本氏は「医療クラウドは、単に電子カルテをWeb化することではない」と説明した。
また、その先の将来像として「医療4.0」を掲げ、「絶対的な産業競争力のあるポジションを確立し、医療福祉の産業モデルを確立し、外需を得る。教育と科学技術研究およびインフラ整備を推進する」ことを目指すという。
ここからは、チーム医療3.0のメンバーが取り組んでいるiPadやiPhoneの活用事例を紹介する。
宇宙での遠隔手術も可能になる“医用画像情報の活用”
「もし今、坂本竜馬が生きていたら? 彼はiPadを持って世の中を渡っていただろう」。先述の杉本氏は、現在の医療現場を「高度な医療機器・情報システム、医学的知識、医療技術が聖域化された“医領鎖国”が、外部からの参入を妨げている」と表現した。また、診療科や地域、学閥、企業などから行政、司法、官民に至るまでさまざまな障壁が存在し、それらを取り払う道具がiPhoneやiPadなどの携帯通信端末だと説明する。さらに「誰でも使えるという汎用機である点が、その垣根を下げる上で重要だ」と強調し、医療現場におけるスマートフォン活用メリットとして「鮮度のある情報をリアルタイムで入手・入力・共有できること。また、医療従事者自身でもアプリケーションを作成できる点」を挙げている。
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