バックアップ/リカバリ技術の2011年を展望する:脚光を浴びる重複排除、存在感を示し続けるテープ
バックアップ/リカバリの専門家が、VMware、重複排除技術、テープなど、幾つかのキーワードに絡めて2010年を振り返り、2011年を展望した。
2010年には、バックアップ/リカバリの分野でさまざまなことが起きた。まず、VMwareに対応した本格的なバックアップ/リカバリソリューションがようやく登場してきた。重複排除機能(ソース側とターゲット側)も、さまざまなベンダーから登場しつつある。その一方でテープもまだ健在だ。CDP(Continuous Data Protection:継続的データ保護)およびその兄弟分であるNear CDPも、企業の業務環境に導入され始めた。そして仮想化の振り子は、ディスクがテープのように振る舞うという方式からテープがディスクのように振る舞うという方式へと一気に傾いた。
VMwareのバックアップ:まだ改善の余地あり
まず、VMwareの話から始めよう。米VMwareは「vSphere」をリリースした。これは一から再設計された製品で、データ保護用のAPIを備えている。その前世代製品である「VMware Consolidated Backup」(以下、VCB)とは異なり、「vSphere vStorage APIs for Data Protection」は2段階のバックアップとリストアを必要とせず、VMwareイメージをブロックレベルでインクリメンタル(増分)バックアップできる。これはVCBと比べると大きな進歩だが、リリース当初、Windows Server 2008ではアプリケーションと整合性のあるバックアップが行えないという大きな制約があった。VMwareは2010年末までにこの制約に対処したが、vSphereで採用されているVSSバックアップタイプ(VSS_BT_COPY)は依然として、バックアップが正しく行われたどうかをアプリケーションに通知しないため、アプリケーションはトランザクションログを削除するといったことができない。だが、この制約も間もなく解消されるものと思われる。
VMwareは仮想マシンのバックアップの制約の多くに対処したものの、改善あるいは強化すべき余地はまだあり、サードパーティーのVMwareバックアップ製品に市場参入機会を与えている。従来、米Quest Softwareの「vRanger」がこの分野の唯一の製品だったが、2010年後半には競合製品に追い抜かれた。米Veeamが、仮想マシンの即時リカバリとバックアップの自動テスト機能を備えた「Backup and Replication 5.0」をリリースしたのだ。PHD Virtual Backupも、ソースベースの重複排除やVMwareバックアップの長期保存用テープのワンパスリカバリなど多数の新機能を追加した。VMwareの人気の高さに加え、多くのユーザーがそのバックアップで苦労している現状を考えれば、2011年もVMwareのバックアップ分野から目が離せない。
データ重複排除が脚光を浴びた1年
2010年はデータ重複排除技術の年でもあった。全ての重複排除技術ベンダーがシステムの販売台数をかつてなく伸ばし、どのベンダーも例外なく、その収益の一部を自社のシステムの速度と能力をさらに改善するために投資した。この分野の最大の勝者は米EMCだ。同社は2009年に米Data Domainを買収したのに伴い、バックアップ製品のみに専念する新部門を設立した。EMCはこの市場への本格参入を果たし、広範な企業向けに重複排除製品の販売を開始した。多くの競合ベンダーも四半期ごとに売り上げを伸ばしているのは事実だが、その数字はEMCの足元に及ばない。EMCが販売する「Data Domain」も「Avamar」も完璧とまでは言えないが、いずれも強力な製品であることは間違いなく、さらに強力な販売部門がこれらの製品を支えている。
重複排除技術は2010年、新たな分野にも進出した。EMCの「NetWorker」、米CommVaultの「Simpana」、米IBMの「Tivoli Storage Manager」(TSM)、米Symantecの「Backup Exec」はいずれも、統合型重複排除製品の提供を開始した。EMCとSymantecは、自社の他の重複排除製品と連係するという手段によってそれを実現した。一方、CommVaultとIBMは、一から新機能を開発することによって実現した。これらの製品は、大規模なターゲット重複排除システムのような速度や拡張性を備えていないかもしれないが、そもそもこういった高価なシステムに手が出せなかった多くの企業に重複排除技術を提供するものだ。
テープはまだ死なず
テープバックアップ市場はかつての勢いを失ったものの、テープライブラリのメーカー各社はまだ白旗を揚げていない。各社は現在でも大規模なテープライブラリを開発し、多くの企業がそれらを購入している。その理由は、重複排除システムを購入するよりも、テープライブラリを購入する方が、はるかに安上がりであるからにほかならない。長期的に見れば重複排除システムの方がコスト的に有利かもしれないが、どんな企業でも大きな初期投資は回避したいと思うものだ。
そして2010年には、LTO-5テープに対応したLinear File System(LTFS)の登場で、仮想化の振り子は反対側に大きく振れた。LTFSテープは、自己記述型のファイルシステムを採用する。この方式がいずれ、現在出回っている何百種類ものバックアップ/アーカイブテープフォーマットに取って代わる可能性もある。LTFSテープは一般的なファイルシステムとまったく同じようにマウントされる。つまり、テープがディスクのように振る舞うのだ。
勢いづくCDPおよびNear CDP製品
2010年には、CDPおよびNear CDP製品も現れ始めた。米Actifio、米Cofio Software、米InMageが各種のCDP製品を提供している。Near CDP(スナップショットと複製機能を提供)に関して言えば、米Cirtas Systemsや米Nimble Storageなどのストレージベンダーが、米NetAppの方式をまねて、スナップショットの作成にリダイレクトオンライト方式を採用した(大多数のベンダーはコピーオンライト方式を採用)。リダイレクトオンライト方式では、1台のストレージシステムに何百個ものスナップショットを保存することができ、しかもパフォーマンスに影響を及ぼすことはない。Nimble製品の場合、これらのスナップショットをほかのNimbleシステムに複製できるのに対し、Cirtasの製品はスナップショットをクラウドに複製することができる。先に述べたように、VeeamもNear CDP型バックアップ製品を提供している。メインシステムがダウンしたりそのデータが壊れたりした場合には、ESXサーバが即座にバックアップをマウントする。
2011年のバックアップ/リカバリ市場を展望する
2011年には、VMwareはその最後の制限を取り払うものと予想される。重複排除はさらに改良が進み、多くの企業が従来のテープシステムから重複排除システムに乗り換えるだろう。しかし、従来のテープシステムを新タイプのテープシステムにリプレースする企業も多いだろう。第1段階のバックアップとしてディスクの利用が進むことは間違いなさそうだが、多くの企業は今後も最終的に大部分のバックアップデータをテープに保存するだろう。CDPの普及は始まったばかりであり、今後も市場が拡大するだろうが、重複排除製品ほどの勢いで普及することはなさそうだ。人々が従来のバックアップ方法から新世代のバックアップとリカバリ手法に移行するのを私は期待している。それはいつか起きるだろうが、多くの企業にとって2011年にその日が来ることはないだろう。
本稿筆者のW・カーティス・プレストン氏(別名「ミスター・バックアップ」)は、バックアップを専門とするフリーの編集者。15年以上にわたってバックアップとリカバリ分野に携わってきた。大手クレジットカード会社のバックアップ管理者からスタートし、現在ではバックアップ分野で最も人気の高いコンサルタント、ライター、講演者として活躍する。データのリカバリに関しては同氏の右に出る者はいない。これまで数百本に及ぶ記事を執筆した他、『Backup and Recovery』や『Using SANs and NAS』などの著作もある。Webサイト「BackupCentral」を運営する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.