独自のキャッシュ技術でストレージの階層化を実現する「FAS6200シリーズ」:エンタープライズディスクストレージ製品紹介:ネットアップ
2010年11月、従来の製品ラインアップの約8割を大幅に刷新したネットアップ。本稿では、同社が発表したハイエンド向けのストレージシステムを紹介する。
全製品ラインアップを同一アーキテクチャでそろえるネットアップ
近年、大手総合ベンダーを中心に、ストレージベンダーを買収することで自社のストレージ製品のポートフォリオを拡充する動きが活発化している。そんな中、独立系のストレージ専業ベンダーとして製品を提供し続けているのが米NetApp(ネットアップ)だ。1992年創業の同社は、NASアプライアンス製品で急成長を遂げた後、2002年にはSANとNASを統合した「ユニファイド・ストレージ・アーキテクチャ」に基づく製品を発表。以降はマルチプロトコルに対応した製品のラインアップをローエンドからハイエンドまで拡充してきた。
現在、同社のストレージ製品のラインアップは、ローエンド向けの「FAS2000シリーズ」、ミドルレンジ向けの「FAS/V3200シリーズ」、ハイエンド向けの「FAS/V6200シリーズ」の3系統に分かれている。これらのうち、FAS/V3200シリーズとFAS/V6200シリーズは、2010年11月に発表された新製品である。同社は当時、従来の製品ラインアップの約8割を刷新した。
なお、FAS/V6200シリーズは、「FAS6200シリーズ」と「V6200シリーズ」の2つに大別される。前者はヘッドとディスクシェルフがセットになった、いわゆる通常のストレージシステムである。一方後者は他社製のストレージシステムへの接続を前提としたストレージ仮想化技術である。よって後者は基本的にヘッドのみの提供形態となる。エンタープライズ向けストレージ製品を紹介する連載の第5回は、主に前者のFAS6200シリーズを紹介する。
ネットアップの技術本部 本部長 近藤正孝氏は、独立系ベンダーとして包括的なストレージ製品を提供している自社について「大手総合ベンダーに対して多くの優位性がある」と話す。近藤氏によると「他社は買収で製品ラインアップを拡充してきた結果、異なるアーキテクチャの製品ラインが混在している。その点ネットアップの製品は、ローエンドからハイエンドまで全て単一のアーキテクチャに基づいて作られている」という。また、同社のストレージシステムは、OSや管理ツールなどのソフトウェアも全て共通のものが搭載されている。その点が「今後、ストレージ仮想化やクラウドコンピューティング環境への移行を考えた場合、単一アーキテクチャであることはユーザーにとって大きなメリットになる」というのだ。
従来比約2倍の性能向上を実現、新ハイエンド製品「FAS6200シリーズ」
FAS6200シリーズは「FAS6210」「FAS6240」「FAS6280」の3製品から成り、最大ストレージ容量やプロセッサコア数、最大搭載メモリ容量などがそれぞれ異なる。最もハイスペックなFAS6280の場合、プロセッサコアは24個、メモリは192Gバイト、ディスクは2880Tバイトまで搭載可能だ。
近藤氏によると、旧来のハイエンド製品「FAS6000シリーズ」とFAS6200シリーズとの性能比較では、約2倍のパフォーマンス向上を実現しているという。また、同社内で行った性能検証では、NFSの大量データのシーケンシャル読み込み(Read)で約3倍、シーケンシャル書き込み(Write)で約2倍のスループット向上を計測している。さらに、NFSのスループットを測定する業界標準のベンチマークテスト「SPEC SFS2008」でも、旧製品と比較して約2倍の性能アップという結果が出ている。
また、製品ラインアップに2.5インチディスクを格納できるディスクシェルフ「DS2246」が新たに追加された他、同社純正のソリッドステートドライブ(SSD)も利用できるようになった。ストレージヘッド側のパフォーマンスアップに加えて、利用できるディスク装置の種類が増えたことで、旧製品と比べより幅広いユーザーニーズに対応できる。
独自のキャッシュ技術「フラッシュキャッシュ」
なお、同社のストレージ製品にはスループット向上のためのユニークなオプションがある。それが「フラッシュキャッシュ」だ。旧製品までは「PAM(Performance Acceleration Module)」と呼ばれていたもので、フラッシュメモリ上にアクセス頻度の高いデータを自動的にキャッシュすることで、データアクセスのスループット向上を実現するものだ。
その原理は、通常のキャッシュメモリとほぼ同じである。ただしフラッシュメモリを用いているため、通常のメモリ(DRAM)と比べてアクセス速度が若干劣る。その代わりに大容量を搭載することができ、その分キャッシュヒット率が向上している。例えば、FAS6280では最大8Tバイト搭載可能となっている。ネットアップ社内の検証結果によれば、キャッシュにヒットした場合のレイテンシはディスク読み出しの10分の1以下になるなど、ディスクと比べるとそのアクセススピードは格段に速いといえる。
また、フラッシュキャッシュ機能の特徴として、アクセス頻度が高いデータブロックを自動的にフラッシュキャッシュに配置できる点が挙げられる。FCディスクやSATAディスクに保存されているデータであっても、アクセス頻度が高いものは自動的にフラッシュキャッシュ上に配置される。そのため、キャッシュ上のデータの読み込みは、SSDに匹敵するほどのスループットが期待できるという。
一方、SSDに保存されているデータは、常に安定して高いスループットで読み出すことができる。SSDとフラッシュキャッシュは、どちらもフラッシュメモリを使った技術だが、両者の特性の違いを考慮して、それぞれ異なるワークロードに対して使い分けることをネットアップでは推奨している。
近藤氏は「OLTPのように、アクセスが集中するディスク領域があらかじめ分かっているような場合は、そこにSSDを採用することで全体として高いスループットを実現できる。逆に、ファイルサーバやメールサーバなど、どこにアクセスが集中するか分からないようなケースでは、フラッシュキャッシュが威力を発揮する」と説明する。
また、ストレージ階層化の構成を組む場合にも、フラッシュキャッシュは極めて有効だという。通常、ストレージ階層化ではデータのアクセス頻度に応じて、データブロックを階層間で移動・再配置するチューニング作業が欠かせない。しかし、フラッシュキャッシュ機能は自動的にアクセス頻度の高いブロックをキャッシュするため、こうしたチューニングが不要になるのだ。ネットアップでは今後、こうしたストレージ階層化のソリューションを「Virtual Storage Tier」という名称で提唱していくという。
さらに、フラッシュキャッシュはコスト削減の面でもメリットがあるという。通常、高いIOPS(1秒間当たりのI/O数)を確保するためには、多数のディスクでRAID構成を組み、ディスクI/Oを分散させる方法を採る。しかしこの方法では、ディスクの数を増やせば増やすほどディスク上の無駄な領域が増え、費用対効果が薄れてしまう。しかし、フラッシュキャッシュ方式ではディスク数を増やすことなくスループットを向上できるため、ディスク装置に費やすコストを削減できるとともに、消費電力や設置スペースも節約できる。
機能強化されたOS「Data ONTAP」
同社のストレージ製品に搭載されるOS「Data ONTAP」も、同社独自の特徴的な技術だといえよう。同社製品に搭載されるOSはローエンドからハイエンドまで、全てData ONTAPで統一されており、製品間での相互運用性や拡張性を考えた場合、共通のOSが搭載されていることのメリットは大きい。
Data ONTAPは2010年3月にメジャーバージョンアップが行われ、「Data ONTAP 8.0」の提供が開始された。同年11月にはFAS/V6200シリーズとFAS/V3200シリーズの発表に合わせ、バージョンアップ版「Data ONTAP 8.0.1」がリリースされた。従来からの重複排除機能に加え、新たにインラインでのデータ圧縮機能が追加されたほか、アプリケーションを停止させることなくディスクプール間でデータボリュームを移動できる機能「DataMotion for Volumes」も追加された。さらに、NASとSANの複数のネットワークプロトコルを全て単一のインタフェースとケーブルでカバーできる「Unified Connect」という機能も利用できる。
また同社では新製品発表に合わせて、「FlexPod for VMware」というソリューションセットもリリースしている。これは、同社のストレージ製品「FASファミリー」とヴイエムウェアの仮想化ソフトウェア製品、そしてシスコシステムズのスイッチ製品を組み合わせて、データセンターアーキテクチャを丸ごと提供するというものだ。
ファイルデータへのオブジェクトアクセスを可能にする「StorageGRID」
NetAppは2010年5月、カナダのソフトウェア企業Bycast(バイキャスト)を買収している。この買収は、ネットアップの今後の製品戦略にとって極めて重要な意味を持つという。鍵を握るのが、バイキャストが提供していたソフトウェア製品「StorageGRID」だ。この製品は、複数拠点に分散している大容量の非構造化データに対して、メタデータベースのアクセスや自律的な管理を可能にするものである。
ネットアップでは既に北米において、同社のストレージ製品とStorageGRIDを組み合わせたソリューションを提供開始しており、欧州とアジアでも今後随時提供していく予定だ。
項目 | 仕様 |
---|---|
ドライブ数 | 最大1440ドライブ |
メモリ | 最大192Gバイト |
システム容量 | 最大2880Tバイト |
RAIDレベル | RAID 4、RAID 6 |
フラッシュキャッシュ | 最大8Tバイト |
サポート対象 | FC、FCoE、iSCSI、NFS、CIFS、HTTP、FTP |
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