V6プラットフォームが目指すのはモノづくりの「民主化」:NEWS
2011年10月19日、来日したダッソー・システムズ 社長 兼 最高経営責任者 ベルナール・シャーレス氏自身がV6プラットフォームの目指す世界を語った。キーワードは“民主化”らしい。
2011年10月19日「ダッソー・システムズ ジャパン フォーラム2011」開催に際し、来日した仏ダッソー・システムズ 社長 兼 最高経営責任者 ベルナール・シャーレス氏は日本のプレス向けに会見を行った。
モノづくりプロセスの変化
「市場や社会が変化しているならば、われわれもゲームプランを変えなければならない」。シャーレス氏は会見の冒頭、このように述べた。シャーレス氏のいう「市場の変化」とは、端的にいうと「モノづくりの民主化」を指している。
企業がモノを作り、市場で売り、それをコンシューマが買う、というスタイルから、個人や小さなコミュニティーがモノを作って共有したり、企業とコンシューマがモノを介して直接的にコミュニケーションを図っていくような「民主化」した世界に変化するというのが、シャーレス氏の視点だ。その際の媒体となるのが3次元データだとする。変化した社会に企業が追従するためにはモノづくりのプロセスそのものを見直すべきだ、というのが冒頭のシャーレス氏のメッセージだ。
2021年に向けたビジョンを語った仏ダッソー・システムズ 社長 兼 最高経営責任者 ベルナール・シャーレス氏。自動車業界での実績が多い同社だが、V6プラットフォームの特性を生かして今後アパレル・医療・学術などの分野への展開を進めたいとしている
それはCGではなく、DMUでもない
シャーレス氏が率いるダッソー・システムズはV6プラットフォーム発表以降、「ライフライクエクスペリエンス」というテーマを掲げてきた。さまざまな発表やデモンストレーションでその世界観を示してきたが、VRやポリゴンアニメーションとの違いが見えにくかったのも事実だ。
シャーレス氏が同社製品で提供するのは、DMUによる試作の仮想化とはまったく別の、ライフライクエクスペリエンス(=V6プラットフォームが提供する世界)であると強調する。端的にいうと、完全なるフロントロードを実現し「作らずに作り込む」ためには、製品や加工機、製造ライン「だけ」の3次元モデル化とそれによるコミュニケーション・シミュレーションでは不十分であり、消費者や消費者が活動する世界全体をシミュレーションしなければならないというのだ。
ワイヤフレームやポリゴンを使ったCGによる仮想表現との違いはCADデータそのものが質量のある物体を表現している点になろう。質量を持ったモノの挙動を物理的に正しくシミュレートでき、かつ、CGのように視覚的な表現でその結果を伝えられる。
「PLMは単なるデジタルドキュメント管理ではない。データ統合などは本来の目指すものではない枝葉末節の問題」(シャーレス氏)
製品そのものを仮想環境下に置くための3次元設計、それにひも付くBOM情報管理といった狭義のPLMが作る世界は、現実世界のごく一部の仮想化でしかないが、V6プラットフォームの全体像としては、市場マーケティングや上市後の品質管理、アフターサービスや廃棄へとつながる製品ライフサイクル後半の領域を仮想環境下で実現しようという考えだ。仮想店舗で製品を選ぶ消費者そのものも仮想空間下に置き、消費行動すらモノを作る前に検証しようという試みだ。
上市後の状況を仮想的に検証するには仮想環境下にコンシューマが存在しなければならない。恐らく、3DviaやSWYMといった製品開発への投資は、社会やコミュニティーそのものをV6プラットフォームで仮想化していこうという壮大なビジョン実現のためのものだろう。
とはいえ、現実的な問題として、コンピュータの性能が向上しているにしても、こうした世界を許容する処理速度を実現するのは容易なことではない。V6プラットフォームが目指す世界を実現できるシステムインフラを自前で構築できるのは大手自動車メーカーなど限られた企業だけだろう。現在でも製品構成が複雑で1日ではバッチ処理が終わらず苦慮しているようなユーザーにとっては、こうした大規模シミュレーションは遠い先の世界に見えるはずだ。こうしたIT投資に関する課題を解消する布石が、クラウド環境への対応であり、HPC版のAmazon Web Services(AWS)への対応の宣言なのではないかと推察できる。
先のニュースで紹介したように、将来的にHPC版への対応も検討しているとされている。シャーレス氏は、「AWSとオンプレミスシステムの両方で同じアーキテクチャの情報基盤を提供できるのはV6プラットフォームだけ」としており、本社以外の拠点へのPLMシステム導入などでシームレスな運用が可能な点が同社の強みとなるとしている。HPC版以外のAWSへの対応は直近でも実現される見通しであり、同社がターゲットの1つとするアパレル業界などでの採用は進むかもしれない。
リアリティがない? 見えにくいところでリアルな投資は進行中
V6プラットフォーム全体のビジョンが壮大なこともあり、雲をつかむような話に聞こえたかもしれないが、よりリアリティある機能拡充は確実に進んでいる。
2010年末にはV6R2011xで、EDAやALMツールとの連携強化が発表されている(参考記事)。具体的には、組み込みソフトウェア開発ツール「Geensoft」、タグベースの要件管理ツール「Reqtify」や車載用組み込みソフトウェア開発ツール「AUTOSAR Builder」、モデル駆動開発向け制御ロジック検証ツール「Control Build」が既にV6プラットフォームに統合されている。
元来、ダッソー・システムズが得意としている自動車関連企業を中心に、エレ・メカ・ソフトを連携した製品検証のニーズはますます高まっている。会見後、シャーレス氏は、これらについての機能強化も継続的に進めていきたい意向を語っていた。
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