BYODや利便性確保、部署間調整が課題に
モバイルデバイス管理(MDM)の導入を阻む3つの壁とは?
スマートフォンやタブレットの管理を効率化するモバイルデバイス管理(MDM)。本稿は専門家の見解を基にMDMのメリットや課題を整理しつつ、製品選定のポイントを探る。
続々と登場する“クール”なスマートフォンやタブレット端末はエンドユーザーの心をつかんで離さない。一方でITセキュリティ管理者の立場からすれば、こうした新しいモバイル端末はセキュリティやプライバシーに関してさまざまな難題をもたらすやっかいな存在だ。
そうした難題を解決する有力な手段が、モバイル端末管理(MDM)製品である。MDM製品は、社内導入したスマートフォンやタブレット端末を企業のIT管理者が監視、制御するための製品だ。私物端末も含めたさまざまなプラットフォームのモバイル端末を管理し、セキュリティを確保する。
多様なモバイル端末を管理する際、MDM製品はどういったメリットを企業にもたらすのか。MDMベンダーであるMobileIronで製品およびマーケティング担当副社長を務めるオージャス・リジェ氏は、MDM製品が支援する項目として以下の5項目を挙げる。
- 資産管理:スマートフォン/タブレット端末のインベントリや所有者情報の管理
- 構成管理:社内LANへの接続やプライバシー、セキュリティ、アプリケーション関連の設定の管理
- データ保護:端末に保存されているデータと送受信するデータの保護
- エンタープライズアプリケーション管理:ユーザー企業独自の「アプリケーションストア」を用意してモバイルアプリケーションを端末に配布することによるアプリケーションデータのセキュリティ確保
- トラブルシューティングやヘルプデスク機能:エンドユーザーのサポート
リジェ氏はMDM製品が有効な例として、これまでBlackBerryなど単一のモバイルプラットフォームのみの使用を認めてきた企業が、AndroidやiOS端末を含む幅広い端末の使用許可を検討するケースを挙げる。「複数のプラットフォームのモバイル端末に保存される企業データを保護するのに、MDM製品は最適だ」(同氏)。またメールやアプリケーションだけでなく、設定の配布やアプリケーションデータ保護にもMDMが有効だと同氏は説明する。
MDM導入に当たっての課題は?
上記のように、MDMのメリットは確かに多い。だがMDM製品の導入に当たっては検討すべき課題も少なからず存在する。
課題1:セキュリティと利便性のバランス
セキュリティを厳格にしてむやみに機能を制限すると、モバイル端末の使い勝手を損なってしまう可能性がある。「MDMの導入に当たっては、MDM製品が端末のパフォーマンスや操作性に影響を与えないように配慮すべきだ」というのが、米セキュリティコンサルティング会社Secure Ideasのセキュリティコンサルタントであるケビン・ジョンソン氏の考え方だ。
MDMの代表的な機能の1つとして、カメラやWi-Fiを使用禁止にするといったモバイル端末の機能制限がある。ジョンソン氏は、MDMでモバイル端末の機能制限をする際、「機能制限に関するポリシーを策定し、主な関係者から承認を取り付けることが重要だ」とアドバイスする。
課題2:BYODを前提としたポリシー策定
「MDMに求められる要件は、クライアントPC管理とは根本的に異なる」とMobileIronのリジェ氏は注意を促す。「モバイル端末は企業にとって新しい要素だ。モバイル端末に関するセキュリティポリシーやプライバシーポリシーの策定は必然的に難しい仕事になる」(同氏)
ポリシー策定の上で忘れてはならないのが、私物端末の業務利用(BYOD)だ。McAfeeでエンタープライズモビリティ担当製品マネジャーを務めるリサ・ピッテンジャー氏は、BYODを求める従業員の声の高まりが、多くの企業にとって課題になりつつあると指摘する。
「私物端末を使って社内データにアクセスするケースが増えている。私物端末の利用を許可するに当たって、従業員が退職する際の端末データの消去など、ガバナンスやプライバシーに関係する問題は無視できない。データの扱い方をはじめ、BYODを前提としたポリシーを早急に整備して社内に明示することが重要だ」(ピッテンジャー氏)
課題3:モバイル端末に関連する複数部署の調整
Symantecでエンドポイント管理とモビリティ担当部門のシニアマネジャーを務めるビジェイ・コティカラプディ氏は、「複数の関連部署が絡むことがMDM導入のハードルになる場合もある」と指摘する。「どの部署がモバイル端末の管理責任を負うかを確定できている企業は少ない。モバイル端末に関係する部署は1つではないからだ」(同氏)
「例えばメールはメッセージング担当部署、アプリケーションはインフラ担当部署、セキュリティはセキュリティ担当部署など、担うべき管理責任が各部署に分かれているのが現状」とコティカラプディ氏は説明する。
各部署の要求が高度化するにつれ、部署間に摩擦が発生することは避けられない。この問題を緩和するに必要なのは「モバイル端末管理に関する明確な目標を設定することだ」とコティカラブディ氏は主張する。「目標を全部署で共有し、エンドユーザーの賛同を得ることが重要になる」(同氏)
MDMの選定と導入のポイントは?
メリットや課題を整理した上で、企業はどのような基準でMDM製品を選定すべきか。MobileIronのリジェ氏は、MDMに必要な要件として以下の点を挙げる。
- 少なくとも3種類以上のモバイルOSをサポートすること
- 詳細なセキュリティ設定が可能なこと
- 転送中のデータの保護機能を備えること
- Active DirectoryやLDAP、ID管理、アプリケーション管理をはじめとする他のセキュリティ製品との緊密な統合が可能なこと
MDMベンダーである米AirWatchのジョン・マーシャルCEOは上記に加え、特定のグループごとに別個の端末管理ポリシーを適用できるかどうかを確認すべきだと主張する。主にグローバル企業が、複数の拠点で異なる端末管理ポリシーを設定したい場合に役立つ。「大規模なグローバル企業の場合、各拠点でポイントソリューションを導入してしまい、システムが分散化してしまっている例が多数ある」
モバイル端末のセキュリティは端末中心から情報中心に
Gartnerが2011年4月に発表したMDM市場に関する報告によると、現在の市場リーダーはAirWatchとGood Technology、MobileIron、Sybaseの4社だ。ただし同報告は、「アプリケーションやサービス、ポリシー、端末、セキュリティを包括的に管理する製品を提供するベンダーは現時点で存在しない」とも指摘している。MDM製品ベンダーは、現在欠けている機能を埋めるべく機能の拡充を図っていくだろう。
MDM市場の成長や発展をけん引する要素は他にもある。McAfeeのピッテンジャー氏によると、危険なモバイル端末向けマルウェアの増加を受け、社内のシステムやネットワークに対するマルウェアの侵入を阻止する包括的な保護対策の重要性が高まっているという。
AirWatchのマーシャル氏は「今後数カ月のうちに、アプリケーションの配布やコンプライアンス、アプリケーションセキュリティといった要素にますます注目が集まるだろう」と話す。「モバイルワーカーが生産性向上のために、業務に役立つアプリケーションをモバイル端末で使おうとするのは当然の動きだ。また市場で差異化を図る要素として、戦略的にモバイルアプリケーションを利用する企業は多い」と話す。
「こうした新しい動きを受け、セキュリティやコンプライアンスの要件はますます複雑になる」と、Symantecのコティカラプディ氏は指摘する。「モバイルセキュリティを長期的な視点で見ると、端末中心のアプローチから情報中心のアプローチに移行していくのが最善の流れだ」(同氏)
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