2011年12月:米国のIFRS適用判断が「数カ月」延期:【IFRS】忙しい人のためのIFRS Watch【第9回】
IFRSにかかわる組織から毎月、公表される各種文書。ムービングターゲットと言われ、変化を続けているIFRSの姿を捉えるにはこれらの文書から最新情報を得る必要がある。今月は米国におけるIFRS適用に関するSECのレポートなどを紹介する。
IFRS Watch第9回は、主に11月中に公表されたIFRS関連情報より注目すべきものをピックアップした。今回は、2011年中に行われると見込まれていた米国へのIFRSの組み入れに関するSECの判断の先送りや、注目されていた収益認識基準の公開草案の公表などに関する情報をお届けする。
【これまでの記事】
- 2011年4月:IASB、顧客との契約から生じる収益
- 2011年5月:IFRS第10号(連結財務諸表)他のレビュー完了
- 2011年6月:米国のIFRS移行方法の1つ「コンドースメント」
- 2011年7月:SEC、一部企業にIFRSの「オプト・アウト」を認める可能性
- 2011年8月:「コンドースメント」議論する公開討論
- 2011年9月:AICPAがIFRS任意適用を提言
- 2011年10月:収益認識などの基準化に関する議論
- 2011年11月:最新の公開草案に日本がコメント
記事内の略号
ASBJ:企業会計基準委員会
FASB:米国財務会計基準審議会
IASB:国際会計基準審議会
IFRS:国際財務報告基準
MoU:IFRSと米国の会計基準との間の差異に関するコンバージェンス合意
SEC:米国証券取引委員会
・2011年11月7日 IASB、IFRS第9号金融商品の基準適用を延期(IASBインフォメーションより)
IASBは、IFRS第9号の強制発効日の調整を提案していたが(参考記事)、延期を決定した。現在は2013年1月1日であるIFRS第9号の発効日を、2015年1月1日とする。これは公表済みや進行中のプロジェクトについて、発効日を同じにするよう調整することを主目的とするものである。
・2011年11月10日 企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議の開催(金融庁 企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議議事録より)
2011年11月10日に開催された企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議において、日本のIFRS強制適用に関する議論がなされた。議題は以下の2点である。
(1)わが国の会計基準・開示制度全体の在り方
- 連結と単体の関係——IFRS強制適用時における「連結先行」の考え方について、会社法や税法等との関係を踏まえながら議論がなされた。
(2)経済活動に資する会計の在り方
- わが国産業・雇用構造、わが国企業の海外進出、資金調達の状況——わが国の産業や雇用構造についての諸外国との比較、海外進出や、海外における資金調達の状況とIFRSの関係について議論がなされた。
- 企業経営と会計基準の関係——当期純利益と包括利益、公正価値会計等の会計概念のあり方についての議論等がなされた。
これらの議題について、具体的な結論には達していないが、各委員より活発な発言がなされている。議事全文は上記アドレスより、閲覧することが可能である。また、配布資料については、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議議事次第(参考リンク)を参照されたい。
・2011年11月14日 「顧客との契約から生じる収益」の再公開草案の公表(IASB Revised exposure draft and Comment lettersより)
IASBは、2010年6月に公表した「顧客との契約から生じる収益」の再公開草案を公表した。主な概要は以下の通りである。
(1)2010年6月公表の公開草案からの主な変更点
1.収益認識時点の分類
2010年6月公表の公開草案では、財またはサービスの支配の移転時期を例示された4つの指標に照らして判断することを提案していた。しかし、一時点での移転(例:財の販売)の場合と、連続的な移転(例:サービスや工事契約)の場合には、その判断となる指標も異なり得るため、それぞれの場合の指標を示すべきであるとの意見が寄せられた。
そのため、再公開草案では以下の要件を少なくとも1つを充たす履行義務を「一定期間にわたり充足される履行義務」として取り扱い、時の経過に従って収益を認識することを提案している。
A.企業の履行により資産が創出され、または、その価値が増加するにつれて顧客が当該資産を支配する
B.企業の履行により,企業が他の用途に利用できる資産が創出されず、かつ、次の要件の少なくとも1つが満たされる
- 企業の履行に従って、顧客が便益を受け取ると同時に消費する
- 残存する(未履行の)義務を他の企業が履行する場合でも、当該他の企業は完了済みの部分をやり直す必要が実質的にない
- 企業は、完了済みの部分に対する支払いを受ける権利を有しており、契約を約束通り履行する見込みである
また、上記以外の履行義務は、「一時点で充足される履行義務」として取り扱い、例えば以下に掲げる支配移転の指標を満たす場合には、収益を一時点で認識することを提案している。
A.企業が資産に対する支払いを受ける現在の権利を有する
B.顧客が資産に対する法律上の所有権を有する
C.企業が資産の物理的な占有を移転している
D.顧客が資産の所有に関する重要なリスクと経済価値を有する
E.顧客が資産を受け入れている
2.取引価格の算定(回収可能性)
2010年6月公表の公開草案では、顧客の信用リスクの影響を収益から減額し、収益を純額で表示することを提案していた。しかし、財務諸表利用者からは、信用リスク控除後の利益よりも、顧客と約束した取引価格で収益を計上し、信用リスクを別の損失とした方が、意思決定に有用な情報が得られるのではないかとの意見が寄せられた。
そのため、再公開草案では収益は総額表示し、顧客の信用リスクの影響を収益の控除項目として表示することを提案している。
3.製品保証の取り扱い
2010年6月公表の公開草案では、製品保証を、品質保証的製品保証および保険的製品保証に分類することを提案していた。具体的には、品質保証的製品保証に該当する場合には別個の履行義務とせず、品質保証に対応する部分の収益を繰り延べることとされ、保険的製品保証に該当する場合には、財またはサービスの引き渡しとは別個の履行義務として取り扱うこととしていた。しかし、品質保証的製品保証と保険的製品保証を区別することは実務上困難であるとの意見が寄せられた。
そのため、再公開草案では以下のいずれかに該当する場合には別個の履行義務とし、該当しない場合にはIAS37号で規定される負債として認識することを提案している。
A.顧客が製品保証を別途購入するオプションを有している
B.契約に定められた仕様に従った製品を引き渡すという品質保証とは別に保証サービスを提供する
4.不利テスト
2010年6月公表の公開草案では、全ての履行義務について履行義務単位で判定することを提案していた。しかし、履行義務単位でコストをひも付けすることが困難となる可能性があり、また、契約全体で利益の場合まで認識するのは実態にそぐわないのではないかとの意見が寄せられた。
そのため、再公開草案では一定の期間にわたり充足される1年超の長期契約に限定して判定することを提案している。
(2)適用時期
再公開草案の中で具体的に示されていないが、少なくとも2015年1月1日以後開始事業年度となることが提案され、早期適用が認められている。
(3)遡及適用
原則として遡及適用されるが、開示や見積もりについて一定の軽減措置が認められており、初度適用企業についても、その一部につき認められている。
(4)コメントの募集期限
2012年3月13日までコメントを募集している。
・2011年11月17日 国際財務報告基準(IFRS)2011 IFRS財団公認日本語版の発売(ASBJ INFOMATIONより)
ASBJは、11月24日に国際財務報告基準(IFRS)2011 IFRS財団公認日本語版を出版した。同書においては、IFRS第9号(金融商品)および概念フレームワークの改定など、2010年の改定内容を反映して2011年1月1日現在で公表されているIFRS(第1号〜第9号)およびIAS(第1号〜第41号)、IFRICおよびSICの他、概念フレームワーク、用語集などが日本語訳で収録されている。
・2011年11月17日 SECがIFRSを分析する2つのレポートを公表(Journal of Accountancyより)
SECのスタッフは、IFRSを採用する企業の財務報告実務の分析結果について報告したレポートと、U.S. GAAP(米国会計基準)とIFRSとを特定の領域において比較調査した結果について報告したレポートの2つを公表した。
1つ目のレポートである「実務におけるIFRSの分析(An analysis of IFRS in Practice)」は、IFRSに準拠して財務諸表を作成する183社(SEC登録企業と非登録企業を含む)の直近の年次連結財務諸表の分析結果を報告したものである。
分析結果についてスタッフは、「今後のアメリカの財務報告制度にIFRSを組み込むか否かについての意思決定に直接つながることを意図したものではない」としながらも、以下の2つの見解を示した。
1つ目の見解は、広範囲にサンプルとした財務諸表の透明性および明瞭性には向上の余地があるとしたことだ。これは、一部の企業はある領域において関連する会計方針の開示を提供していなかったり、また、多くの企業が会計方針の開示において、投資者の財務諸表の理解に資する十分に詳細な、または明瞭な開示を提供していなかったことによるとしている。さらに、幾つかのケースでは、開示により(または開示の欠如により)、企業の会計処理がIFRSに準拠したものであるかどうか疑問を生じさせているケースもあったとのことである。
2つ目の見解は、IFRSを適用する際に生じている多様性が、国や業種間の財務諸表の比較可能性に課題をもたらしているということだ。多様性が生じているのは、一部のケースではIFRSにおいて明示的に認められた選択肢の存在を原因として、また逆にある領域におけるIFRSのガイダンスの欠如が原因となっているとした。また、その他のケースでは、IFRSに準拠していないことから多様性が生じていたとした。さらには、自国のガイダンスおよび従来の実務を今後も使用し続けていくことは、国内での比較可能性を向上させるかもしれないが、グローバルレベルでの比較可能性は損なう可能性がある、との見解を示した。
2つ目のレポートである「U.S. GAAPとIFRSの比較(A Comparison of U.S. GAAP and IFRS)」は、現在進行中の基準設定に関する共同作業の対象となっているU.S. GAAPおよびそれと同等のIFRSを除いた領域において、両基準の比較分析結果を示すものとなっている。このレポートは情報提供目的で作成されており、特に分析結果を受けた結論や提案等は含まれていない。
・2011年12月5日 SECがIFRSの組み込みに関する決断を数カ月延期(Journal of Accountancyより)
アメリカの財務報告制度にIFRSを組み込むか否かについてのSECの決断は、当初2011年内に行われると見られていたが、少なくとも数カ月は先延ばしとなる見込みとなった。
SEC主任会計士James L. Kroeker氏は、最近のAICPA全国会議におけるスピーチの中で、SECスタッフにより公表される予定の米国の発行企業へのIFRSの組み込みに関する最終レポートは、2011年のできるだけ早い時期に公表を行うことを望んでいたが、「さらに数カ月」遅れるであろうと発言した。ただし、将来のIFRS組み込みに関しての展望については、有望であるとの見解を示した。
田島 聡志(たじま さとし)
仰星(ぎょうせい)監査法人
東京大学工学系研究科修士課程を修了後、東レ株式会社にエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。公認会計士試験合格後、東京北斗監査法人(現仰星監査法人)に入所。2005年より全米5位の会計事務所であるRSM McGladreyのマンハッタン事務所に出向後、2009年に帰国し現在に至る。現在は、国際会計基準への移行支援業務及び研修、所属する国際ネットワークへの対応業務、国際的な監査業務などに従事している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.