企業向けシステムを構築するパブリッククラウド【第10回】
NTT Comが満を持して世界に放つ超低価格クラウド「Cloudn」の正体
NTT Comが後発にして“本気”のパブリッククラウドサービスを提供開始した。月額上限945円という超低価格の背景には何があるのか。同社の戦略とともにサービス概要、メリット/デメリットを解説する。
本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」ではさまざまなパブリッククラウドについて解説してきたが、今回はNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の「Bizホスティング Cloudn」(クラウド・エヌ)(以下、Cloudn)を取り上げる。2012年6月27日、同サービスにおいて「日本データセンター」の開設が発表された(参考:プレスリリース)。日本のエンタープライズユーザーにとって一気に身近になった感があるので、同社への取材をベースにその特徴を概観してみたい。
同クラウドについては「くらうどん」というニックネームがあり、不勉強ながら筆者は「変わった名前だな」ぐらいしか記憶していなかった。食べ物を連想させる愛称と、クラウドとしては後発という状況とあいまって、いささか期待薄という先入観を抱いていた。だが、今回の取材を通して認識を新たにしたので、その事実を読者各位と共有していきたい。
NTTグループのクラウドサービス
NTTグループは、NTT(持株会社)の配下で、東西NTTをはじめ多数のIT系、通信系企業を擁するコングロマリットである。NTT Comは、その中でもインターネットサービスや法人向けソリューションを担う企業とされている。しかし、かねてよりグループ企業間での業務カバレッジの重複や内部競合が指摘されており、NTT Comにおいても業務分野で他社との重複は多少ある。
クラウドという観点では、同グループには下記のようなサービス・商品が存在している。ここでもサービスの間に明確な差異を見いだすことは平易ではない。そんな中で、唯一「セルフサービス型」の「パブリッククラウド」を掲げているのは、NTT ComのCloudnだけである。同クラウドが、NTTグループおよびNTT Comの中で、戦略的に非常に特異な存在であることが見てとれる。
| 商品 | 概要 |
|---|---|
| Cloudn | NTT Comが提供する、オンデマンドでセルフサービス型の低コストなIaaS |
| Bizホスティング | NTT Comが提供する、運用・監視などのアウトソーシングサービスを組み合わせたIaaS |
| Bizひかりクラウド | NTT東およびNTT西が提供する、ホスティングおよびハウジングサービス |
| BizXaaS | NTTデータが提供する、大型企業向けプラットフォーム |
| 表1 主なNTT系クラウドサービス(IaaS型)の比較(公開資料ベースで筆者作成) | |
本稿で取り上げるCloudnは、上記の中で最もシンプルなものである。ただ、シンプルではあるが、NTT(グループ)の従来のビジネススタイルとは一線を画したサービス設計となっており、同社の戦略性の高さと「本気度」がうかが える。極端な見方をすれば、NTT ComはCloudnによって、NTTグループの中で1つ突き抜けた存在になったと言ってもよいだろう。
Cloudnの概要
Cloudnは、2012年3月にリリースされたばかりのIaaS型のサービスである(参考:プレスリリース)。本稿執筆時点でまだ3カ月しか経過していない。米国のデータセンターを用い、「業界最安値」(※)を掲げてサービスインしている。なお、この時点で日本のデータセンター開設の「予定」がアナウンスされており、2012年6月27日の発表は、ほぼ予定通りのサービス展開ということになる。
(※)豊富なAPIを持つ日本国内向けのクラウドサービスにおいて(上記プレスリリースより)。
サービス内容は、基本的には仮想サーバ(インスタンス)の時間貸しおよびその周辺の付帯サービスである。インスタンスの種類は5つしかない。OSは4種類、追加のHDDは3つのサイズから選ぶ。シンプルというべきか簡素というべきか、大胆な割り切りではある。詳細は「Cloudn-料金」を参照されたい。
価格体系の特徴は、「月額上限」が設定されていることだ。時間単価課金で使い始めても、長期利用しているうちに自動的に割安になる仕組みと思えばよいだろう。事前の予約やデポジット(前金)は必要なく、予算も立てやすいといえる。各プランを1カ月だけ使うことを想定すると、インスタンス費用単体では、業界ドミナントたる外資系大手クラウドベンダーよりも数割安く見える。
もう1つの特徴は、時間単位課金が「1時間単位」課金ではなく、「1万分の1時間(0.0001)単位」での課金であることだ。例えば、1時間1.995円(起動中単価)のvQインスタンスを、12分だけ使えば、起動中の課金は1.995円×(12分÷60分)=0.399円になるそうである。
なお「HA機能」がデフォルトで具備されており、インスタンスの物理基盤に障害が発生した場合には、自動的に別の物理基盤へと移送(マイグレーション)され、障害発生直前の状態が保持される。この価格でこの機能を提供できるプレーヤーは、今後もそう多くはないのではないだろうか。
ネットワーク構成も、骨格は1パターンしかない。1アカウントごとにデフォルトで、ファイアウォール、ロードバランサ、グローバルIPアドレス、NATが各1つ付与され、これらを経由してインターネットに接続される。調達したインスタンスにはプライベートIPアドレスが付与され、NAT経由で外部と接続することになる。グローバルIPアドレスは有償で追加取得が可能だが、1アカウント内で複雑な構成を組む際には、ファイアウォールやNATの設定を工夫する必要がありそうだ。なお、ネットワークについては、データのin/out、流量にかかわらず無料だそうである。ヘビーなトラフィックが予想されるユーザーにはお得といえる。
利用の申し込みや、インスタンスの調達、各種設定は、全てWeb画面で行うことができる。支払いは現時点ではクレジットカードのみ。利用料は円建てなので、米国のデータセンターを利用しても為替の影響は受けない。また、日米どちらのデータセンターを使っても、価格に差はない。
サービス内容は、どちらかというと地味だ。日本向けサービスなのに米国でスタートさせたという点も不思議な気がする。低価格路線に徹しており、これで利益が出るのかどうか要らぬ心配をしてしまうほどだ。いったいCloudnにはどんな戦略があるのか? ぶしつけな質問に返ってきた答えを筆者なりに要約すると次の通りだ。
** 日本発のパブリッククラウドで、世界のデファクトスタンダードを狙う**
荒唐無稽な印象もあるが、どうも本気だという気がしてならない。その根拠の一部をご紹介しよう。
CloudStackを全面採用
IaaSの管理にオープンソース(OSS)のCloudStackを利用している。OSSなのでほとんど費用が掛からず、サービスの低価格化に影響している。また、活発なコミュニティーがあり、機能の充実と品質の安定化に大きく寄与しているようだ。既に業界標準とすらいわれ、インドのTATA Communicationsや韓国のKTが、それぞれパブリッククラウドの基盤として採用していると報じられている。Amazon EC2互換のAPIを含め、150以上のAPIがそろっており、運用の自動化なども実現しやすい。また、このOSSは企業ユーザーが自社内でプライベートクラウドを構築する際にも使えるので、パブリック/プライベートのクラウド間の運用連携が平易になるという期待もある。
通信キャリアとしての優位性
前述のインドや韓国でパブリッククラウドを展開しているのは、いずれもそれぞれの国で最大手の通信事業者である。ここに何らかのヒントがありそうだ。1つには、多数のデータセンターを保有しており、その運用に長けている点。もう1つは通信回線を外部調達する必要がないので限界的コストで提供できる点ではないかと推察される。どちらもIaaS系事業者にとっては必須の設備だが、低コストで維持できるという点は優位に働いているのだろう。
後発の優位性
市場においては「エンタープライズシステムをパブリッククラウドで実現する」という機運が高まってから参入してくるというタイミングの良さ、また、前述のCloudStackの品質がほどよく安定してから採用するという点で、先行者より“おいしい”立ち位置にいることは間違いなさそうだ。内部的には、先行しているBizホスティングが、基盤の調達、構築、運用などについてノウハウをためており、それを流用すればよいというポジションも幸いしていると推察される。初期投資を抑制することで、サービス価格自体も抑えることができていることは間違いない。
NTTグループの優位性
販売面に視点を移すと、ここにもCloudnの優位性が現れる。まずは国内ユーザーにおいては不動の安心感を持つ企業ブランドである。セキュリティや事業継続性において、他のクラウドが決して劣っているわけではないのだが、NTTの3文字が与えるイメージは圧倒的だ。次に営業チャネルが幅広い点が挙げられる。NTTグループの仕事をしているITパートナーは多数いるので、Cloudnのような分かりやすくて安価なサービスには商機も多いだろう。また、前にも述べたが「セルフサービス型のパブリッククラウド」は、NTTグループの中でもCloudnだけなので、グループ内の他社からの利用も少なくないそうである。
技術面にはNTTグループ内に「NTT OSSセンタ」を擁している点は特筆される。OSSの研究や機能強化を担う組織があることで、OSSを大胆に活用することが可能になっていると推察される。
PaaSもOSSで
同社のプレスリリースによると、CloudCloudn上で動作するアプリケーション環境として、Cloud Foundryの採用を表明している。CloudStackと同じく業界標準と認知されつつあるOSSのPaaS(Platform as a Service)基盤ソフトウェアだ。低価格路線を維持しながらPaaS提供するという妙手が実現できるだろう。
そして世界へ
日本向けサービスなのに、なぜ米国データセンターからサービスインしたのだろう。やや不可解だったのでこの点を尋ねてみた。説明によれば、特に理由はなく、「たまたま米国で一番にデータセンターが完成した」ということのようだ。筆者のような凡人は、日本で橋頭堡を築いてから海外へ事業拡大というストーリーを描いてしまうが、Cloudnは最初から国際展開を見据えた事業計画であったことがうかがえる。あらためて見返すと同社は「グローバルクラウドビジョン」を策定している(2011年11月)。キーワードは「SEAMLESS CLOUD FOR THE WORLD」だ。今後もアジア市場への展開などが期待されよう。
いかがだろうか? 以上を勘案すると、筆者の中では先の要約が真実味を帯びてくるのだ。今後同サービスがどのような発展を遂げるか、注視していきたい。
課題と今後の発展
最後に、Cloudnの課題を挙げてみたい。主要な点は以下の通りである。
VPN接続
業務システムで利用する際には、IP-VPN接続かインターネットVPN接続を使いたいところだが、現時点ではいずれも用意されていない。しかし、通信事業者にオリジンがある同社のことである、すぐに平易に実現してしまうことだろう。2012年6月27日のプレスリリースにもそれとうかがえる記述があった。
クラウドストレージ
現段階ではサービス提供されていない。しかし、リリース当初より「2012年10月にオブジェクトベースのストレージ機能を追加する予定」であることを明らかにしている。CloudStackの基本機能に含まれていることもあり、予定通りにリリースされると想像される。
データセンター冗長化
米国内も、日本国内も、データセンターはそれぞれ1カ所だそうである。例えば大型災害などを想定したデータセンターレベルの冗長構成を、日本国内だけで構成することは難しい。このあたりも豊富な資産を生かしてすぐに拡張されるのではないだろうか。
その他の機能
現時点で提供されている機能は非常に限定されており、例えば、AWSと比較すると圧倒的に少ない。エンタープライズシステムで本格利用する上では、監視やプロビジョニング、データベース関連機能やメッセージングなどは、ぜひとも具備してほしいところだ。いずれもロードマップ(今後の開発計画)には記載されているようであるが、早期のリリースが望まれよう。
以上、Cloudnの現状と今後について概観した。参考にしていただければ幸いである。なお、本稿は2012年6月27日のプレスリリースの内容(新機能の予定含む)を網羅したものではないので、詳細は同発表を参照されたい。また、取材や資料調査には最大限の注意を払っているが、本稿の内容に事実と異なる点があれば筆者の責によるものであることをあらかじめお断りしておく。
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