『アバター』大ヒットははるか昔 3Dテレビに未来はあるか?:価格とコンテンツが普及のネックに
数年前には急速に普及すると予測されていた3Dテレビ。しかし実際はそうならなかった。何がいけなかったのか。価格やコンテンツ、視聴体験からその理由を説明する。
3Dテレビは「次の大物」とみられていた。2010年の米家電見本市、Consumer Electronics Show(CES)までに、ソニー、パナソニック、韓国のSamsungやLGなど、ほとんど全てのメジャーブランドが、ホームシアターやエンターテイメントの次の大きなシフトになると期待し、3Dテレビに取り組み始めた。そのちょうど1年前の2009年に公開されたジェームズ・キャメロン監督の『アバター』が記録的成功を収めた後、3Dブームに飛び乗る以外の選択肢はなかったのだ。それが未来だった。3Dで間違いないはずだった。
だが、現実はそうならなかった。その後数年が足早に過ぎ、今や3D技術はほとんどの視聴者の心理にとって、付け足しでしかなかった(参考記事:期待のデバイスの明暗を分けたもの──なぜ3Dが失敗しタッチは成功するのか)。事実、米調査会社NPDの最近の調査によると、3Dを「絶対必要な機能」とする意見は、テレビ購買意向を示す回答者のわずか14%にとどまり、68%の人々は「あっても悪くない、将来利用するかもしれない機能」程度にしか見ていないことが分かった。また、ここ数年3Dテレビの売り上げは伸びているが、他のリポートなどを見ると、3Dは中高級テレビにデフォルトで装備される機能の1つにすぎず、多くの消費者には3Dテレビを購入したという意識が最初からないという。
では、何がいけなかったのか?
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幾つかのことが考えられる。まず、製造コストが高止まり、結果として販売価格が平均的な消費者の手の届かないところにあったことが挙げられるだろう。ほとんどのメーカーで、普通の2D LEDテレビと、3Dテレビとの間に少なからぬ価格差がある。その差はLGやソニーで30%、Samsungや東芝では60%にもなる。そのため、典型的な高品質3Dテレビの価格はいまだ1300ドルから1400ドルの価格帯にとどまっている。
プラズマ3Dテレビは、このところ価格的には妥当な線に落ち着き、LGの「42PM4700」モデルなど42インチ製品は現在600ドル以下になった。が、それらは解像度が低い1024×768パネルのローエンドモデルだ。3Dがまだ十分アピールする技術系マニアのニッチ市場では、そうした製品は受け入れられない。新しモノ好きの購買層も、いまだ離陸できない機能に余計なコストを支払う価値を見いださないだろう。Samsungも3D LEDテレビ市場に足を踏み入れたが、同社のモデルはいずれも数百ドル以上価格が高い。
さらに忘れてならないのは3Dの鑑賞体験、つまり“ビューイングエクスペリエンス”に欠かせない、やっかいなメガネだ。パッシブ3D方式のテレビ用のメガネは15ドル程度だが、アクティブ3D方式になると25ドルから高いもので100ドル以上になる。メガネのいらない東芝の「55RZ1」のような製品も存在するが、それらはとんでもなく高価(1万ドル以上)だ。主力製品分野でメガネに依存する必要がなくなるまでには、まだ数年はかかるだろう。
この問題は、3Dテレビのもう1つの災い、すなわちコンテンツ不足につながる。Blu-ray 3Dタイトルの総数は、2012年までに米国で300本に達する見込みで、その中には超大作の『The Amazing Spider-Man』(邦題:アメイジング・スパイダーマン)や映画賞受賞作品『Hugo』(邦題:ヒューゴの不思議な発明)、各種ドキュメンタリー作品が含まれる。それはそれで悪くないし、今後、新作もどんどん3D化されるだろう。だが、既に出回っている数千タイトルの2D Blu-ray(およびDVD)作品群と比べれば、はるかに見劣りすると言わざるを得ない。
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