ユーザー企業3社座談会 ITインフラはどこまで外に出せるか?:ITインフラは持つべきか/持たざるべきか【後編】
ユーザー企業の情報システム部門/情報システム子会社で働く読者を集めた座談会リポート。後編では、アウトソースの活用状況、パブリッククラウドへの意向について話を聞いた。
座談会リポートの後編。参加者の詳しい紹介や仮想化状況は前編「ユーザー企業3社座談会 仮想化導入はどれくらい進んでいる?」を参照してほしい。
メンバー
参加者(50音順)
坪井哲也 アジア航測株式会社 経営管理本部 経営情報部 部長
望月敏行 アストマックス株式会社 情報システム室 室長
森 章 金融系企業の情報システム子会社 情報システム部門職員
モデレーター
浅井英二 アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブプロデューサー
アウトソース活用状況
――前半ではサーバサイド、クライアントサイドの両面から仮想化のお話を伺いました。今後、システムを進化させていくに当たって、アウトソースという選択肢もあると思います。いろいろな形態がある中で、皆さんの状況をお聞かせください。
坪井 アウトソースは積極的に活用したいです。今はネットワークの運用管理などをメインに外部委託しています。アウトソースか内製かの切り分けは、一般的な要件の他に、まず、経営側が費用対効果の観点で、固定費にしたいか変動費にしたいかが大事です。次に情報システム部門の立場では、データの地理的位置が重要です。弊社の場合、データが数Pバイトありますので、ネットワーク回線の太さや距離が業務に大きな影響を及ぼします。そのため、多くのデータは社屋内のサーバルームで運用管理しています。
他には、新しい技術や24時間対応が必要なミッションクリティカル系のシステムにも積極的にアウトソースを活用しています。
――その理由は?
坪井 コストですね。社内で持つとレアなものほど高くなりますから。
――むしろ、社外の方が信頼できるという感覚はありますか?
坪井 誤解を恐れずに言えば、新しい技術に関しては外部の専門業者の方が信頼できます。しかし、ずっと指をくわえて見ているわけではなく、外部に構築してもらったシステムを使いながらも少しずつ社内に技術を取り込んでいきます。
――足りないもので外部を使うというのは、ある意味ユーザー企業のあるべき姿ですよね。
坪井 そうですね。枯れた技術を内部に取り込んでいきます。
例えば、弊社はエントリーレベルのファイルサーバの導入が多く、初めのころは外注していました。ですが、慣れてきたら自社でも導入できると分かり、今は社内で全て行っています。ファイルサーバは100Tバイト単位で導入します。素で買えば数百万円です。それを外部委託して組んでもらうと1000万円程度になります。組み立てや配置、配線、OSや必要なソフトのインストール、各種設定などを行う導入作業を自分たちで行えば、相当なコストを抑えられます。
――望月さんの会社はアウトソースについていかがですか。
望月 弊社では外部に漏れると自社の不利益となるシステムはなるべく社内で開発し、一般的なシステム(バックシステム)などはアウトソースするなど、案件ごとに使い分けています。
付き合いのあるベンダーは5〜6社います。情報システム部門内に開発ができる人は3人程度しかいないため、大きなシステムを作るときにはそうした付き合いのあるベンダーに常駐という形で依頼します。丸投げはしません。
――サーバそのものはデータセンターに置いていますか?
坪井 社内にサーバルームがあります。しかしながら、24時間障害対応、電源容量、停電対策などを考慮すると、外部のデータセンターを活用したいと考えています。
その際、選択肢はハウジングサービスだけでなく、クラウドコンピューティング(以下、クラウド)やホスティングサービスも含みます。最近では、データセンター事業者が所有しているサーバを買い上げてくれ、保守費用を載せてホスティングサービスを提供するというサービスもあります。それも有りだと思っています。
――望月さんの環境としては、サーバのロケーションも社内にあり、開発も内製と、完全に所有型。だが、今後を考えるとデータセンター利用も検討している。そのときにハードウェアを持つか/持たないかで悩んでいるということでしょうか。オンプレミスとクラウドの真ん中に財務的には所有しなくてもいい、だけれども割とプライベートで使えるサービスがあり、そういったものを検討しているということですよね。
望月 自身としては、減価償却などの資産管理の手間を考慮すると、サービスとしてハードウェアを利用する方が効率的かと考えています。
――森さんの会社はグループ/関連会社にシステムを委託する立場でもあり、委託される立場でもあると思いますが、アウトソースについてはいかがですか。
われわれとしては、24時間の死活監視とトラブル時の対応、一次切り分けまで外部に委託しています。トラブルの際には連絡がきたら状況判断をして、対処方法を伝えます。幸い、長時間システムを停止するといった事態は今までなかったので、委託先は優れた仕事をしてくれていると思います。
――森さんのところはそういう意味では、グループ/関連会社のお客さまに対して自分たちが専門の会社としてITサービスを提供しているわけですね。
森 そうですね。今後は、グループ内でプライベートクラウドを提供する方向になると思います。
――そのときに気を付けていることはありますか? グループ/関連会社に対して「うちを使うと安くなりますよ」という甘い言葉は効きます?
森 もちろん値段は重要ですが、一番大事なのはセキュリティ面の担保です。われわれ金融は個人情報を多く持っているため、データの保全は会社の信用に非常にかかわります。何よりもセキュリティだけは譲れません。
パブリッククラウドへの意向
――パブリッククラウドを使うことで、スケールメリットも出るでしょうし、財務上のメリットもあるでしょう。パブリッククラウドの良いところを享受しようとしたときに、どのような条件が整えばクラウドに踏み切れるのでしょうか。例えばAmazon Web Services(AWS)のように、数多くの第三者認証を取得し、データセンターの住所などを明かさない上に、入館には最新式の侵入者検知システムで厳密な審査を要するなど、厳しいセキュリティポリシーを掲げるパブリッククラウドサービスもあります。
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