iOS/Android版Officeは編集不可? Microsoftの狙いは:ライバル追随のための時間稼ぎか
2013年春に提供される見通しのiOS/Android版Microsoft Officeは、単体ではファイルの作成や編集ができないという。背景には、ライバル打倒を目指す米Microsoftの意向がある。
「Microsoft Office」のiOS版とAndroid版が2013年春に登場する見通しだが、その全ての機能を利用するには相当の出費を覚悟しなければならない――。こうしたニュースに、一部の専門家は当惑を示している。
米Microsoftの計画に詳しい情報筋によれば、OfficeのiOS版とAndroid版は無償で提供されるが、これらのバージョンは「Microsoft Word」「同Excel」「同PowerPoint」のドキュメント閲覧のみが可能で、編集はできない。このバージョンの利用には、Microsoftアカウント(旧Windows Live ID)の登録が必要であり、コンテンツを編集したり作成するには、さらに「Microsoft Office 365」のサブスクリプションを購入する必要があるという。
エンタープライズモバイルコンサルティング会社である米Paladorのベンジャミン・ロビンス社長は、このアプローチには問題があると指摘する。なぜなら、「QuickOffice Pro HD」「Pages」など、Microsoft Officeのドキュメントを編集できるフル機能のモバイルアプリケーションは、既に数多く存在しているからだ(参考:iPadやAndroid 3.0タブレットで利用できるクラウド版のオフィススイートが登場)。
「Microsoftは、総じてモバイル分野で出遅れている。これがその証拠だ」とロビンス氏は語る。
QuickOffice Pro HDは、米AppleのApp Storeで19ドル99セントで販売され、Pagesは9ドル99セントで販売されている。Office 365のサブスクリプション料金は、1ユーザー当たり月額6ドルから。「私物端末を業務で利用しているユーザーにとっては、こうした一度限りの出費の方が、Office 365に毎月6ドルを支払うよりもはるかに理にかなっている」と、ロビンス氏は指摘する。
誰が購入するのか?
一方で、Microsoftの戦略は、コンシューマーや私物端末の業務利用(BYOD)の実践者というよりも、Microsoftのエコシステムにどっぷり漬かり、いまだモバイル化を果たせずにいる企業に向けたものだと主張する人もいる。「Microsoft Officeライクな競合アプリケーションには、品質面で本物の水準に達しているものは1つもない」と、米調査会社Altimeter Groupのアナリストであるクリス・シルバ氏は指摘する。
「Microsoft Office 365のサブスクリプションを購入すると、Microsoft OfficeのiOS版とAndroid版を活用することができると分かれば、Office 2013の使用を考えている企業は、代わりにOffice 365を検討するようになるかもしれない」(シルバ氏)。少なくとも、こうした企業は、リモートワーカーやモバイルワーカー向けにはOffice 365のサブスクリプションを購入しようと考えるのではないだろうか。
「企業にとっては、Microsoftのような信頼できる企業に月額6ドルを支払い、クライアントPCとモバイル端末で、同じユーザーエクスペリエンスと同じドキュメントアウトプットが提供されることが保証される方がはるかに好ましい」とシルバ氏は続ける。
全ての道はOffice 365に通じる
Microsoftは「自社のソフトウェアとサービスを複数のモバイルプラットフォーム向けに販売しながら、一方では、自社のプラットフォームの採用促進を図る」という難しい立場に置かれている。Microsoft Officeは大方から、Microsoftにとって最大の差別化要因とみられているソフトウェアだ。
「こうしたモバイル端末でのMicrosoft Officeドキュメントの再現性は、他の選択肢を吹き飛ばすほど高い水準に達するのだろうか? 今はまだ誰もこの質問には答えられない」と、世界的な製薬会社である仏Sanofiのモバイルエンジニアリング担当ディレクター、ブライアン・カッツ氏は疑問を投げ掛ける。
Microsoft OfficeのiOS版は既に完成しているが、来春まではリリースされない。Android版はまだ開発中であり、2013年の晩春から初夏にかけてのいずれかの時点でリリースされる見通しだ。Windows Phone搭載スマートフォンとWindowsタブレットでは、既にMicrosoft Officeが提供されている。
Microsoftの計画に詳しい情報筋によると、同社の狙いは「足掛かりを得るための多少の時間的猶予を自社のプラットフォームに与えること」にあるという。
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