ソーシャルメディアを活用する異色のドイツ銀行:顧客の話を聞く唯一の銀行
ソーシャルメディアとWeb 2.0を基盤に運営されているドイツの銀行の事例から、旧態依然とした金融サービス業界への教訓を読み解く。
ソーシャルメディアを使って銀行を設立した起業家グループがいる。この銀行は、ソーシャルメディアを使うことで従来の銀行業務の経費と複雑さを克服し、オンラインコミュニティーを活用して顧客から高い信頼を得ている。
Fidor Bankと呼ばれるこのドイツの銀行は、Web 2.0とソーシャルメディアが人々の社会生活を変えていく様子を見て、リテールバンキングも変わることになると達観した起業家グループの手になる銀行だ。
注:本記事は、プレミアムコンテンツ「Computer Weekly日本語版 2013年5月15日号」(PDF:無償ダウンロード提供中)に掲載されている記事の抄訳版です。
この起業家のうちの1人が同行CEOのマチアス・クローナー氏である。クローナー氏は仲間と共に、ソーシャルメディアを顧客獲得とサービス提供の仕組みに使うオンライン専用の銀行を設立した。最近ロンドンで開催されたFinancial Services Club(訳注)のイベントで、同氏はFidor Bank のストーリーを紹介した。
訳注:「Financial Services Clubは、欧州金融サービス業界のシニアエグゼクティブのための、No. 1ネットワーキンググループ」(http://www.fsclub.net/より)
2007年にクローナー氏は仲間と共に、ドイツの連邦金融監督庁(BaFin)にドイツの銀行免許を申請した。その後ほどなく、Fidor Bankが誕生した。
クローナー氏はこのFinancial Services Clubのイベントの聴衆に向かい、「われわれはソーシャルメディアとWeb 2.0を調べ、それが人々の生活を変えていること、そして人々の生活を変えることで、リテールバンキングも変えていくだろうと考えた」と話している。2008年に予期しない金融危機が発生したことで、Fidor Bankにはまたとないチャンスが巡ってきた。同行設立のタイミングは、Web 2.0テクノロジーの勢いとソーシャルメディアの登場を受けて決まった面が強いが、偶然にも、消費者が銀行を変えることを考えやすい時期と重なった。
「Fidor Bankは、銀行に対する信頼が失墜したときに誕生した。われわれは、『今やらなければ、いつするのか?』と考えたのだ。Web 2.0のおかげで新しい銀行を設立する機会に恵まれ、金融危機とそれに関わる銀行の態度から、新しい銀行を創る必要があると判断した」とクローナー氏は話す。
変わりゆく時代の中の、異色の銀行
Fidor Bankは異色だ。例えば、同社Webサイトに、銀行業界に抗議するNYの金融街占拠デモの写真を掲載したこともあった。
Web 2.0とソーシャルメディアを基盤とするFidor Bankは、3つのエンゲージメント(サービス提供)モデルを基本の柱としている。まず、コミュニティーを通じてお金について相談したり経験を共有することが1つ。Fidorの決済サービスを使用できる機会をこのコミュニティーのメンバーに提供することが2つ目。3つ目は、当座預金、ローン、普通預金などのサービスを総合的に利用できるリテールバンキング口座を提供することである。
現在、コミュニティーの約70%が決済サービスを利用し、約30%がFidorに銀行口座を開設している。
Fidorは消費者重視の銀行というだけではない。独自のコアバンキングソフトウェアも開発しており、サードパーティーのサプライヤーはこのソフトウェアにアプリケーションを統合することもできる。また、自社のテクノロジーをホワイトラベルサービスとして企業に提供してもいる。例えば、最近Fidorは、ドイツの企業とグローバル決済サービスを構築する大きな契約を結んだ。
Fidorには現在、20万人の登録ユーザーと15万人のコミュニティーメンバーがいる。預金高は1億6千万ユーロ相当で、総融資高は約1億ユーロである。
わずか34人のスタッフだけで、支店も持たず、全ての銀行サービスが付いた総合口座の開設コストも一顧客当たりわずか3.5ユーロ。従来の銀行に比べて経費は掛からない。しかし、従来の銀行とは対照的に、顧客からの信頼は高い。コスト削減と信頼向上という、現在ほとんどの銀行が抱えている課題をFidorは解決している。
Fidorには営業スタッフはおらず、完全にコミュニティーからのリコメンデーションに頼っている。「これはクラウドソーシングだ。顧客にFidor Bankのことを話してもらっている。生活の各方面の経験を共有している」とクローナー氏は話す。
全く新しい「顧客の声に耳を傾ける」銀行
銀行に対する悪いイメージを逆手に取り、Fidorでは顧客の声を吸い上げることを大きな強みにしている。これは、メンバー同士がサポートし合う、Fidorのオンラインコミュニティーを通じて実現されている。
続きはComputer Weekly日本語版 2013年5月15日号にて
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