職員にITのオーナーシップを譲渡する相互会社化は事業効率を向上させるか?:新サービスの実現とリスク
英国では公共部門における相互会社化が加速している。これは、利用者でも提供者でもある行政機関のITの在り方をも変えられるのだろうか?
英国では、公共事業運営の新しいモデルとして相互会社を推奨する動きがある。オーナーシップが職員に移譲されることで事業の効率向上が期待されているが、この動きは、サービスの利用者として、また提供者として、行政機関のITの在り方を変える布石にもなるのだろうか?
相互会社では従業員自らが出資者となるため、事業運営コストを下げ、能率を上げる方法を工夫しようとする意識が高くなる。これは160億ポンドという公共部門の年間IT関連費を削減できるメカニズムになる可能性がある。
注:本記事は、プレミアムコンテンツ「Computer Weekly日本語版 2013年5月29日号」(PDF:無償ダウンロード提供中)に掲載されている記事の抄訳版です。EPUB版およびKindle版も提供中です。
相互会社は合弁事業の一種であり、相互会社化を実施する組織とは別の団体が投資目的で出資し、それまで相互会社化の対象になる部門で働いてきた職員が運営者となる事業体であると説明されている。例えば、英国の年金サービスであるMyCSPは、福利厚生代行会社の英Xafinityの出資を受けて、2012年に相互会社化された。
相互会社化の動きは、2011年に予算1000万ポンドの相互会社支援プログラムが開設されて以来、勢いを増しているようだ。これまでこのプログラムを通じて21件の契約が締結され、2013年3月までに公共事業全体で66の相互会社が誕生している。
フランシス・モード内閣府担当国務相は、このモデルの熱心な推進者として知られている。
2011年にモード国務相が手掛けた「公務員制度改革計画」には、「これまでは、画一的に政府のみで設立・運営するか、完全に民営化するかという二者択一でしかなかったが、今では合弁事業や従業員所有の相互会社、民間部門との新しいパートナーシップ締結など、さまざまなサービス提供形態が利用されるようになった」と記載されている。
英内閣府で相互会社/民営モデルプログラムの総責任者を務めるラニア・レオンタリディ氏によると、警察と軍を除いて、相互会社に転換できない政府機関はほとんどないという。
現在、相互会社の大半は、地方レベルで運営されている。事業内容は医療保健サービスが中心で、5人の組織から1500人規模の組織まである。
「相互会社化は医療保健サービスが中心だったが、子ども事業、青少年事業、教育機関支援、消防隊にまで広がっている」(レオンタリディ氏)
レオンタリディ氏によると、相互会社モデルでは、小回りの利く中堅・中小企業からの調達を行いやすいため、柔軟性が高くなるという。
「これは中堅・中小企業のIT企業にとって、大きなチャンスになる可能性がある。利用者と患者の満足度は非常に高く、患者の満足度は85%にもなっている」
レオンタリディ氏の話では、関心は高まっており、100を超える地方自治体から問い合わせがあるという。「また、このプログラムのサイトの新規訪問者数は、毎週2000を超えている」とのことだ。
ITの選択肢が拡大
中央エセックス社会事業団は、2011年に相互会社化された。コマーシャルディレクターのポール・フーパー氏は、相互会社モデルのおかげで、iPadを導入して遠隔で言語療法サービスを提供する計画など、以前よりも格段に自由にITプロジェクトを試せるようになったと話す。
フーパー氏によると、iPadの方が操作しやすくすぐに起動できるため、Skypeよりも導入効果が高かったという。
資金が使いやすくなり、アイデアがあれば実際に試せるようになった。「そこが、大きな官僚組織の中にいる場合と違う」とフーパー氏は言う。
この遠隔言語療法計画では、患者の自宅にiPadを用意し、遠隔で言語治療を受ける。この取り組みにより患者の時間が節約される。また、療法士が患者を訪問するための時間も少なくなるため、事業経費の削減も期待されている。
フーパー氏によると、「パーキンソン病の場合、4週間にわたり16回の治療が必要になるが、負担が大きすぎて患者はこの治療を受けない場合がある」という。
中央エセックス社会事業団では、51の事業全てにiPadを導入することを考えている。
「現時点では5台のiPadを導入しているが、他にも導入を検討できるサービスがあるだろう。言語療法だけでなく、自宅で受けることができる子ども向けのサービスなどだ」(フーパー氏)
新しいサービス提供モデル
アナリスト企業の英Nelson Hallで、公共部門アウトソーシングリサーチプログラムの責任者であるサラ・バーネット氏は、相互会社なら小規模で柔軟にテクノロジーを導入できるという実務的なメリットがあると話す。例えば、クラウドサービスを広範に取り入れることもできるだろう。
「相互会社化に伴い、IT機能の“未開墾地域”が発生する。これはアドバンテージになり得る。新しいITモデルを利用できるチャンスがあり、特に主要なビジネスアプリケーションでのクラウド利用が促進される可能性がある」(バーネット氏)
共有サービスなどは、さまざまな組織のスタッフが関与する相互会社モデルと相性が良いようだ。
バーネット氏は、「共有サービスに移行するタイミングは、レガシーのアップグレードまたは変更が必要になり、事業独立と同時にアップグレードまたは変更を実施できるときが最適だ」と話す。
しかし、相互会社モデルにもリスクはある
続きはComputer Weekly日本語版 2013年5月29日号にて
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