“むちゃ振り上司”にこういわれたら【第6回】
「海外子会社を設立することになったのだけど」といわれたら
事業展開に伴い海外子会社を設立する企業が増えている。その際、財務経理部門は何に気を付ける必要があるのか。親会社側と子会社側の対応ポイントを解説する。
企業グループの拡大や再編に伴って海外での子会社展開が積極的に行われるようになってきた。上司から海外子会社の設立について相談を持ちかけられることもあるだろう。海外子会社を設立、運営するためにやるべきことは多岐にわたる。財務経理部門の視点からはどのような点に注意して子会社を設立、運営していくべきなのだろうか?
グループ子会社が増えるということ
日本国外に拠点を置く子会社(海外子会社)設立の理由は以下のようにさまざまだ。
- 他の会社との提携
- 販売や製造など特定機能への特化
- グローバル展開の拠点として戦略的に設立
いずれのケースでも綿密に準備を進めて設立することもあれば、親会社の決定で急に話が進展することもある。
子会社の設立にはさまざまな準備作業が必要だ。現地法令に基づく手続き、現地での従業員の採用、業務拠点の準備、IT環境の整備などがある。限られたリソースの中で親会社が求める機能を早く実現するため急ピッチで作業は進むが、そんな中でも財務経理機能の配置と業務の整備は急務となる。海外子会社の財務経理担当者は現地採用の従業員1、2人程度という状況が多く、言葉の壁も含めて親会社とのコミュニケーションに高いハードルができる傾向がある。
親会社の財務経理部門が海外子会社に求めることとしては、以下が挙げられる。
- 連結決算スケジュールに対応した短納期での個別決算
- 連結決算に必要な数値情報や非数値情報の提供
グループ会社マネジメントのポイント
グループ会社の効率的なマネジメントを行ううえで、親会社が意識しておくことは何だろうか? 企業グループの構成によってマネジメントスタイルは大きく変わる。
親会社集中型
親会社を中心に企業文化や風土が共通している企業グループ。上意下達がグループ内で浸透しやすく、意思決定の伝達もスムーズ。
連邦型
親会社と各子会社が異なる企業文化や風土を個々に持っており、緩い連携で企業グループが構成される。
外資系の企業グループでは親会社集中型、日本企業では連邦型のスタイルが多く見受けられるが、その企業グループの発祥の経緯やコーポレートカラーによってスタイルは異なる。
親会社集中型であれば、比較的スムーズに親会社の考え方をグループに浸透させることができる。財務経理の観点で重要なのは「グループ会計ポリシー」。つまり企業グループ全体で共通的に使用する会計ポリシーを明確にしておくことだ。新たに設立された海外子会社についても、グループ全体で共通に利用する会計ポリシーを原則として適用していく。
連邦型では、個々の子会社のカルチャーを無視して強引に親会社の方針を伝えても、十分に周知されず、結果として業務処理に停滞を及ぼす懸念がある。重要なのは「親会社と共有すべき情報は何か」「グループ全体としてどこまで情報共有が必要なのか」を明確にし、グループ各社の独立性を必要以上に損なわないよう配慮することだ。ポイントになるのは、「グループでの開示に必要な情報は何か」という観点から子会社に指示をすることといえる。
グループ会社増加に対応するITシステム
ITの観点からも海外子会社への対応作業は多い。代表的なものは以下の通りである。
- グループ統一のIT基盤の確立
- IT基盤上での親会社と子会社のコミュニケーション環境の整備
- 財務報告プロセスにおける連結パッケージ(連結財務諸表の作成に必要な基礎資料)提出と確認業務の確立
- 内部統制整備(グループ各社としての対応)
連結決算をスムーズに進めるためには、連結パッケージの提出に当たりIT基盤を共通化して決算データの変換工数が発生しないよう工夫しておきたい。決算データの形式が異なると、変換とその検証に余分な時間を要し、不具合が出たときの対応も想定する必要が出てくる。
決算データの収集に伴う親会社と子会社のコミュニケーションを効果的に取ることができる環境作りも重要だ。従来の電話やメールのやりとりに加え、グループウェアなどを活用して過去のコミュニケーション記録をノウハウとして生かす工夫を検討しよう。
内部統制対応については、グループ全体において内部統制評価を1年に1回行う必要がある。特に大きなシステム変更が行われた際には、IT全般統制の再評価を検討する必要もある。会計年度末間際での再評価を回避できるよう、子会社の設立タイミングやIT基盤の整備タイミングをうまく調整したいところだ。
ITシステムの整備では、全社のIT基盤を統一するのが唯一の解ではない。全社統一のERPパッケージを導入すれば全てが解決するわけではないのだ。ただ、一方でグループ各社が思い思いのシステム導入を行っていてはグループマネジメントのスピードが低下するのも事実。ここで必要なのは「データの統合」であり、その手段として「システムの統合」があることを意識する必要がある。
IFRSのトレンドとグループ会社マネジメントの考え方
IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)との関連でも海外子会社の位置付けは重要だ。IFRSでは基本的に、「経済的単一体説」という考え方の下、企業グループを1つのマネジメント単位や、投資家への開示単位として考える(参考:避けては通れない「ビジネス結合」の基準と業務処理)。
この経済的単一体説を前提とすると、企業グループは1つの経済的活動単位であり、その配下にある企業群(子会社を含む)は原則として同一の前提を共有するものとして位置付けられる。例えば
- 決算日は原則として統一
- 会計ポリシーは原則として統一
といったように、グループ内では共通した会計ルールを採用して、処理方法に違いがないようにしておく必要がある。
海外子会社も例外ではなく、その子会社は法的な実体(エンティティ)の1つにとどまらず、企業グループの一部としての位置付けを明確にし、財務経理機能も親会社と共通の環境で実装していく必要がある。
原 幹(はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
大手監査法人にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計/IT領域の豊富な経験を生かしたコンサルティングに多数従事する。
著書に「図解IFRSのきほんがわかる本」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
“むちゃ振り上司”にこういわれたら
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」攻略ガイド:効率的に落札するためのポイントを徹底解説 -
製品資料
[株式会社うるる] 入札情報に特化した「販路拡大」「効率化」のためのサポートツールとは? -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] 公共入札に成功する企業と失敗する企業の「5つの違い」 -
製品資料
[日本ビジネスシステムズ株式会社] 専門家が教える、Microsoft 365の「テナント統合/分離」を成功に導く秘訣 -
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
3
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
4
“アジャイルの壁”に挑むオリックス生命がIBMの開発管理ツールを選んだ理由
-
5
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
6
「テザリング依存」に潜む落とし穴 “遅いVPN”を解消するネット構築術
-
7
ライオンが挑む「守りのIT」脱却:Google Cloudで加速させるデータ駆動型経営
-
8
IT製品の導入に関するアンケート「セキュリティ」編
-
9
「Microsoft 365」が乗っ取られる MFAを破る“本物の画面”の恐怖
-
10
Claude利用8割のGMO、AI人材の評価軸が「トークン管理」に変わった
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
-
10
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー