ゲームから仮想心臓モデリングまで、広がる「仮想現実の医療利用」:医療ツールとしての仮想現実(第3回)
仮想現実(VR)は今、医療現場に導入されてさまざまな治療に成果を挙げている。VRの可能性、そして課題とは何だろうか。
第2回では、仮想現実(VR)を治療に応用するさまざまな取り組みを紹介した。今回はまた異なる取り組みを紹介する(第1回は7月19日号、第2回は8月2日号に収録)。
恐怖症への取り組み
患者があるものに対する恐怖症を持っていると別の疾患の治療に影響が及ぶため、その事態の改善にVRを活用している組織も存在する。米国オハイオ州コロンバス市にある小児科専門病院Nationwide Children’s Hospitalは、2年かけて「Voxel Bay」というゲームを開発した。これは、血友病に苦しむ子どもたちが先端恐怖症に対処するのを支援するために設計されている。血友病の治療には定期的な注射がどうしても必要であることを考えると、先端恐怖症は治療に大きく影響する。
同病院でユーザー体験関連テクノロジー研究開発部門の責任者を務めるジェレミー・パターソン氏によると、患者である子どもたちはもちろん、子どもたちが困難に直面していると悪影響を受ける家族や医療従事者にも対応する支援策として、幾つかのアイデアを検討した結果、VRが最良の選択肢として浮上したという。
「ゲームやアクティビティーで、別の現実に自分を置くことができるのは、最高の気晴らしになる」と同氏は付け加える。同病院はこのゲームの臨床試験を開始した。その研究結果はまだ公開されていないが、「収集したデータからは非常に有望な結果が予想される」という。
Voxel Bayは船乗りの冒険ゲームだ。プレイヤーはさまざまな場所へ航海し、行く先々で簡単なミニゲームをプレイする。ミニゲームの例としては、水中を泳ぐ間にさまざまな生き物を探すといったものが挙げられる。オハイオ州立大学の芸術およびデザイン向け先進コンピューティングセンターでゲームを研究する大学院生のインターンとして同病院に勤務しているジョン・ルーナ氏は、「われわれは船乗りの冒険のデザインを開始した。このゲームで、プレイヤーはある島から別の島へと航海する間に、頭の動きや息を使って木の精霊を捕まえ、海賊から逃れ、カニを打ち上げてカモメに食べさせるなど、楽しいアクティビティーをいろいろと体験していく」と話す。
ブロック玩具でMinecraftをプレイする感覚
VRゲームのグラフィックは、パターソン氏の表現を借りると「ブロック玩具で『Minecraft』をプレイしている感じ」だという。これは開発プラットフォーム「Unity」を利用した人が多く語る感想で、基本的なハードウェアでも問題なく動作するように設計されているためだ。また病院では、穏やかな雰囲気を演出するために水を使用することが多いので、利用できる場所も限られる。
「VR酔い」を最小限に抑えるため、ミニゲームは最小限の操作で動作するように設計されている。ルーナ氏によると、ミニゲームの操作とは、例えば迷路の中でキャラクターを誘導して海賊の宝を探す、といったことだという。「プレイヤーが仮想スクリーンの左側を見ると、キャラクターは(視線の)動きに従って左に走り続ける。だからプレイヤーはできるだけずっと頭を正面に向けて、目の前に見える狭い円すい形の空間に焦点を合わせ続けるように誘導される」
水中で泳ぐ動作が含まれる一部のミニゲームでは、トンネル効果が生まれる仮想ヘッドセットを使用する。これによってVR酔いを抑えると同時に、患者が実際にヘッドセットを装着しているという事実にリンクする。
一方パターソン氏は、このゲームはどの患者にも喜ばれているわけではないとも話す。機器で顔がすっぽり覆われることを好まない患者もいる。このゲームでは、ゲーム画面内に別ウィンドウを表示して現実世界の様子を映すオプションも用意されているのだが。ただし、「ゲームの動作が、既存のものとは一線を画する斬新なものになった。素晴らしいとしか言いようがない」と高く評価する患者もいる。同病院では現在、このVoxel Bayの商品化やグループバージョンを開発し、プライマリーケアなど、現在とは異なる状況で利用することも検討している。
痛み緩和手段としてのVR
また、仮想現実を利用して、これまで取り上げてきた疾患とは違うタイプの痛みをコントロールしている医師もいる。
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