IoTアプリケーションを簡単に構築する方法:CW:デジタル化とIoT製品導入戦略ガイド
クラウドベースプラットフォームは、IoTの試用に伴う経済的、ロジスティクス的負担を取り除く。だがCIOにとっての選択肢は豊富にある。そうした選択肢について検討する。
多くの組織は、IoT(モノのインターネット)アプリケーションによって恩恵が得られる。製造業者はフィットネストラッカーや航空機といった幅広い顧客の装備を管理でき、運輸・公益企業は性能測定指標や不具合をモニターできる。医療機関は医療機器を通じて患者の健康状態をチェックできる。だが、それは気が重くなる作業に思えるかもしれない。多様な機器と関連する技術の両方の導入、接続、管理は複雑で、負担も重い。
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幸い、IoTのチャンスをつかむために、サーバとネットワークの構成に忙殺されたり、アプリケーションを何もないところから開発したりする必要はない。IoTに特化したデプロイを支援するために必要な技術を組み合わせたPaaSは増え続けている。
IoTアプリケーションは、3つの基本的なコンポーネントを必要とする。まず第1に、モノそのものが必要だ。これは以前から存在していた機器を新たにインターネットに接続する場合もあれば、専用に導入した検査機器やセンサー、ユーザーの端末(具体的にはスマートフォンにインストールされたソフトウェア)の場合もある。
2つ目のゲートウェイは、例えばそれぞれの地域にある全センサーといった機器のグループを管理したり、あるいは複数のモノを装備したビルや車両といった単一の大きな物体を管理したりする。ゲートウェイは、ローカルネットワーク管理やセキュリティ、データフィルタリングの役割を担う。
3番目の中央ITプラットフォームは、ゲートウェイ、そして時にはモノそのものが全データをフィードする共有型のサービスやハブで、中央の管理ポイントを提供する。2016年のQuocircaの調査報告書「The many guises of the IoT」(IoTの多くの装い)の中で、中央ITプラットフォームは、IoTアプリケーションにインテリジェンスを組み込むために最も重要な場と見なされていた。これは、モノのインターネットプラットフォームが提供するハブの役割を果たす。
このプラットフォームには、IoTデバイスとゲートウェイのデプロイ、管理、運用を単純化する目的がある。膨大なデータの流れを収集・処理して、そのアプリケーションに関連したモノのネットワークの全体像を、人間が把握できるようにする。データ分析に基づいてアプリケーションの調整に関する決定を行い、ゲートウェイやモノに命令を送り返すことができる。
どんな共有サービスにもいえることだが、複数の組織がIoT導入のために使うプラットフォームは、恐らく何百万台という機器からのデータのエコシステムを形成する。その規模は、どの単一ユーザー組織よりも大きい。このエコシステムの一部となることで、全組織が間接的な恩恵を受けることができ、互いのデータから引き出される分析情報を取得でき、同プラットフォームを構成する一部の組織はIoT特有の機械学習を提供して、自分たちがコントロールしているIoTネットワークの管理方法を継続的に向上させることができる。
多様なプラットフォームの検証を行う際は、同じ用語が繰り返し使われる。その狙いは全て同じ基本的な部分にある。すなわち、何も手を加えないまま使える機能を利用して、インテリジェントなIoTアプリケーション構築の単純化を図る。この中には、デプロイされた機器による法令順守の徹底、監査データの収集、機器のネットワーク接続とデータ転送のセキュリティ対策、IoTアプリケーションと機器を参照、管理する画面のプロビジョニング、タイムリーな分析を行って必要に応じて行動を起こすためのデータ処理、ストレージ、分析が含まれる。
このプラットフォームには通常、簡単なコード開発機能が含まれており、クリックベースのツールを使って機器やゲートウェイ、アプリケーションを最低限のコーディング(1990年代の第4世代言語、4GL:4th generation languageに近い)で設定できる。この機能はプラットフォームに組み込まれることもあれば、サードパーティーツールのサポートが提供されることもある。
豊富なプラットフォーム製品
IoT導入の需要急増に押されて、異なる背景を持った幅広いサプライヤーがIoTプラットフォーム製品を構築するようになった。中には、スマートシティーやスマートホームといったIoTの特定分野を専業とすることを選んだサプライヤーもある。そうした技術プロバイダーには、産業複合企業、ビジネスアプリケーションプロバイダー、セキュリティサプライヤー、モバイルサービスプロバイダー、ネットワークサプライヤー、大手ITプラットフォームサービスプロバイダーが混在している。IoTプラットフォーム市場は既に成熟期を迎え、新興企業が業界大手に買収されている。
米産業大手のGeneral Electric(GE)はコンピューティング部門のGE Digitalを2011年に創設し、自動車、製造、ヘルスケア、運輸、公益といった幅広い分野を対象にITサービスを提供している。こうした業界はいずれもIoTの恩恵への期待が高い。GE Digitalの製品の中で最も名高いIoTプラットフォームの「Predix」は、「Cloud Foundry」をベースとして産業データの処理用に設計され、異種混在のデータ取得と分析に対応する。
日立は2016年にIoTプラットフォーム「Lumada」を立ち上げ、独立組織のHitachi Vantaraとしてスピンオフさせた。Lumadaは英国のGreat Western Railwayに採用され、日立は家電の管理から発電所に至るまで、さまざまな市場で設計を拡張している。
ビジネスアプリケーションプロバイダーは、顧客からより多くのデータを自分たちの管理下に取り込んで、そこからさらに多くの価値を引き出す手段として、IoTへのリーチを広げている。
現時点でIoT専用のプラットフォームはSAPとSalesforce.comの2社が提供している。
「SAP Cloud Platform Internet of Things」は、さまざまな種類のリモートデバイスの登録、設定、管理ができ、プロセス最適化のための意思決定機能とツールを提供する。これは「SAP HANA」をベースとする。一般的なIoTデバイスとプロセスについては業界基準や環境基準、安全基準、省エネやデータセキュリティ基準の順守があらかじめ設定されている。
「Salesforce IoT Explorer Edition」は、同社の既存IoT事業の延長として2017年10月に発表された。同製品には手早く簡単にIoTアプリケーションを立ち上げられる低水準コードツールが含まれる。Salesforce.comの提案は、CRMのノウハウを活用して顧客のコンテキストをIoTアプリケーションに積極的に当てはめるというものだ。例えばリアルタイムのルールによって行動を促し、積極的な営業やサービス、販促活動を可能にする。実例を挙げると、コネクテッドカーが一定の走行距離に到達した場合、あるいは車両診断レポートが不合格になった場合、自動車ディーラーは積極的に行動を起こすことができる。
セキュリティ専門企業Gemaltoは、機器との接続におけるセキュリティ対策に関するノウハウで定評がある。同社は2011年、資産管理やテレマティックス、機器モニターに使われるクラウドベースのマシンツーマシン(M2M)PaaSを手掛けるSensorLogicを買収した。同PaaSは単一のオブジェクトがサーバに接続されるM2Mを起源として、IoTの導入に伴う大量の機器に対応できるよう改良が加えられている。
InterDigitalの子会社Chordantは、スマートシティーにフォーカスしIoTプラットフォームを展開する。同プラットフォームでは、標準規格とAPIを使って市内全域の多様なソースからデータを収集し、自治体や企業、消費者に提供できる。
モバイルサービスプロバイダーは、機器をゲートウェイやハブと接続するために自分たちのネットワークの利用を促す好機としてIoTに目を向ける。例えばOrangeはこのほど、Deutsche Telekomとの合弁事業「IoT Live Booster」プログラムを発表した。同プログラムはオープンソースソフトウェアと商用ソフトウェアを組み合わせ、IoTデベロッパーのためのエコシステムを提供する。狙いはoneM2M規格をベースとするスマートホーム市場にある。
2016年には、IoTアプリケーションの立ち上げ、管理、収益化のためのIoTプラットフォームを提供していたJasperという企業をCisco Systemsが買収した。Jasperは携帯電話会社と組んで、幅広い業界向けのIoT導入を手掛けている。
Stream Technologiesの「IoT-X」は、IoT導入のための接続管理プラットフォームで、携帯電話、衛星、低消費電力の広域ネットワーク(WAN)を横断する質の高い無線接続を提供し、顧客に安定した接続を提供している。
大手クラウドプラットフォームプロバイダーは、全社がIoTを好機と見なしている。Amazon Web Services(AWS)IoTにはデバイス登録、デバイスゲートウェイ、MQTTプロトコル(HTTPの代替としてデバイスのバッテリー長寿命化を図る低消費電力プロトコル)のサポートが含まれる。「Device Shadows」というもう1つの機能は、物理デバイスとの間で断続的な同期が可能なデバイスの仮想の「影」として利用できる。この機能ではネットワークトラフィックを削減して、たとえオフラインでも仮想的にデバイスをアップデートできる。
Microsoftの「Azure IoT Suite」は、IoTデバイスのストリーミングデータをリアルタイムで収集・分析でき、顧客の既存インフラとの連携機能を提供する。自動アラートは、例えば予測メンテナンスといった動作のトリガーとなる。産業装置のモニター用に構成済みのコネクテッドファクトリーのサービスも含まれる。
Googleの「Android Things」(旧Brillo)はデバイス開発キットを備えたIoTプラットフォームで、Android OSを搭載したデバイスのプロトタイプ作成、構築、サポートを目指す。「Android Things Console」はAndroid APIやAndroid開発ツールなどのGoogleサービスを利用して、IoTデバイスの管理や設定ができる。
IBMは「Watson Internet of Things」に人工知能の側面を持たせ、全てのIBM IoTのハブと形容している。IBMは近ごろ、どんなものにでもWatsonの側面を持たせている。Watson IoTは、IBMのクラウドプラットフォーム「Bluemix」から生まれた製品で、コネクテッドデバイスの管理とコントロールができ、ライブデータと履歴データにアクセスできる。コンテキストマッピングサービスでは、例えば運輸網管理のような、動く物体の軌跡を分析できる。
Hewlett Packard Enterprise(HPE)の「Universal IoT Platform」は、連合デバイス管理、データ取得、データ露出を含む幅広い分野で横断的に産業IoTをサポートする。異種混在のIoTゲートウェイとデバイスの同時管理にも対応する。同プラットフォームはオンプレミスにも幅広いクラウド環境にも導入できる。HPEは用途として、コネクテッドカーやスマートシティー、スマートメーターを挙げている。
もし、ここまでに挙げたIT業界大手や無名プロバイダーの投資やメッセージが何らかの判断基準になるとすれば、IoTには多大な進展がある。
クラウドIoTプラットフォームは、組織が事前に大規模な投資をすることなく簡単に試用でき、何が達成できるかを見極めることができる。主な問題は、幅広い選択肢の中から適切なプラットフォームを選定することにある。
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