「観察・判断・意思決定・行動」のループ
米空軍発の「OODAループ」はサイバーセキュリティ対策も強化する
「OODAループ」を利用することで、ハッカーに対抗するサイバーディセプションを確立し、ネットワークのセキュリティを強化できる。本稿では、OODAループの手順と、その手順をセキュリティに当てはめる方法を考察する。
観察(Observe)し、状況を判断(Orient)して、意思決定(Decide)を行い、行動(Act)する。これは「OODAループ」と呼ばれ、米空軍のジョン・ボイド大佐が提唱した判断サイクルだ。パイロットは空中戦の最中、状況を観察し、それに対処する。そして決定を下し、行動する。こうした一連の動作ができるパイロットは、安全に基地へと帰還する。
OODAループは、戦闘機のパイロット向けに考案されたサイクルだが、あらゆる敵と対抗する場合に当てはめられる。
台風が来て停電になったとする。これに乗じて誰かの家に侵入しようとする強盗の立場になって考えてみよう。強盗が侵入を開始すると同時にOODAループのサイクルが始まる。この時点では、強盗は不利な立場だ。強盗は侵入先の家に不慣れであり、観察と状況への対処は手探りになる。
強盗は誤ってランプをひっくり返し、おもちゃを踏んで大きな音を立ててしまった。家主は物音を聞き付け、瞬時に強盗の居場所を察知し、何をすべきか全て理解する。強盗が観察を続け、状況への対処を試みている間に、家主は決定を下し、行動に移る。このような見慣れた状況でもOODAループを生かせる。
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セキュリティ対策と強化
ネットワークの侵入に対する備え
上記の状況と同じように、ネットワークにもOODAループのメリットを生かせる。だが実際のところ生かされてはいない。大半の企業は、第三者からの通知によって自社が侵害を受けていることを発見する。コンピューティング環境を保護する適切な戦略を立案するには、攻撃の理由を理解することが不可欠だ。
簡単に言ってしまえば、ネットワークの侵入者は音を立てない。企業はファイアウォール、侵入検知システム、侵入防御システム、データ損失防止ソフトウェア、エンドポイントセキュリティ、アプリケーションのホワイトリストなどを使用する。だがいずれも攻撃者に突破される恐れがある。企業は、疑わしい挙動をログに記録するようシステムを構成している。しかしログの大半はほとんど見直されることがなく、重要な情報とそうでない情報を区別するのも難しい。
慎重な攻撃者にとって、家主が腰を上げるような物音を立てることなく、ネットワーク全体を動き回れるチャンスは現実的だ。実社会とは異なり、ネットワークには攻撃者の居所を暴くランプやおもちゃは存在しない。ここでは「発見的コントロール」(脅威を早い段階で検出し対策を取る手法)を話題にしている。しかし企業における防御の大半は、パッチの適用、システムの強化、ファイアウォールの設置など、攻撃を遮断することを重視する。
よく言われることとして、「防御はいつでも正しく機能する必要があるが、攻撃は一度だけ成功すればよい」というものがある。この状況は変えなければならず、OODAループを生かして主導権を握れるようにする必要がある。
情報セキュリティにOODAループを当てはめる
ネットワークに音の出るおもちゃや倒れやすいランプを実際に置くことはできない。だが攻撃者の前に立ちはだかる障害物を作リ出すことはできる。ビジネス用の仮想LAN(VLAN)を構築し、各VLANにアクセス制御リストを用意する。これにより、正規のトラフィックは通過させ、それ以外のトラフィックはブロックし、ログに記録できるようにする。
攻撃者がネットワークのホスト侵害に成功した時、他の標的をスキャンする可能性が高い。その行為が中間に位置するVLANのブロック規則に抵触し、アラートが発生する。攻撃者がネットワークを観察している間に、企業は決定を下し、行動に移すことができる。
攻撃者は自動Webクローラーを使用して侵害対象のサイトを見つけ出す。そのため、Webアプリケーションをはじめとする標的のセキュリティを確保するのは難しい。そこで役に立つのが、複数の偽リンクを含む偽のWebページを作成する無料ツール「WebLabyrinth」だ。ユーザーがいずれかの偽リンクをクリックすると、さらに偽のリンクを含んだ別の偽ページが生成される。Webクローラーは無限ループに陥り、大半のツールが機能を停止し、攻撃者のやる気が削がれる。この偽ページへのアクセスが生じた時にアラートが発生するようにすれば、OODAループを生かして優位に立てる。
興味を引くように見えるが実際にはビジネス目的のないものをネットワーク上に配置することでも、同様のメリットを得られる。対象はユーザーアカウント、データベースのレコード、開いているポート、IPアドレス、ホスト、脆弱(ぜいじゃく)性など何でもよい。攻撃者のあらゆる期待に応えつつ、実際には攻撃者を防御側の望み通りに行動させる環境を作り出すことは、OODAループのメリットを生かす非常に強力な手段になる。
「戦はだまし合い」
孫子の『兵法』には「戦はだまし合いだ。近くにいても遠くにいるように見せかける。遠くにいても近くにいるように見せかけなければならない」とある。
この名言から、具体的な目標を実現するサイバーディセプション(欺き)手法の設計方法を学ぶことができる。攻撃者に関する情報を集める場合は、脆弱性があったり、高い価値があるように見せかけたりしたリソースを意図的に作成し、それを注意深く監視する。
孫子から数千年後、第二次世界大戦において連合軍は「ボディーガード作戦」(Operation Bodyguard)という欺瞞(ぎまん)作戦を成功させた。これは、イギリス海峡を越える「オーバーロード作戦」(ノルマンディー上陸作戦)の目標がフランスのカレーだと枢軸国に信じさせる作戦だ。作戦を成功させるためには、相手にこの情報を完全に信じ込ませる必要がある。この欺瞞作戦に少しでも欠陥があり、情報が枢軸国に漏れれば、オーバーロード作戦全体が失敗する恐れもあった。
サイバー分野でもそれは変わらない。あたかも現実のように見えるのが最高の欺瞞だろう。攻撃者は一度だまされていることに気付けば、予測しなかった方法に行動を変える可能性があるため、リアリティーは非常に重要だ。多くの場合、露骨で派手な方策よりも、繊細で周到な欺瞞の方が望ましい。
サイバーディセプションでは、攻撃者にとって一見ごく普通でも、実際はアラートを発する障害物を内包した環境を作り出す。攻撃者はそうした障害物の一部または大半を回避できるかもしれないが、どれか1つにでも引っ掛かれば、OODAループのメリットを生かして優位に立てる。これがうまくいけば、攻撃者は常に全ての障害物を正しく回避する必要があるが、防御側は一度でも成功すればよい。
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