東京五輪に備えるセキュリティ対策【後編】
東京五輪の“通勤地獄”を「テレワーク」で回避するのは危険? 対策は
一大イベントである東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に乗じたサイバー攻撃は、大きな脅威となる。大会中の混雑緩和のためにテレワークを利用する企業が気を付けるべき点とは。
前編「東京五輪で増えるサイバー攻撃、『自社は無関係』と考えてはいけない理由」は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)を前に気を付けるべき脅威として、商流を形成する企業のうちセキュリティが不十分な企業が侵入口となるサプライチェーン攻撃と、Webサーバへの攻撃を紹介した。
セキュリティベンダーの専門家が「オリンピック・パラリンピックを契機に攻撃が増加する」と予想する接点は他にもある。後編はそうした脅威として、ITを利用した、場所にとらわれない働き方であるテレワークに伴うリスクと、フィッシングサイトや悪質メールの危険性を整理し、それぞれの対策を解説する。
テレワークの利便性と危険性は表裏一体
大会期間中、開催地である首都圏では交通の混雑が予想される。従業員の通勤に影響が出ると考え、そうした混雑を憂慮する企業は少なくない。東京都はテレワークや時間差出勤などによる混雑緩和の取り組みを推奨しており、それに応じた対策を計画している企業もある。中でもテレワークは、インターネット接続環境があれば時間や場所を問わず業務ができるメリットがある。東京2020大会の対策だけでなく、働き方改革にもつながることも相まって、企業の注目度も高い。
一方テレワークは、社内LAN以外からも業務システムに接続できる環境を提供するため、攻撃者にとっても侵入する機会や接点が増えるリスクもある。以下はテレワーク利用時に攻撃を受けやすい環境の例だ。
- 公衆無線LAN(フリーWi-Fi)
- 同一ネットワークに接続することが容易なのは攻撃者も同じであり、そのようなネットワークは侵入・盗聴されやすい。
- 従業員の自宅LAN
- 社内LANほど強固なセキュリティ対策が敷かれていないことが一般的であるため、公衆無線LANと同様に侵入・盗聴のリスクが高い。
- SaaS(Software as a Service)
- パスワードやID管理に不備があると、攻撃者にユーザーアカウントを乗っ取られる恐れがある。使用するデータ自体もクラウドに保存する場合、データがどこからでもアクセスできる状態となり、詐取される危険性が高くなる。
- モバイルデバイスや私用デバイスで利用する業務アプリケーション
- デバイスの盗難という物理的な問題はもちろん、組織が十分にデバイスを管理できていない場合も脅威にさらされた状態となる。許可していないアプリケーションやデータの利用が、攻撃者による情報詐取を招くためだ。
テレワークに潜む脅威への対策
テレワークに代表されるように、業務を遂行する環境は社内にとどまらなくなっており、「社内LANに接続しているから安全」とは言い難い時代になっている。
そうしたIT環境に対する一つの解決策として、Webセキュリティに詳しいアカマイ・テクノロジーズの中西一博氏は「ゼロトラスト」アプローチによるセキュリティ強化を提案する。ゼロトラストとは、社内LANの内外を問わず、サービスへのログイン時など必要なときにユーザーを認証する考え方だ。これを実現する製品には、ID管理ツールやシングルサインオンツールなどがある。
私物を含むモバイルデバイスのセキュリティ対策には、EMM(エンタープライズモビリティ管理)製品が役立つ。アプリケーションやデータの管理、業務システムへのリモートアクセス、紛失時に備えたリモートワイプなど、EMM製品は幅広い機能を備えているため、自社要件を精査してから製品を選ぶのが望ましい。
“それらしい”偽のWebサイトやフィッシングメールに注意
「攻撃者の中には、オリンピックを悪用したフィッシングサイトを設置し、閲覧者の気を引こうとする動きがある」と、トレンドマイクロのセキュリティエバンジェリストである岡本勝之氏は説明する。岡本氏によれば、同社はURLに「olympic」などの文字列を含む“それらしいドメイン”の取得数が増加する動きを確認しており、2019年の改元時にも似たような現象が見られたという。
岡本氏によると、2019年8月時点ではオリンピックを悪用したフィッシングメールはまだ確認されていないという。ただし昨今は企業の幹部を装って不正送金を仕向ける「ビジネスメール詐欺」(BEC)など、メールに起因するサイバー犯罪の被害が相次いでいる。企業にとってメールセキュリティが懸念すべき脅威であることに代わりはない。
フィッシングサイトやフィッシングメールの対策
Webブラウザのセキュリティ機能やURLフィルタリング機能を使うことで、フィッシングサイトの疑いがあるWebサイトへのアクセスを制限できる。エンドユーザーがWebサイト利用時にURLを確認し、正規のドメインであるかどうかを確認することも重要だ。
「業務に関わる文章で人をあおる詐欺メールに、100%引っ掛からないようにするのは難しい」と岡本氏は語る。こうした人の心理の隙を突く攻撃手法を「ソーシャルエンジニアリング」と呼ぶ。これを防ぐには従業員教育によるセキュリティ意識の周知が重要だ。有害なメールを検知し、警告文の付与や本文中のリンク除去、添付ファイルの無害化を実行するメール無害化製品も、有効な防御策となる。
日々のセキュリティ対策が一番の対策になる
国際的な大型イベントを契機にサイバー攻撃が活発化することは歴史が示す事実だ。だがIT化が進む中で、そうしたイベントや社会的行事の有無にかかわらず、企業はセキュリティをますます強固にしていかなければならない。今後どのような点に注意してセキュリティ対策をすればよいだろうか。
「日々のセキュリティ対策を確実に実施することが一番の対策になる」というのが、専門家に共通する見解だ。Webセキュリティベンダーのサイバーセキュリティクラウドで最高技術責任者(CTO)を務める渡辺洋司氏は「『2020年だから、オリンピックだから何かやるべき』という認識ではなく、日頃から自社の資産の棚卸しやリスク評価を実施すべきだ」と注意喚起する。資産管理ツールやコンサルティングサービスを使って自社の現状を把握し、それに応じて事業継続計画(BCP)の整備やセキュリティ製品/サービスの導入を進めるとよいだろう。
特に人的・金銭的リソースが限られる中堅・中小企業については、「優先して守るべきものがどこにあるかを把握し、見極めた上で注力的に保護することが大切」だと岡本氏は助言する。
もう一つの共通見解としては「多層防御の導入」が挙がる。高度化するサイバー攻撃に対しては、侵入を防ぐだけでなく、侵入されたことを前提とした脅威の検出・除去など、複数フェーズでの防御が不可欠だ。エンドポイントやネットワーク、クラウドサービスのアカウントなど、攻撃者の侵入口となるさまざまな要素に対するセキュリティ対策も欠かせない。
「今回の大会をきっかけにしたサイバー攻撃は確実に、かつ過去よりも大規模なものが起こるだろう」と岡本氏は予測する。実際に2018年2月開催の第23回オリンピック冬季競技大会(平昌冬季オリンピック)では、2016年の11月ごろからサイバー攻撃が始まっていたという。大規模なサイバー攻撃だけでなく、今後危機をもたらすさまざまな脅威に対抗するために、本稿の情報が一助となれば幸いだ。
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東京五輪に備えるセキュリティ対策
企業のIT活用が進む中、社会的な行事に乗じたIT環境への攻撃によって、ビジネスに危害が及ぶこともある。東京2020大会を目前に控える日本企業が考慮すべきセキュリティリスクと、取り組むべき対策は何か。
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