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Uberらの仕事割り当てアルゴリズムは公平・適切かComputer Weekly製品ガイド

アルゴリズムによる仕事の割り当ては、従業員にとっても雇用主にとっても恩恵があるかもしれない。だが人材を尊重しながら公正に仕事を割り振ることはできるのか。

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 ライターのジェームズ・ブラッドワース氏は半年間に4つの会社で働いた。勤務先はAmazon.comの倉庫と在宅介護事業者、保険会社Admiralのコールセンター、そしてUberだった。

 Uberのタクシー運転手は契約して仕事を請け負う個人事業主で、従業員としての権利はない。それでもブラッドワース氏は、この形態で働くことで経験が豊かになり、運転手として働く時間と仕事を終えて執筆に充てる時間は自分でコントロールできると考えた。

 だがコントロールはできなかった。Uberの運転手はアプリを通じて仕事をもらう仕組みだが、このアプリは次の仕事のことや、所要時間あるいは目的地のことは何も教えてくれない。割り振られた仕事を受ける割合があまりに少ないと実質的に契約を打ち切られ、2〜3回続けて断れば一定期間アプリから締め出される。

ユーザーの評価

 ユーザーの評価が落ちると運転手は仕事がなくなるが、乗客の評価が低くなりがちな時間帯は料金が上がる。また、Uberがブラッドワース氏に運転を続けさせようと仕向けたこともあった。もう何時間も運転し続けていたにもかかわらず、もうすぐ一定量を獲得できると同氏に告げたのだ。

 「全体的に見て、それは特異な類いの自由だった」。同氏はこの体験を基に執筆した著書『Hired: six months undercover in low-wage Britain』(採用:低賃金の英国における6カ月の覆面労働)の中でそう総括している。

 仕事をアルゴリズムで割り当てるのは、本質的には悪いアイデアではない。英個人事業主組合傘下のUnited Private Hire Driversで議長を務めるジェームズ・ファラー氏は言う。同氏はUberを相手取り、運転手の権利を求めて共同で訴えを起こしている。

 従来型のタクシー会社に勤務する運転手の多くは、その特権のために手数料を支払っている(Uberは通常、20〜25%を受け取る)。だが管理者は親しい相手にのみ好条件の仕事を割り当て、テークアウト料理を取りに行くよう運転手に命じ、賄賂を要求することさえある。「運転手たちは単純にそうした業者を辞めたのではなく、Uberに駆け込んだ」とファラー氏は話す。

オフィスも上司もなし

 だが、同社のアルゴリズムは独特の問題を発生させる。Uberは運転手として採用する見込みがある相手に対して「オフィスも上司もなし」と告げ、「Uberではあなたが主役です」と誘いかける。だがこれは、アルゴリズムが仕事を割り振り、運転手の行動に影響力を行使する同社のやり方を反映していないとファラー氏は主張する。

 「こうした会社はその曖昧さに付け込んで人を動かし、支配力を行使しておきながら、自分たちがその支配力を握っていることを否定する。彼らは労働者に権利を主張されることと、労働者の事業を支配することの間の曖昧な一線をもてあそぼうとしている」

 「ギグエコノミー」企業にとっては、個人事業主として労働者を確保することには経済的に大きなメリットがある。企業がはっきりした指示を出す代わりにアルゴリズムに頼るのはそれが一因だとファラー氏は推測し、「いずれにしても経営管理に変わりはない。だがそれが舞台裏に持ち込まれる」と指摘する。

 Uberのようなギグエコノミー企業がアルゴリズムをどう使って労働者を管理しているのか、その仕組みは一般的には公開されないので正確なことは分からない。

 洗車サービス事業者Autoclenzの2011年の裁判では、いわゆる個人事業主方式の労働者にも最低賃金の権利はあるとの判断を英最高裁判所が示した。だがファラー氏によると、この判決はAutoclenzが公表しているポリシーではなく同社の行動を根拠としたために、企業の秘密主義に対するインセンティブを与えた。

 ファラー氏と弁護団はかつてUberのデータを証拠として利用していたが、Uberはこのデータが自社に不利な証拠になりかねないと判断して、開示する量を大幅に減らした。一方でUberは運転手について、ブレーキやアクセルを踏む割合や、どれだけ早く仕事を受けたり断ったりするかといったデータを収集している。

労働者の後押しと柔軟なプランニング

 ロンドン大学Royal Hollowayの情報システム担当准教授、アマニー・エルバナ氏によると、中には抵抗を試みる運転手もいるという。

 同氏がUberの運転手を対象に実施した実態調査では、一部の運転手がスマートフォンのソフトウェアを使って目的地に到着する前に仕事が完了したと報告したり、入ってくる仕事を自動的に受けたりしていることが分かった。仕事を早く獲得しようと、空港の「仮想タクシー乗り場」の外にとどまって順番に仕事が割り当てられるのを待つという運転手もいた。

 それでも支配力の大部分はUberが握る。エルバナ氏によると、Uberは次の仕事が始まる地点と終わる地点に関する大まかな情報を提供することによって、運転手の裁量の余地を広げることもできるはずであり、そうすれば間もなく仕事を終えたいと思っている運転手は長距離の仕事を断ることができる。だが同社は反対に、仕事を断ることの多い運転手に罰を与える。

 「同社がデータを監視と処罰のために使っているのか、それとも仕事を後押しして奨励するために使っているのかは重大な疑問だ」とエルバナ氏は言う。

 データ監視機関が例えば測定に関する苦情を調査することによって、運転手の力になることもできると同氏は言い添えた。一部の運転手は、車両の走行距離計が記録した距離と、Uberが運賃の算出に使っている距離との間に食い違いがあると主張している。同氏はまた、勤務実績データの利用に関するガイドラインを定め、管理職がデータを使って個人を監視することをやめさせるべきだと考えている。

労働条件の改善

 エルバナ氏はまた、アルゴリズムは確実に休憩を取らせたり、スケジュールを立てる手助けをしたりすることによって、労働条件を改善させることも可能だと確信する。

 かつて同氏が勤務していた大学では、日中に犬を散歩させたい職員や、子どもの夕食を作るために午後5時までに帰宅したい職員がいた。

 大学は手作業でそれに対応していたが、ソフトウェアを使えば職員が入力した勤務可能時間に従ってスケジュールを組むことができる。

 「仕事割り当てシステムは、われわれがずっと前から求めていたアイデアを取り入れる素晴らしい機会を与えてくれる」とエルバナ氏は語る。

 デンマークのIT企業Plandayはシフト勤務の従業員にそうした柔軟性を与える方向へと踏み出した。従業員はアプリを通じて勤務できる日とできない日を入力し、出番を他の従業員と交代したり譲ったりすることもできる。

 後者の場合、打診された側の従業員がシフトの移動を受け入れるかどうかをシステムがチェックできる。雇用主はルールを定め、適切なスキルがそろうかどうかを確認して、特定の個人が一緒に働くのを防ぐことさえできる。組織の電子メールシステムの外にいる従業員が、休暇の管理や賃金に関する情報管理の手段として利用できるコミュニケーション手段も提供される。

従業員の不満

 Plandayの最高経営責任者(CEO)クリスチャン・ブローダム氏は、経営者の多くがコスト削減ばかり重視する結果、従業員の不満につながると指摘する。

 「市場では会社と労働者の間のパワーシフトが起きるだろう」と同氏は話す。同社は将来的に、天気予報といった他のデータソースを取り入れて、雇用主がそれに基づきスタッフ配置の条件を変更できるようにする計画だ。

 24時間態勢の介護施設をフォールカークとファイフで経営するAvondale Care Scotlandは、法律で定められた基準に従って人員を常時各施設に配置しなければならない。ディレクターのエイドリアン・ヘンドリー氏は、Plandayのおかげで基準に従ったローテーションを組みやすくなったと語る。かつては2週間前までローテーションが決まらないこともあったが、今では6〜8週間前に組めるようになり、職員の時間給にして月間500ポンド(約6万6000円)前後削減できているという。

 同社の450人の職員はこのシステムが気に入っているとヘンドリー氏は言い添えた。ローテーションの情報が早まったことで、計画に余裕が持てるようになり、基準に従ったスタッフの構成が維持できる限り、シフトを交代することも可能になった。

 職員が勤務時間中に管理者を通す必要もなくなったことから、「職員の自治性が高まり、同僚に話をする権限も強くなった」とヘンドリー氏は言う。「職員にとっては手順が迅速化され、われわれにとっては正しいスタッフの構成が保証されるので、手順の効率性と安全性が高まった」

サービスとしての労働

 組織が働き手を見つけるためのプラットフォームを提供する英Broadstoneは、当初は民間警備保障業界を対象としていたが、他の業界への拡大を計画している。CEOのトム・ピッカーギル氏はこれを、人材紹介業者と同じサービスを提供しながら料金を抑えて柔軟性を高めるという意味で「サービスとしての労働」と形容する。現在登録している働き手は1万人前後だが、2019年中に4万人超に増やしたい考えだ。

 仕事は自動的に割り振られるのではなく、雇用主がシフトを掲載して、働き手がそれに応募する。誰を採用するかは雇用主が選択できるが、Broadstoneは最適化したリストを提示する。そのためのアルゴリズムは非公開だが、これは働き手が「バッジ」を持っているかどうかに基づく。バッジは例えば3シフトをキャンセルすることなくこなすか、星の数に応じた特定の評価を維持することによって獲得できる。

 「このバッジを持っている場合は有利になる」とピッカーギル氏は説明する。5つ星全ての資格を持つ人材の最低賃金は14ポンド(約1850円)。同プラットフォームを使い始める時点では9ポンド(約1190円)から始まる。

 ただ、Uberを含むギグエコノミー企業はそれぞれ独自のシステムを運用している。「そうしたプラットフォームが抱える問題の一つはピアツーピアでないことにある」と語るのは、エディンバラ・ナピエール大学応用科学校准教授のピート・ロバートソン氏。「その多くは雇用主と従業員の力の均衡に関係する」

 複数の雇用主が利用し、従業員が自由に情報を交換できるチャンネルを備えたマーケットプレースの方が公平性は高いと同氏は言い添えた。だが、もしも企業が自分たち独自のプラットフォームを従業員に使わせることができるのであれば、その権限を手放す公算は小さい。

 そうした企業のうち少数は、従業員向けの制度改善に乗り出しているが、まだアルゴリズムは介在していない。雇用裁判で組合のGMBが勝訴し、英国際宅配業者のHermes Parcelnetと契約している個人事業主にも有給取得と最低賃金の権利があると認められたことを受け、同社は有給休暇と時間給の最低賃金を盛り込んだ団体協約を結ぶことに同意した。

団体協約

 ハウスクリーニング業者探しを支援するデンマークのHilfrも同様に、同プラットフォームを介して100時間の勤務を完了した働き手を対象に、休暇や病欠、年金負担を盛り込んだ団体協約を結ぶことで決着した。ただし、同プラットフォームは誰がどこに行くかには関与しない。

 HilfrのCEO、デニス・トゥルー氏によると、それはリストを検索できるようにして「顧客に自分で決めてもらっている」という。同社は意識的に仕事割り当てアルゴリズムを使わないと決めたわけではないが、Hilfrの「システムは機能している」と同氏は言い添えた。

 ソフトウェアはアルバイトやシフト勤務者の裁量の余地を増やしながら、雇用主による管理の労力を削減できる。それは働き手の満足度向上や働き続ける意欲につながるかもしれない。一方で、自分の利益に反する働き方へと働き手を追い込む可能性もある。

 ギグエコノミー企業の仕事割り当てアルゴリズムが公表されれば重大な一歩となる。だがUnited Private Hire Driversのファラー氏は、アルゴリズムの透明性は不可欠だとしながらも、企業が自分たちのアルゴリズムに対する責任を負うことが大きな問題になるとの見方を示す。

 もしも管理職が、自分とソフトウェアの間に心理的な距離を感じるのであれば、自分はビジネスを運営しているのではなくコミュニティーを管理しているにすぎないと主張する可能性もあり、労働者が不利な扱いを受けるリスクは強まるとファラー氏は指摘する。

 「アルゴリズムは単なる管理指示にすぎない。優れたマシンベースの管理システムは、そのマシンに指示を出した優秀な管理職のように見える」とファラー氏は話している。

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