スタバとMicrosoftが構築したエッジコンピューティングシステム:エッジ:データのフロンティア【後編】
エッジコンピューティングは既に現実的なソリューションだ。StarbucksとMicrosoftが構築したエッジコンピューティングシステムがその一例だ。
前編(Computer Weekly日本語版 3月18日号掲載)では、エッジで生じるコンバージェンスの可能性とエッジコンピューティングに取り組む際の注意点などを紹介した。
後編では、エッジコンピューティングの展望やStarbucksでの導入事例、開発の注意点などを紹介する。
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爆発的増加
Forresterによると、プロバイダーの目標はパブリッククラウドサービスを必要としないIaaSやPaaSを構築することだという。ただし、こうしたサービスがパブリッククラウドやオンプレミスデータセンターへの断続的な接続を提供する可能性はある。「2020年には、こうした誕生しつつある市場が爆発的な成長を見せるだろう。それは、スタートアップ企業が既存企業や大手ベンダーと手を組んで潜在的なビジネスモデルを調査するためだ。調査対象となるモデルは、顧客体験を高めるためにほぼリアルタイムの応答性を必要とするビジネスだ」とForresterレポートは説明している。
Avanadeで新興技術、製品、エンジニアリング部門の責任者を務めるクリス・ロイドジョンズ氏によると、大企業はエッジコンピューティング機器を一元管理し、地理を問わずに接続を提供するためのIoTプラットフォームを構築し始めているという。「エッジコンピューティングで扱うのはもはや、機器からデータをUSBケーブル経由でアップロードするオンボードコンピュータだけではない。エッジコンピューティングは4Gと5Gで定期的に接続し、本格的な機械学習のような演算負荷の高いワークロードをサポートするようになっている。データはクラウドとの間で送受信でき、これにより一元管理が実現する」と同氏は語る。
ロイドジョンズ氏は、クラウドを使って機械学習モデルをトレーニングした後、そのモデルをエッジ機器に展開して他のIT機器のように管理できると説明する。同氏は次のように話す。「エッジコンピューティングは、全く異なる機器群を共通の標準へと移行させるのに役立つ。これにより数百台の機器を一度にプロビジョニングすることが可能になる。標準化することで、マイクロチップのアップデートを適切に展開できるようになる」
米国のStarbucksは、Microsoftのエッジコンピュータ「Azure Sphere」を自社のコーヒーメーカーに搭載した。このIoT対応機器は、エスプレッソを注ぐたびに使う豆の種類からコーヒーの温度や水質まで10を超えるデータポイントを収集し、8時間のシフトで5MB以上のデータを生成する。
MicrosoftとStarbucksによると、このシステムにより機器の問題を特定するだけでなく、コーヒーの新しいレシピを機器に直接送ることも可能になるという。その結果、全ての機器をUSB経由で更新する手作業が不要になる。Starbucksで小売り技術およびコアテクノロジーサービス部門のシニアバイスプレジデントを務めるジェフ・ワイル氏は次のように述べる。「これらのレシピを更新するには約80市場の3万店舗に連絡を取る必要がある。このようなレシピを送り込むことは、コスト削減の点でも、このような取り組みを行う根拠としても、非常に大きな要素になる」
ロイドジョンズ氏によると、C#やPythonなどの言語やDockerコンテナをサポートするエッジコンピューティング機器が利用可能になることで、企業のIT部門がIoTのアイデアに取り組みやすくなるという。
だが、メモリ、ストレージ、処理能力が乏しい古い世代の機器の中には、LinuxベースのものやC言語でしかプログラミングできないものもあると同氏は指摘する。「リソースが限られた環境用のプログラミング方法を習得するには教室形式のトレーニングが必要だ」
コード品質チェックや静的コード分析を行う従来のツールを使って、開発するコードの品質を高める必要がある。ただし、従来のソフトウェア開発では一部のコンパイラ警告メッセージは無視することができたが、今後はそのような警告も何らかの問題の現れだと捉える必要がある。リソースに制約がある機器は、安全性が重視されるシステムを厳しい環境下で運用することになりかねない。そのリスクを負う価値はあるのだろうか。
ソフトウェア開発者は効率的なコーディング方法だけでなく、開発したエッジコンピューティングアプリで安全かつ予測できる形でエラーが起きるようにする方法も把握しておく必要がある。エッジ機器の中身をどうするかという問題もある。無駄のない製造方式――つまり実用最小限の製品を構築し、それを導入して拡張機能を開発するためのフィードバックループを用意するという考え方がある。機械類を制御するための運用テクノロジーとしてエッジコンピューティング機器を使う分野では、こうした考え方がうまく適さない可能性がある。
問題は、製品にどれくらいの機能を組み込む必要があるかだ。実世界の何かを測定するために必要なセンサーがエッジコンピューティング機器に搭載されていなければ、取得できるはずのデータが単純に取得されなくなる。
「1つのユースケース向けに設計されたエッジコンピューティング機器は、その用途の限界を迎えた時点で有効ではなくなる。このような機器は冗長になる。そうではなく、ユーザーエクスペリエンスの改善のために収集を計画しているデータの活用方法を前もって考えておく必要がある」(スニール氏)
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