EC急成長を“コロナ特需”で終わらせないために「CX」が重要な理由:コロナ禍で成長が再加速するEC市場【後編】
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけにEC経由で売れるようになった商品は、流行が収まれば売れ行きも元通りに戻ってしまうのか。そうならないために重要なのが「CX」だという。どういうことなのか。
EC(Eコマース:電子商取引)が急拡大した後に、真っ先に元の状態に戻ると予想できるのは、コンピュータ関連と住宅修繕、おもちゃ、趣味、スポーツ用品の各分野だ。これらの商品へのニーズは、2020年3月半ばに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のロックダウン(都市封鎖)が始まって以来、急速に高まった。「自分にできることといえば、たくさんのバックヤードゲーム(裏庭で楽しめるゲーム)を家族のために用意して、自宅でたくさんの部屋を修繕することしかなかった」と、マーケティングオートメーションベンダーのListrakでエグゼクティブバイスプレジデントを務めるジェフ・マコール氏は話す。
ECの盛り上がり維持の鍵を握る「CX」
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コロナ禍がDXを加速する
アパレルや靴のECも、米政府が2020年4月に景気刺激のための小切手を配布したことが追い風となった。さまざまな州がCOVID-19のパンデミック(世界的大流行)に伴う非常事態を宣言した数週間後のことだ。これらの売り上げも既に元の状態に戻り始めている。マコール氏によれば、売り上げが伸びたのは小売店が積極的な割引をしたことと関係がある。
景気刺激策に支えられたもう一つの分野が自動車、船舶、バイク関連の商取引だ。Listrakの統計によると、これらは2019年の同時期と比べて約50%増えた。「自分の娯楽用おもちゃの利用や修理、アップグレードに時間をかける人が増えたことが要因だ」とマコール氏は解説する。政府の景気対策の取り組みが大きな要因となって「消費者は、これまでアップグレードや購入を見合わせていた商品の購入や特別な“散財”に動いた」と同氏はみる。
ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)の徹底が求められる時代に、ECが収益を押し上げることが明確になった。こうした状況を目の当たりにすれば、かつてデジタルを対面販売の付属と見なしていた企業も「全ての販売業務にデジタルをもっと深く組み合わせるようになる」と、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)管理ツールを手掛けるBloomReachの最高戦略責任者、ブライアン・ウォーカー氏は予想する。
何年も前から話題になっていた「オムニチャネル」は「もはや理想的な用語ではないかもしれないが、その意味は誰もが理解している」とウォーカー氏は指摘する。企業は今、たとえ従来のチャネルを使った取引でも「CXにデジタルを組み込まなければならないと認識するようになった」と同氏は語る。
ウォーカー氏は、パンデミックの間に人気を集めた取り組みの一例として「カーブサイドピックアップ」を挙げる。オンラインで注文した小売店やレストランの商品を、店頭で車に乗ったまま受け取れるようにする取り組みだ。カーブサイドピックアップは、デジタルコンテンツとECインフラにけん引され、従来型の小売店の従業員によって達成される。「そのCXは非常に優れている」と同氏は言う。
調査会社Forrester Researchのアナリスト、ニック・バーバー氏によると、ECの成長を維持してオンライン収入を一層増やすためには、たとえ先進的なEC業務をしている企業であっても、自社の商品内容を見直して、ECサイトで動画などのリッチコンテンツを使った紹介を徹底させる必要がある。各商品の仕様や「Amazon.com」と同様の買い物客によるレビューなど、豊富なデータもそろえなければならない。
3D(3次元)モデルやAR(拡張現実)といった先進的な技術をECに活用する前に「基本事項を確実にしておく必要がある」とバーバー氏は話す。同氏によると、最先端のECを展開する企業は、データを使って顧客のことを総合的に理解することによって、事業を成長させている。そうすることで、顧客の誕生日にクーポンを配るといった昔ながらの“スタンバイ方式”ではなく、個々の顧客が欲しがる商品の紹介や宣伝のために、一層掘り下げた知見が明らかになる。データ駆動型のアプローチと、それを支えるコンテンツがあれば、企業は単に注文を受けるだけの存在ではなく、顧客のメンターやアドバイザー的な存在になれる。
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