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アストラゼネカとマクラーレンがオンプレミスHPCを使い続ける理由オンプレ&クラウドHPC【前編】

ハイパフォーマンスコンピューティングのワークロードに最適なのはオンプレミスかクラウドか。AstraZenecaとMcLaren Racingはオンプレミスを選択した。その理由とは何か。

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 ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)市場はここ10年急拡大している。Intersect360 Researchによると、世界のHPC市場の収益は2009〜2019年の間成長し続け、2019年には390億ドル(約4兆1632億円)に達したという。コロナ禍で市場成長率は幾分低下し、2020年は3.7%縮小すると予想されている。

 だが、MarketsandMarketsはこの状況が続くとは考えていない。より効率が良くスケーラブルなコンピューティングリソースの需要が増えていることから、この市場の年平均成長率(CAGR)は5.5%で、2025年には494億ドル(約5兆2734億円)まで成長すると同社は予測している。同社は成長の推進力として高速データ処理に対する新たなニーズを挙げ、クラウドでのHPCの利用も強調している。

 現時点で企業がクラウドベースのHPCとオンプレミスのHPCのどちらに投資するかは不明だ。HPCワークロードのクラウド移行を検討する企業は、10年前と同じ懸念を抱く可能性がある。当時、企業は通常のワークロードをオフプレミスに移動すべきかどうか迷っていた。特にオンプレミスのHPCインフラに多額の費用を投じている企業は悩みが大きくなる。

 企業がHPCに費やすコストは最大2億ドル(約213億円)に達する可能性がある。定期アップデートによって初期配備後もコストが上がり続けることも考えられる。

 既に多額の費用を投じたインフラに投資を続けるか、クラウドを組み合わせて利用するか。クラウドベースのHPCに完全に切り替えるという選択肢もある。

クラウドは高過ぎると感じたAstraZeneca

 製薬大手のAstraZenecaは、HCPワークロードの一部にクラウドを利用しているが、コスト上の理由からクラウドベースのHPCに完全に切り替えることは当面の構想から外している。

 「AstraZenecaはHPCをオンプレミスで運用している。だがGPUやFGPAを必要とするワークロードはパブリッククラウドのHPCを利用する。単に当社のプラットフォームでは実現できない大きなスケールが必要な場合にもパブリッククラウドを利用することがある」と話すのは、同社のスコット・ハンター氏(グローバルインフラサービス部門ディレクター)だ。

 AstraZenecaは「オンプレミスをクラウドで補強する」方法を選択した。ハンター氏によると、同社はKubernetesをさまざまなパブリッククラウドに拡張している。これにより、クラウドを利用しながら一貫性を確保することができる。

 「GPUの『NVIDIA A100』で実行するなら、それをホストする『Google Cloud Platform』か『Oracle Cloud』を利用する。FPGAを利用するなら『Microsoft Azure』か『Amazon Web Services』を使うことになるだろう。究極のスケールを求めるなら、一式をAzureで稼働させることになる。Azureが最速ではないとしても、利用できるGPU数が最も多いと思うからだ」(ハンター氏)

 AstraZenecaがクラウドベースのHPCに移行しない理由は純粋にコストにある。

 「同種のアクティビティーを実行する場合、オンプレミスの方がクラウドよりも5〜7倍安価だ」とハンター氏は話す。

 AstraZenecaでクラウドベースのHPCに関連するコストが高くなる理由は、倍精度の化学ワークロードを多数操作するためだ。こうしたワークロードは24時間365日稼働するものが多い。

 「大手パブリッククラウドベンダーやOracleからかなり有利な条件を取り付けない限り、オンプレミスはコストの点で当然の判断だ」(ハンター氏)

 F1チームのMcLaren Racingもクラウドを併用するモデルでオンプレミスHPCを運用している。

 「クラウドは非常に重要だが、それと同じくらいパフォーマンスと遅延が重要だ。著名なクラウドで膨大な量のサービスをスピンアップしているが、オンプレミスにあるHPCを利用しなければならない。クラウドとオンプレミスのバランスは取れている」と話すのは、McLaren Racingのエド・グリーン氏(プリンシパルデジタルアーキテクト)だ。

 高いパフォーマンスが必要なワークロードは、そのために構築されたオンプレミスシステムの方がより効率的であるという想定に基づいている。とはいえ、McLaren RacingはクラウドベースのHPCの利用を増やすことも検討している。

 「ワークロードは、レースウイーク中はあまり変化しない。レースカーがコースに出た瞬間に多くのデータが届き始め、ワークロードも増え始める。こうした分野の新しいモデルを検討することは、今後非常に興味深くなる可能性がある」とグリーン氏は話す。

後編では、オンプレミスからクラウドベースのHPCに移行した事例を紹介する。

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