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無線LANと根本的に違う「ローカル5G」 その差を埋めるO-RANの役割「ローカル5G」活用の可能性を探る【前編】

企業にとって「ローカル5G」は新たなIT領域だ。無線LANのような広く使われてきたネットワークとは根本的に異なる。活用に向けた道筋を探る。

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 「5G」(第5世代移動通信システム)をパブリックな通信サービスとしてではなく、プライベートなネットワークとして利用する「ローカル5G」は、大半の企業にとって新しい領域のITだ。従来、移動通信は基本的に通信事業者がインフラを構築、運用してきたため、ユーザー企業が移動通信のネットワークインフラについて詳細に知る必要はなかった。

 ローカル5Gを自組織のプライベートネットワークとして導入する場合は、移動通信事業者に任せてきた事柄をユーザー企業自らが担わなければならない。これにはサーバやLANの運用とは異なる背景知識が求められる。そのためローカル5Gの運用を検討するユーザー企業は、新たに移動通信に関する基本的な知識や運用ノウハウを蓄積する必要がある。とはいえ、それ以前にローカル5Gが企業のIT領域でどれだけ汎用(はんよう)的に利用できるようになるのだろうか、という疑問もある。

 2019年末に総務省がローカル5Gの免許制度を開始した。いち早くローカル5Gの無線局免許を取得した事業者が実証実験などの試験的な取り組みを進めている段階であり、サービス提供側もユーザー企業側も“様子見”の状態と言った方が現実に近い。制度は整ったものの、より広くユーザー企業が利用できるようになるまでには課題がある。無線通信分野に詳しい情報通信総合研究所(ICR)の上席主任研究員を務める岸田重行氏は「ローカル5Gが普及するには導入コストが下がらなければならない」と指摘する。

無線LANとは出自の異なる「ローカル5G」

 ローカル5Gの活用が進展するまで、もう少し時間がかかる可能性がある。その理由について岸田氏は、移動通信の進化が通信事業者向けの技術であることを前提にしていた点を指摘する。

 無線LANや通信事業者が提供する移動通信サービスの歴史を考えれば、ローカル5Gはまだ始まったばかりだ。無線LANの規格である「IEEE 802.11」シリーズは、個人や企業がプライベートなネットワークを構築するための技術として1990年代後半に標準化し、企業のオフィスや敷地で幅広く使われてきた。移動通信の歴史は無線LANよりもさらに古いが、一般的な企業が使う技術という観点では異なる。「移動通信は都市など広い範囲の通信をカバーするために開発されてきた。そもそもプライベートな利用は重視してこなかった」と岸田氏は話す。通信機器も大抵は通信事業者に納品することを前提にしているため、汎用(はんよう)的な機器よりも高い処理性能や信頼性が求められ、開発や部品のコストが高額になりがちだ。

 通信事業者が提供する移動通信サービスは、基本的には多くのユーザーの端末をつなぐことが前提になる。ただし企業がローカル5Gを必要とする場合は、必ずしも多くの端末を同時に接続する用途だけではない。「用途や規模に応じてコストも柔軟に調整できれば理想的だ」と岸田氏は話す。

O-RAN

 ローカル5Gの将来的な活用を考える上で、期待できるのがオープン化の動きだ。移動通信のインフラは、ネットワーク全体を制御する「コアネットワーク」と、端末との通信を担う基地局機能を形成する「無線アクセスネットワーク」(RAN)に大きく分かれる。通信事業者や関連ベンダーなどが参画する業界団体O-RAN ALLIANCEが、RANを構成するコンポーネント間の標準インタフェース仕様「O-RAN」(Open Radio Access Network)を策定し、普及に向けて取り組んでいる。

 従来、移動通信の通信設備は特定ベンダーの専用機器で組むことが通常だった。特定ベンダーの機器に依存せずにRANを構築できるようにすることがO-RAN ALLIANCEの大きな目的の一つだ。標準的な仕様を公開することで、異なるベンダーの機器同士の相互運用性を確保し、さらに専用機器ではなく汎用のハードウェアを用いて構築できるようにすることを目指している。

 O-RAN ALLIANCEは通信事業者のRANのオープン化を目的としている。ローカル5Gのコストを抑制する方向性も、基本的にはO-RAN ALLIANCEの方向性と同じだ。インタフェースが標準化すれば汎用のサーバを使ってRANを組むことも可能になる。「後は電波を扱う部分(アンテナ)をいかに組み合わせて全体のコストを抑制するか、という話になる」(岸田氏)


 企業がローカル5Gの導入や運用を検討するに当たっては、コストだけでなく人材も問題になる。無線LANやルーター、スイッチに精通したネットワーク管理者はいても、移動通信分野のスキルがある人材は一般的な企業にはほとんどいないと考えられる。総務省が定める「ローカル5G導入に関するガイドライン」では、ローカル5Gの基地局を運用するに当たって、特定の周波数帯の無線を扱うことができる「第三級陸上特殊無線技士」(三陸特)の有資格者が必要となっている。

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