医療機関がポイントソリューションを導入してしまう理由:医療機関のデジタル化【前編】
治療の改善やコストの削減を実現するにはデータを統合的に分析する必要がある。にもかかわらず、医療機関は特定の機能に限定されたポイントソリューションを導入してデータの統合に苦労している。なぜか。
医療機関はデータを掘り下げて患者のアウトカム(治療成果)を改善し、医学研究を進め、地域医療ネットワークの無駄を削減してきた。パンデミックでデジタル化が強化され、新型コロナウイルス感染症の治療やワクチンプログラムのサポートに利用できる貴重なデータが開放されるにつれ、こうした傾向は続いていくだろう。
関連記事
- 明暗が別れた2つのビッグデータ活用プロジェクト、どうしてこうなった
- 死蔵しているデータを活用する方法
- ビデオ会議システムで医療技術の習得と普及を目指す南アフリカの小児科病院
- 機器の低価格で開かれた仮想現実(VR)の医療利用
- ウェアラブルとビッグデータで医療を変えるマイケル・J・フォックス財団とIntel
ただし、大半の医療機関がデータ分析に使っているのは範囲が限定されたポイントソリューションだ。そう話すのは、医療データおよび分析プラットフォームプロバイダーHealth Catalystのファルハナ・ナックフータ氏(アジア太平洋地域担当シニアバイスプレジデント)だ。
同氏は本誌のインタビューに答え、医療機関の分析導入状況、企業規模のアプローチを採用する重要性、分析戦略において医療機関が直面する課題を語った。
――Health Catalystについて、そして他の医療分析ソリューションとの違いについて教えてください。
ナックフータ氏:当社は2008年に設立され、米ユタ州のIntermountain Healthcareに最初のデータウェアハウスを構築した。医療システム全体からデータを集め、そのデータを分析に活用するのが目的だった。それ以来、約500の病院と約5000の診療所にまたがる100の医療システムに協力してきた。
当社は臨床、経営、財務を問わず、成果の改善を重視している。機械学習を取り入れたとしても、成果が改善せず大幅なコスト削減も実現できなければ投資効果が数値化されないからだ。データによる成果を改善するアプローチに分析を使っただけで、年間で最大1億ドル(約110億円)のコストを削減したクライアントもある。
現在、アジア太平洋地域ではポイントソリューションが広く使われている。それではこうした削減は不可能だ。リソースを最適化するには、患者の安全やサプライチェーンを全体的な視点から検討しなければならない。
ポイントソリューション
――医療機関がポイントソリューションを選択しているのはなぜでしょうか。特定の部門が分析戦略を推進することによってサイロ化しているのでしょうか。それともプロバイダーが特定のユースケース用ソリューションを開発することが多いという業界の性質によるものでしょうか。
ナックフータ氏:その両方だと考える。画像処理ツールを必要とする放射線科医がいて、画像を読み取り、異常を特定するというポイントソリューションが生まれる。その組み合わせが原因だろう。
当社が考える医療分析のアプローチには、ベストプラクティス、分析、採用の3つの構成要素がある。だが世界の医療分野のサプライヤーを見ると、そのほとんどがポイントソリューションだ。3つの構成要素をまとめて成果の改善を促すアプローチは存在しない。
ある病院で健康な50歳の患者が膝関節置換手術を受け、その後3日間入院したとする。同様の特性を持つ患者の平均入院期間は1日だった。このような場合、当社のシステムはその病院の整形外科の治療プロセスを調べて、入院期間を2日短縮する方法を確認できる。
入院期間を短縮すればコストを削減し、治療成果を改善できる。大半のサプライヤーはベンチマークによる分析やベストプラクティスだけを重視しており、当社のように3つの構成要素全てを統合しているサプライヤーはほとんどない。
当社のアプローチを取れば、医療機関はコストを最低限に抑えながら最高の治療を行い、最善の治療成果を得ることができる。特定の問題を解決するために分析を検討することは多い。だが、コストがかかっている最大の問題を検討するために医療システム全体を考えることはない。
後編では、医療データのデジタル化やデータの一部からでも始められる改善について解説する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.