「ハイパフォーマンスコンピューティング」(HPC)の利用可否を考える3つの要件:自社の「HPC」構築に必要な視点【中編】
HPCが自社に適しているかどうかを判断するには、どのような要件を検討すればいいのだろうか。ハードウェア、ソフトウェア、施設の3つの視点で考える。
「ハイパフォーマンスコンピューティング」(HPC)のクラスタを自社のデータセンターに構築する際、下記3つの要件を検討することが欠かせない。
- コンピューティング用のハードウェア
- クラスタを構成するソフトウェア
- 上記2つを収容する施設
細かな要件はHPCの導入規模によって異なる。どのような点を検討すべきなのか。
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HPC向けのプロセッサとは
コンピューティング用ハードウェアの要件
HPCのクラスタを構築するにはサーバとストレージに加え、専用のネットワークが必要だ。このネットワークは日常業務のLANとは別に用意する。
クラスタ専用のネットワークは、ギガビットイーサネットの規格に準拠したNIC(ネットワークインタフェースカード)やスイッチ、高帯域幅のTCP/IPのネットワーク機器などを使用する。サーバとスイッチの数は、クラスタの規模や各サーバの役割によって変わる。
HPCを初めて導入する企業は、数ラック程度の規模から開始して、徐々にクラスタをスケールアウトさせることが一般的だ。プロセッサとストレージのスペックが高いハイエンドのサーバを利用すると、必要なサーバとスイッチの数を抑えることができる。
クラスタを構成する際は「Apache Hadoop」など分散処理のフレームワーク(特定の設計思想に基づくプログラム部品やドキュメントの集合体)を使用する。Apache Hadoopはサーバが1台であっても実装可能だ。ただしクラスタを構成する際は、最低でもプライマリーノード、ワーカーノード、クライアントノードという3つのサーバを使用する。そのシンプルな構成から拡張すると、複数のプライマリーノードを備える構成になる。各プライマリーノードはそれぞれ多数のワーカーノードを管理する。通常はサーバ仮想化によって、クラスタのサーバ数を増やす。
ソフトウェアの要件
HPCのクラスタを成熟させるには、クラスタの管理機能が充実したソフトウェアを使用する必要がある。Bright Computingの「Bright Cluster Manager」や、オープンソースソフトウェア(OSS)の「OpenHPC」などは、以下のクラスタ管理用の各種ツールを搭載している。
- プロビジョニングツール
- 監視ツール
- システム管理ツール
- リソース管理ツール
- MPI(Message Passing Interface)ライブラリ
- 数学ライブラリ
- コンパイラ
- デバッガ
- ファイルシステム
Apache Hadoopは下記のコンポーネントを含んでおり、これらが上記の各ツールと似た役割を担う。
- 分散ファイルシステム「HDFS」(Hadoop Distributed File System)
- Apache Hadoopのユーティリティー群「Hadoop Common」
- 分散処理を管理する「Hadoop MapReduce」
- リソースの管理やスケジューリングを担う「YARN」
HPCの利用においては計算結果を担当者に示す出力が必要だ。出力は「視覚化」「モデリング」「レポート」といった形を取る。下記のソフトウェアは、Apache Hadoopのデータを視覚化する機能を提供する。
- Hunk
- Platfora
- Datameer
Apache Hadoop以外の分散処理フレームワークで利用可能な視覚化のソフトウェアとしては下記がある。
- Jaspersoft
- Pentaho
- BIRT
- IBM Cognos Analytics
- QlikView
- Rshiny
- D3.js
- Highcharts
施設の要件
施設がHPCの大きな制約要因になる可能性がある。HPCを実装するには、サーバラックを設置する床面積と床の耐荷重、電力、熱の冷却機能などが重要だ。企業が保有するデータセンターのインフラによっては、床面積や冷却機能の不足を理由に十分な数のサーバを追加できない。
床面積を節約する方法としては、「ハイパーコンバージドインフラ」(HCI)を使う手段もある。ただしHCIは電力密度が高くなりやすいため、サーバラック内に「高温スポット」が発生すると冷却に問題が生じてしまう。
HPCを導入するに当たっては、システムの電力要件と冷却要件、データセンターの設備の性能を対比させながら慎重に検討しなければならない。自社の施設がHPCを導入するには不十分だという場合は、自社構築の代替案を探る必要があるだろう。
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