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AWS、Azureとオンプレミスの違いが生む問題と、統合運用管理ソフトの使い道「統合運用管理」の基本と進化【第3回】

オンプレミスシステムを運用してきた企業がAWSやAzureなどのクラウドサービス利用で直面する問題と、JP1やHinemosなどの統合運用管理ソフトウェアが役立つポイントを考える。

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 昨今は「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」などのクラウドサービスをシステム運用に用いる企業の動きが顕著だ。これに応じて、統合運用管理ソフトウェアを提供するベンダーもクラウドサービスの運用管理を重点的な分野に位置付けている。

 クラウドサービスを利用する場合、企業はオンプレミスシステムとクラウドサービスの混在による運用の複雑化や、クラウドサービスの機能不足などの問題にぶつかる可能性がある。そうした場合に統合運用管理ソフトウェアはどのような点で役立つのか。第2回「『JP1』と『Hinemos』の歴史で考える企業ITと統合運用管理の移り変わり」と同様に、日立製作所の「JP1」とNTTデータ先端技術の「Hinemos」を例にして考える。

複雑化するシステムの一元管理

 クラウドサービス利用における統合運用管理ソフトウェアの基本的な役割の一つは、ハイブリッドクラウド(オンプレミスシステムとクラウドサービスの混在システム)やマルチクラウド(複数のクラウドサービスの混在システム)など複雑化するシステムを統合的に監視、管理することだ。AWSは「Amazon CloudWatch」、Azureは「Azure Monitor」という独自のシステム監視ツールを備えているが、これらは個々のクラウドサービス内のリソースのみが監視対象となる。

 「JP1/Integrated Management 2」やHinemosなどの統合運用管理ソフトウェアは、クラウドサービスの監視ツールからリソースの稼働情報やログを取得して一元管理が可能だ。単一のクラウドサービスだけではなく、オンプレミスインフラやその他のクラウドサービスでもシステムを運用している場合は運用管理が煩雑になってしまうため、統合運用管理ソフトウェアでまとめて管理することによる効率化が見込める。

 統合運用管理ソフトウェアが備えるログのフィルター機能を使うことで、AWSやAzureで発生するログの確認作業を効率化することもできる。JP1/Integrated Management 2の場合はイベント(システム稼働状態の変化)が大量に発生する「イベントストーム」の状況において、確認が必要な情報だけに自動集約する機能を搭載する。

 オンプレミスシステムとクラウドサービスにおけるジョブ(コンピュータによる業務の処理)実行を一元的に管理することも統合運用管理ソフトウェアが担う基本的な役割だ。

クラウドサービスのコスト管理

 統合運用管理ソフトウェアの活用方法としては、オンプレミスシステムとクラウドサービスの違いから生じる問題がポイントになる。例えば従量課金制のクラウドサービスは必要な分だけ料金を支払えばよいことがメリットだが、必要のない時間帯に稼働した分は余分なコストになってしまう。NTTデータ先端技術でHinemosの営業を統括する渡邉重明氏は、統合運用管理ソフトウェアの業務カレンダーに沿ったジョブ実行機能を活用することでかなりのコスト削減が見込めると説明する。

 AWSを例にすると、仮想マシンサービス「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)の料金は、基本はインスタンス(仮想マシン)数と稼働時間によって発生する。不要な時間帯は停止させることで余分なコストを削れる。Hinemosで業務カレンダーに沿ってEC2のインスタンスの稼働と停止を自動的に実施した場合、単純計算で次のようになる。常時稼働と比較して、仮に土日に停止させた場合は約30%、さらに月曜から金曜の稼働時間を8時〜24時に限定した場合は約50%の料金を削減できる。インスタンスの稼働に合わせて監視などの機能も使用している場合は、同時に停止させることでその分のコストも削減可能だ。

オンプレミスとは異なる可用性確保の手法

 コストの仕組みの他にも考慮が必要な点はある。渡邉氏は、特に基幹系システムをクラウドサービスで運用する際の注意点として可用性の確保を挙げる。オンプレミスインフラではシステムの可用性を確保するために、本番用サーバと待機用のサーバ、その両方から参照可能な共有ストレージを用意してHAクラスタ(HA:自動フェイルオーバー)構成を採用する企業がある。想定外のシステム停止を避けなければならない基幹系システムでは重要な仕組みだ。ただし、この構成はクラウドサービスではそのまま採用できない可能性がある。

 AWSを例にすればAZ(アベイラビリティーゾーン)というデータセンターの規模で発生する障害があり、そうした大規模障害を前提にして可用性を確保することが重要だ。しかしこうしたクラウドサービスのデータセンターをまたぐ構成でHAクラスタを組むのは簡単ではない。共有ストレージとしてどのクラウドストレージサービスを使い、それが障害発生時のHAに利用できるのかどうか、サーバ切り替え時におけるIPアドレスの付け替えが正常に機能するのかどうかなど複数の問題を乗り越えなければならず、オンプレミス同様にHAクラスタを組むことはできない。この問題に対して、Hinemosの場合は「Hinemosマネージャ」(Hinemosの運用管理サーバ)を異なるインスタンスに設置し、自動的にデータを同期する「ミッションクリティカル機能」によって共有ストレージを使わずに可用性を確保する方法を提供している。

 ただしこれは統合運用管理ソフトウェアに共通する機能というよりはHinemos独自の手法であるため、他の統合運用管理ソフトウェアを使う場合は異なる手法を検討する必要がある。

ハイブリッドクラウドにおけるジョブ連携

 日立製作所が2021年1月に発売したJP1のversion12.5は、オンプレミスインフラとクラウドサービスを適材適所で使い分けるハイブリッドクラウドの運用を前提にした機能を追加した。業務自動化ツール「JP1/Automatic Job Management System 3」(JP1/AJS3)に搭載した「クラウドサービス連携ジョブ」という機能だ。クラウドサービス連携ジョブは、サーバレスオーケストレーター「AWS Step Functions」などのAWSの機能を制御し、オンプレミスインフラとAWSにまたがる処理を業務カレンダーに従って自動的に実施する。例えばオンプレミスインフラでデータを収集し、AWSでデータの可視化と解析をしてオブジェクトストレージ「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)に保存、さらにオンプレミスインフラにそのデータを送って活用する、といった使い方ができる。こうした一連の処理を作り込むことなく標準機能として利用できるようになった。

 今後クラウドサービスの利用が広がると同時に、こうしてデータやシステムをオンプレミスインフラに残しつつ、クラウドサービスの機能を活用するハイブリッドクラウドを運用する企業が増える可能性がある。一方で問題になるのはオンプレミスシステムと同様にはジョブ実行を制御できない可能性があることだ。日立製作所で主任技師を務める横山卓三氏は、特に国内企業においては業務カレンダーに沿ったジョブ実行のニーズが高いと指摘する。ただし一般的にクラウドサービスは組織ごとの業務カレンダーに沿ってジョブを制御する機能は備えていない。そのため、この点も統合運用管理ソフトウェアの活用をクラウドサービス利用時に検討する重要なポイントの一つになると考えられる。

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