“脱クラウド”するしかない5つの納得の理由:これはオンプレミスがベスト
クラウドファーストのうたい文句に踊らされてクラウド移行しても、課題が解決するとは限らない。本記事のどれかに当てはまったら、やるべきことは“脱クラウド”だ。
Forrester Researchは、パブリッククラウド市場は2021年中に35%成長して1200億ドル(約13兆6300億円)に達すると予想している。この成長を促すのがコロナ禍であり、特にクラウドベースのバックアップ&リカバリーへの移行だという。
だが、クラウドが全てに応えてくれるわけではない。場合によってはワークロードやデータをクラウドからオンプレミスに戻す必要があると考える企業もある。つまり脱クラウドだ。
今のところ、データの脱クラウドを進める企業は少ない。だが検討しておきたい。財務上、実用上、規制上、データをオンプレミスに戻すことになる可能性がある。
1.コスト削減
クラウドがオンプレミスよりも安価になるとは限らない。また、価格は変化する。プロバイダーが値上げすることもあれば、要件が変わることもある。クラウドコストを過小評価していることも多い。
ストレージリソースやコンピューティングリソースをオンデマンドまたは従量制課金で利用している比率が高いと、請求額は大きくなる。想定するストレージ要件では瞬く間に予算を超過することに気付くことは多い。オンプレミスなら、使用率によってコストが変わることはほとんどない。
クラウドは、利用するサービスが増えるほどコストも高くなる。データのエグレス、セキュリティツールや管理ツールなどの関連リソースのコスト、データベースの書き込み回数などにも当てはまる。
クラウドプロバイダーが料金を引き上げる場合、契約によっては急激なコスト増に直面する恐れがある。オンプレミスの方が経済的な可能性もある。
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2.セキュリティと規制
クラウド移行を適切に計画していれば、規制要件がクラウドからデータを戻す理由になることはない。適切なセキュリティポリシーに従ってシステムを正しく設定していれば、パブリッククラウドがオンプレミスよりも危険だという理由はない。
残念だが、それがいつも当てはまるとは限らない。パブリッククラウドプロバイダーがセキュリティ障害を引き起こすことはめったにない。だが顧客が構成を誤ることも珍しくはない。
パブリッククラウドプロバイダーは政府や業界の規制に対応している。ほんの数例だが、HIPAA準拠データやPCI DSSのデータを分類できるクラウドサービスもある。
だが多くの場合、最大の懸念はデータの場所だ。大手クラウドプロバイダーはストレージに特定の地理的ゾーンを用意するようになった。それでもオンプレミスやローカルデータセンターにデータを配置する方が適切だと判断したり、再配置を余儀なくされたりすることがある。
PA Consultingのアダム・ストリンガー氏(ビジネスレジリエンス専門家)は言う。「ワークロードをクラウドに移す際、規制が大きな障壁になるというのは誤解だ。規制当局は他の外部委託契約と同様の厳格さを求める。だが規制が厳しい業界の企業がクラウドに移行して成功している例は多い」。重要なのは慎重な計画だと同氏は話す。
規制に関連するさらなる課題は捜査に由来する。規制当局、法執行機関、裁判所が広範なデータフォレンジックを要求する場合、クラウドではそれが不可能または非常に高額になる可能性がある。これへの対策はデータを社内に戻すことだ。
3.遅延とデータ重力
クラウドが提供するストレージ容量はほぼ無制限だ。だがインターネット接続に左右されるので遅延が生じる。
バックアップ&リカバリー、メール、オフィス生産性ツールなど、遅延がそれほど気にならないアプリケーションもある。だがリアルタイム分析、データベース、セキュリティアプリケーション、センサーやIoT(モノのインターネット)に接続されるアプリケーションなど、遅延が問題になるワークロードもある。データソース、ストレージ、コンピューティングリソースとエンドユーザー間の遅延やクラウド内のサービス間の遅延(クラウド内部の遅延)を考慮する必要がある。
遅延を低減する技術(エッジコンピューティング、キャッシュ、ネットワーク最適化など)もある。だがもっと簡単な解決策は、データを社内に戻して通信経路を短くし、アプリケーションやワークロードに合わせてストレージ、コンピューティング、ネットワークを微調整することだ。
遅延の問題を回避するということは、データの重力の問題だ。大半のデータがクラウドに存在し、クラウド内で処理されるのであればデータの重力は問題にならない。データがクラウドとオンプレミスのストレージリソースやコンピューティングリソースの間で絶えず交換されているのであれば、何か問題がある。
4.計画が不十分なクラウド移行
クラウドは期待通りではなかったという理由で脱クラウドに向かう企業もある。Forresterのナビーン・チャブラ氏によると、それは「面目を保とう」としているだけかもしれない。「その場合、アーキテクチャ上すべきではないのにアプリケーションを変えようとしている」
ワークロードがクラウドに適していないか、クラウドへの移行が正しく計画されていないか、クラウドへの移行が適切に実行されていない可能性がある。PA Consultingのストリンガー氏は、「データアーキテクチャが混乱しているのにそれをクラウドに持ち込めば、クラウドが混乱するだけだ」と言う。クラウドに移行するだけで設計上の問題が解決するわけではないと同氏は補足する。
「アーキテクチャ上の厳格さはオンプレミスと同様、クラウドデプロイでも重要だ。それを理解しなければ、オンプレミスに戻さざるを得なくなるだろう」(ストリンガー氏)
それは脱クラウドの方が容易だったり問題が解決したりするという意味ではない。だが、少なくとも状況をリセットし、何が悪かったのかを分析して将来より効果的にクラウドを利用するための計画を練り直す機会にはなる。
5.プロバイダーの障害
プロバイダーの障害は脱クラウドを促す究極の理由になる。顧客に選択の余地はない。企業がデータを取り戻すか別のプロバイダーに移動するための注意事項や現実的なタイムスケジュールをそのプロバイダーが提供するかもしれない。
だが、プロバイダーは予告なく取引を停止する恐れがある。技術的または環境上の問題でプロバイダーが予告なく運用を強制停止する可能性もある。そうした場合に備えて、データのコピーをオンプレミスや別のクラウドに保管する必要がある。
幸い、プロバイダーが完全に機能停止することはほとんどない。だが、最近起きたクラウドの停止から得た経験から、データのセキュリティを確保し、取得する方法を計画しておく必要がある。少なくとも新たなキャパシティーを調達できるまでは、オンプレミスがリカバリー計画の中心になる可能性が高い。
「ワークロードをクラウドに移行するに当たっては、それが顧客向けサービスの回復力向上に寄与するかどうかを自問する必要がある。コストを削減するためだけに移行すると、回復力を構築するオーバーヘッドがその削減メリットを相殺する恐れがある」(ストリンガー氏)
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